(本記事は、藤井 正徳氏の著書『はじめて「資金繰りに悩む社長」を担当したときに読む本 「経営改善計画」の活用による業績改善コンサルティングの実践手法』セルバ出版の中から一部を抜粋・編集しています)

社長,経営者
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業績不振や資金繰りの悩みは「恥」なのか

中小企業の社長さんの「プライドと孤独」が早期発見を妨げる

多くの中小企業の社長さんにとって、自分の会社はまさに「自分の人生そのもの」です。創業社長であれば、自らが創業資金を調達し、これまで膨大な時間と労力を捧げて、現在の会社を創りあげてきたのです。2代目・3代目の後継社長であれば、今まで親が積み上げてきた歴史と伝統を引き継ぎながら、新たな成長に向けて全力を傾けてきた自負があります。

そんな会社が儲かっていれば「これまでの努力が報われた」と感じることができますが、逆に業績不振で資金繰りにも窮するような状況の場合、「今まで費やした努力は何だったのか」「なぜ、あんなに頑張ったのに結果が出ないのか」という自らのプライドや存在価値に関わるような心理状態に陥っても不思議ではありません。

もちろん、会社にお勤めの方にも、自分が所属する会社や仕事に人生をかけて取り組んでいる方も多いと思います。しかし、例えば会社の業績が悪かったとしても、それがイコール「自分自身の能力や頑張りが足りなかったから」と100%の責任を感じることは稀だと思われます。少なくとも、中小企業の社長さんが負っている責任の範囲と、会社勤めの方の責任の範囲は大きく異なることは事実です。

さらに、中小企業の社長さんは、多くの場合「弱みを見せる誰か」が存在せず、孤独な存在ともいえます。普段から自分を管理監督してくれる上司はいませんし、家族や従業員に弱みを見せても不安がらせて威厳がなくなるだけです。取引先や金融機関に弱みを見せると取引条件に悪影響が出るかもしれませんし、経営者交流会等でも儲かっていなければ尊敬されないと思い込んでいます。

そんな心を癒そうと夜の街にでかけてみても、オネーチャンに気に入られるためには、やはり儲かっている社長さんを演じることになります。否、そうせざるを得ない心理状態に陥るのが普通なのです。

経営改善のコンサルティングに携わる人には、まずそんな社長さんの「プライド」と「孤独」の存在を、まず理解していただく必要があると考えます。会社の現状は自分の人生そのものであり、弱みを見せることへの恐怖感がある…このことが、「自社の悪い決算書を他人に見られるのは、自分の裸を見られるよりも恥ずかしい」という感情を引き起こします。その結果、経営不振の発見が遅れ、業績悪化から資金繰りに窮する状況につながることがあります。

常に「完璧」を求められる中小企業の社長さん

私は、社会人になって16年間、東証一部上場の損害保険会社に勤務していました。本社部門が長かったこともあり、大企業の社長や役員の方々が、どのような仕事をしているかを直接見る機会にも恵まれていました。大企業の社長さんの仕事は、一言で言えば「マネジメントとリーダーシップ」です。

これに対して、中小企業の社長さんの仕事は、一言で言えば「すべて」です。多くの中小企業において、社長自身がナンバーワンの職人であり、ナンバーワンの営業マンです。そのほかにも、人材採用や労務管理、生産管理や仕入管理、外注先との条件交渉、財務会計や資金調達、トラブル対応など、ありとあらゆる場面で「社長だから」という責任感を持って、常に頭と体をフル活用して対応しています。今、流行りの「働き方改革」なんて、中小企業の社長さんには関係ありません。

さらに重要なことは、これらたくさんの仕事のうち、どれか1つでもうまくいかなければ、会社経営全体がうまくいかなくなるということです。どんなに品質のよい製品をつくれても販売スキルがなければ売上になりませんし、どんなに販売スキルがあっても品質が悪ければすぐに売上はなくなります。

クレーム対応ができなければ些細なミスが致命傷になりますし、労務管理ができなければ人材が集まらないばかりか裁判沙汰に巻き込まれるリスクにさらされます。

しかし、いくら社長さんとはいえ、決してスーパーマンではありません。どんなに優秀で個性的な社長さんでも、あくまで皆さんと同じ「普通の人間」です。1人ですべてをカバーしようと思っても得意・不得意は必ずありますし、たまにはミスをすることもあります。会社勤めの方と異なるのは、その不得意やミスが全体業績に与える影響が大きく、ほかの人がカバーするのが難しいということです。

経営改善を支援する前提となる「信頼関係の構築」に向けて

ありとあらゆる場面で「完璧を求められる普通の人間」である社長さんが経営しているのですから、仮に業績不振に陥ったとしても、それ自体は決して恥ずかしいことではないと私は考えています。

事実、私がこれまで携わった経営改善案件においても、すべてにおいてダメな経営者という事例は少なく、よく頑張っているにもかかわらず、全体から見ればごく一部の「不得意なパーツ」がうまく機能しないことが引き金になったケースが多数を占めます。繰り返しますが、経営不振そのものは恥ではありません。

しかし、明らかに経営不振から資金繰りにも影響が出ていて、そのことを経営者自身も認識しているにもかかわらず、何ら対策を打たないことは「恥」であると考えます。このままではよくならないことがわかっていながら対策ができない理由は様々ですが、その大きな要因の1つが、前述の「プライドと孤独」です。よくない状況や弱みを他人に見られることへの恐れや恥ずかしさから、1人で何とかしようとする行動特性があることを、経営改善コンサルティングは理解しなければなりません。

経営改善を支援するためには、まずは社長さんと支援者である我々との間に「心からの信頼関係」を構築する必要があります。コンサルティングというと、偉そうな先生が、生徒である社長さんにズバズバとダメ出しをしながらビシビシ指導するようなイメージを持つ方もいらっしゃるかもしれませんが、そのような関係からは実効性のある計画づくりはできません。

経営改善計画を遂行するのはあくまで社長さん自身であり、社長さんが本心から「やるぞ!」と思えるものでなければ意味がありません。そのためにも、まずはここまで必死で頑張ってきた社長さんの努力に敬意を払い、何らかの理由で困っている現状の心境に共感を示し、「プライドと孤独」の垣根を乗り越えることが第一歩になります。

資金繰りの悩みと業績不振のスパイラルとは

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業績不振と資金繰りの悩みの因果関係

「業績不振が続くと、資金繰りが悪くなる」。…これは、誰もが当たり前だと感じると思います。事実、商売がうまくいかなくなると、損失が発生します。それでも商売を続けるためには、仕入や人件費、家賃等を支払わざるを得ず、その穴埋めのために資金が必要となります。この状態が長く続けば、当然のことながら資金繰りは悪化します。

ここまでは当たり前の話なのですが、経営改善の現場において考慮すべき、より深刻な問題を引き起こすのはその逆のプロセス、つまり「資金繰りが悪くなると、業績が悪くなる」という事実です。

ただでさえ、下降気味の業績を回復させようと思ったら、思考と時間をすべて注ぎ込んでも達成できるかどうか…という難題です。「新規のお客さまを確保するために何をするか」、「お客さま満足を高めるためにどうするか」、「コスト削減のためにできることはないか」など、「現在から将来にかけてどう動くべきか」に全力で集中する必要があります。

しかし、一旦社長さんの頭の中に「資金繰りのお悩み」が出てくると、この商売の課題に全力で集中できない環境に陥ります。金融機関への返済期日、給与振込日、仕入先への支払期日等が迫ってくると、預金残高とにらめっこしながら、「どこからお金を引っ張ってきて、どこの支払いに充てようか」という緊急課題に対応せざると得ません。これは、「過去に確定した事象への対応」にすぎず、これから将来にかけて何ら付加価値を生み出すものではありません。この状態が慢性化してくると、やがて社長さんの頭の中は資金繰りで一杯になります。また、かけがえのない経営資源である社長さんの時間も、資金繰りのために費やされるようになります。

ただでさえ難しい業績悪化からのV字回復という課題に対して、資金繰りのために費やした残り少ない思考力と時間でどこまで実現できるのか…想像していただければおわかりいただけると思います。むしろ、「業績悪化」→「資金繰りに悩む」→「ますます業績が悪化」→(以下繰り返し)という負のスパイラルに陥る危険性のほうが高くなります。

当面の資金繰りの悩みから解放する

以上のことからもうおわかりかと思いますが、既に資金繰り難に陥っている社長さんに、経営改善に関するアドバイスを実践するためには、「当面の資金繰りの悩みから解放してあげること」が重要なステップとなります。社長さんの思考と時間を「V字回復」のために全力で注ぎこめる環境がなければ、どのような素晴らしい戦略と戦術を立案したとしても、それを実行し続けることができません。

とはいえ、給与振込みはよほどのことがないと遅らせることができませんし、仕入先への支払いを遅らせると今後の商売がやりづらくなります。

まず真っ先に考えるべきは、金融機関への支援の依頼、具体的には融資を受ける、あるいは借入金の返済を猶予してもらう等の方策が考えられます。ここでは「資金繰りに悩んでいる間は経営改善が実行できない」、「経営改善を実行するには当面の資金繰りの悩みからの解放が必要」ということを覚えておいてください。

【業績不振の負のスパイラル】

はじめて「資金繰りに悩む社長」を担当したときに読む本
(画像=はじめて「資金繰りに悩む社長」を担当したときに読む本)

資金調達だけでは何の解決にもならない

私が仕事として、経営改善支援事業に取組み始めた当初の頃の話です。やはり業績不振からくる資金繰りのお悩みを抱える婿養子の2代目社長さんの相談に乗った際、経営改善計画策定とともに返済条件変更の交渉を支援させていただき、無事に金融機関からの協力を取りつけることができました。

しかし、目先の返済負担が減ったことにすっかり安心した社長さんは、経営改善計画で「やる!」と宣言したはずのアクションプランを、なんだかんだ「できない理由」をつけてやらないことが散見されるようになりました。この案件では、私は事業面のみを担当する補助的な役割であったため、その後の業績推移について詳しいことはわかりませんが、メイン担当の税理士先生からは相変わらず赤字が続いているとの報告を受けています。

その当時は、「なぜ自分で宣言したことを実行できないのか⁉」、「自分の会社なのに、なぜ真剣になれないのか⁉」と、その社長さんを責める気持ちになっていました。しかし、数多くの案件を経験した今では、その考え方では「経営改善のプロ」として失格だと思っています。

さきほど「資金繰りに悩んでいる間は経営改善が実行できない」とお伝えしました。これは、「激痛に苦しんでいる患者さんを相手に手術をすることは不可能である」ということと同じです。激痛に苦しんでいる患者さんを相手に手術をするためには、「適切な麻酔」を打たなければなりません。

この麻酔に当たるのが「当面の資金繰りのお悩みを解消するための金融支援」です。しかし、麻酔で痛みを抑えても、それは根本的な治療にはなりません。それどころか、「とりあえず苦しくないこと」が原因で治療が遅れるのであれば、かえって逆効果にもなりうる危険性を有しています。麻酔と麻薬は紙一重なのです。

資金がなくなるということは、社長さんにとって耐えがたい苦痛です。その苦痛から逃れたいという一心で、普段なら見向きもしないような「怪しげな商工ローンのFAXDM」に引っかかることもあるのです。そのような苦痛から逃れた瞬間、「とりあえず苦しくないこと」で気が緩むのは当たり前のことであるという前提条件で臨むことが肝要です。麻酔が効いたらすぐに根本的な手術や治療に取りかかること、あくまで治療こそが目的であり麻酔は一時しのぎにすぎないことを、着手前に社長さんとしっかり話し合っておかなくてはなりません。

はじめて「資金繰りに悩む社長」を担当したときに読む本
藤井 正徳
昭和49年10月生まれ、山口県萩市出身。神戸大学経済学部を卒業後、保険会社に入社し16年間勤務した後、経営コンサルタントとして独立創業。創業から1年後に至誠コンサルティング株式会社を設立。「経営の救命救急士」として年間12件以上の経営改善・事業再生プロジェクトに携わり、全ての案件で金融支援を成功させている。商工会議所・商工会からの受託事業等で延べ500社以上の経営相談に対応し、金融機関・商工会議所・商工会等の主催セミナーの講師としても年間12件以上登壇。2019年に岡山県経営コンサルタント事業協同組合専務理事に就任し、他の専門士業とのネットワークを活用した幅広い経営支援を展開している。

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