「失踪宣告」。日常生活ではあまり聞くことのない言葉ですが、相続の際に関係してくることがあります。「失踪」には2種類ありますが、今回はそれぞれの失踪の内容や違い、相続にどのように影響するかについてお伝えします。

普通失踪とは

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(画像=Burdun Iliya/Shutterstock.com)

失踪宣告とは、長期間行方がわからない人や、亡くなっている可能性が極めて高いが生死が不明な人(失踪者)について、その人の配偶者や相続人など(利害関係人)が家庭裁判所に申立てすることによって、その人が法律上死亡したと見なす制度です。

この制度は、行方不明の状態が長期間続くと、失踪者の預貯金・不動産などの財産や様々な権利関係などが宙に浮き、実質的に凍結状態となってしまうため、それを回避するためにあります。

失踪宣告のうち「普通失踪」については、民法で以下のように定められています。

(失踪の宣告)
第三十条 不在者の生死が7年間明らかでないときは、家庭裁判所は、利害関係人の請求により、失踪の宣告をすることができる。

普通失踪は、行方が分からなくなってから7年間生死が明らかでない場合、申立てが認められれば、下記の通り失踪から7年を経過した日が、失踪者が死亡した日となります。

(失踪の宣告の効力)
第三十一条 前条第一項の規定により失踪の宣告を受けた者は同項の期間が満了した時に、同条第二項の規定により失踪の宣告を受けた者はその危難が去った時に、死亡したものとみなす。

特別失踪(危難失踪)とは

もう一つの「特別失踪(危難失踪)」については、民法で以下のように定められています。

(失踪の宣告)
第三十条
2 戦地に臨んだ者、沈没した船舶の中に在った者その他死亡の原因となるべき危難に遭遇した者の生死が、それぞれ、戦争が止んだ後、船舶が沈没した後又はその他の危難が去った後1年間明らかでないときも、前項と同様とする。

こちらは不幸にして戦争・船舶事故・航空事故等の「危難」に遭ってしまった場合、その危難が去った後1年間生死が明らかでない場合に申立てをすることができます。申立てが認められれば、前述の民法第三十一条により、危難が去った日が死亡日となります。

相続にはどのように関係してくる?

失踪宣告の申立てが行われた後は、多くの場合家庭裁判所の調査官によって申立人や失踪者の親族などに対して調査が行われます。

その後、失踪者に対しては生存の届け出を行うことを、また失踪者の生存を知っている人に対しては届け出をすることを、普通失踪は3ヵ月以上、特別失踪(危難失踪)は1ヵ月以上官報や裁判所の掲示板で催告を行います。

そして、その期間に届け出がなかった場合は失踪宣告が行われます。その後、申立人が10日以内に市区町村役場に失踪の届け出を行い、失踪者の戸籍に失踪宣告されたことが記載され、失踪宣告の手続きが完了します。

失踪宣告の手続きが完了すると失踪者は死亡したと見なされるので、当然ながらその人についての相続が開始することになります。ただし、前述の通り普通失踪の場合には失踪から7年後、特別失踪(危難失踪)の場合には危難が去った日が死亡日になるので、「死亡日」時点の相続人は失踪宣告の手続きが完了した時点のそれとは違う可能性があります。

失踪者本人の相続以外にも、その失踪者の配偶者などに相続が発生した場合、相続税申告期限の関係上、失踪宣告の手続きが完了する前に遺産分割を行うケースも考えられます。このような場合、「不在者財産管理人」を選任して申告を行うこともできますが、失踪宣告の手続きが完了した後改めて申告をし直す必要も出てきます。

このように、失踪宣告によって定められた死亡日やその時点の相続人が誰なのかによって、代襲相続や数次相続など、相続に関する権利関係や手続きが複雑になる可能性があります。

失踪宣告は、行方が分からない、生死が不明な人を手続きによって亡くなったと見なす制度であり、その人の周りの相続人などに様々な影響を及ぼす可能性があります。申立てには十分な知識と配慮が必要なため、専門家に相談したうえで進めるべきでしょう。(提供:相続MEMO


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