(本記事は、藤井 正徳氏の著書『はじめて「資金繰りに悩む社長」を担当したときに読む本 「経営改善計画」の活用による業績改善コンサルティングの実践手法』セルバ出版の中から一部を抜粋・編集しています)

窮余の資金繰り改善手段としてのリスケとは

リスケジュールとは、金融機関からの借入の条件を変更することです。英語のReschedule(スケジュールを再度立て直すこと)からきており、一般的にはリスケという略称が使われています。具体的には、毎月の返済金額を減らしてもらう、あるいは元本返済を一定期間猶予してもらう等の対応を金融機関に要請することです。私の場合、経営改善計画策定の約7割以上は、「新規のリスケ申込」あるいは「現在のリスケの更新(期間延長)」を金融支援として要請しています。

資金繰りが厳しく、業績が悪くて金融機関からの新規融資を得ることも難しいケースで使われる手段です。例えば、毎月100万円の元本返済をしている企業で、仮に1年間元本返済を猶予するリスケを申し込んで承認された場合、新規融資を受けることが不可能でも年間で1200万円のキャッシュフローを生み出すことができます。

このキャッシュがあれば、たちまち潰れることはなくなりますし、業績回復のための元手として使うこともできます。このように、リスケには金融機関への返済が楽になって、資金繰りが改善する効果を得られるメリットがあります。

リスケのデメリットとは

このように、業績悪化のため融資という手段が難しい企業にとって、事業継続のための窮余の策として有効なリスケですが、その一方でデメリットもあります。最も大きなデメリットとして、リスケを行っている間は、ほぼすべての取引金融機関からの新たな融資を受けることが極めて困難となることです。

金融機関では、企業の財務状況、資金繰り、収益力等により、返済の能力を判定して、その状況等により債務者を正常先、要注意先、要管理先、破綻懸念先、実質破綻先及び破綻先に区分して管理をしています。この格付によって、お金を貸すか貸さないか、金利をどのレベルに設定するかを決めています。

格付に応じて、融資残高の一定割合を「貸倒引当金」という費用勘定で計上しています。きちんと条件どおりに返済が進んでいればほとんどの場合は「正常先」となり、引当金の繰入率も低く抑えられます。

しかし、リスケに対応して「要管理先」の不良債権とみなされると、この引当金の繰入率が一気に高くなります。つまり、金融機関としてはリスケに応じると、利息をはるかに上回る引当金を積まなければならないため、金融機関の決算書に損失を与えることになるのです。このため、要管理先に区分されてしまうと新規の融資は極端に困難になるのです。

リスケを極端に怖がる社長さん

以上のように、リスケをすれば目先の資金繰りは改善するものの、新たな融資が困難になるというリスクを考慮する必要があります。中小企業の社長さんの中には、この「新たな融資が受けられない」ということを極端に怖がる方もいらっしゃいます。「金融機関との約束を破るのは申し訳ないし、何があるかわからないので怖いし、何とか頑張って返済しながら立て直します」という想いは、人としては尊敬できます。しかし、責任ある会社経営者としては、必ずしもそうとは言えません。何より、会社が潰れてしまっては元も子もありません。

そもそも融資を受けるのが困難になったことが、リスケを検討せざるをえなくなった原因だったはずであり、新規融資が難しくなるからといってリスケを怖がることに合理性はありません。また、新規融資が難しくなるのはあくまで「リスケをしている期間」であり、業績が回復してキャッシュフローを確保して返済が再開されれば、また融資を受けることができるようになります。

「リスケをしたら、取引先にも知られて信用不安が起こるのでは」ということを怖がる方もいらっしゃいますが、これも心配無用です。金融機関には守秘義務があり、仮に「あの会社はリスケをしてますよ」などという噂を流すようなことがあればそれこそ大問題です。企業信用調査でもリスケを行ったことを把握するのは不可能であり、社長さんや経理担当者などがうっかり口を滑らせてしまったような特殊な場合を除き、取引先等に広まることはありません。

なお、リスケと延滞は全く異なることに留意が必要です。もともと決めていた返済日に、決まった金額が返済されない点では変わらないものの、リスケは金融機関の同意を得ていますが、延滞は同意なく遅れることを指します。リスケは「条件の変更」ですが、延滞は「約束破り」です。リスケをむやみに怖がって、結局延滞になってしまうようなことがあれば、誰もが不幸な結末につながってしまいます。

私が普段からリスケの交渉支援を行っているということもありますが、リスケは特別悪いことではなく、窮余の際に社長さんに用意されている選択肢にすぎないと考えています。「借りたばかりで一度も返済がないままリスケになった」というような特殊なケースでは金融機関から嫌な顔をされることもありますが、それまで頑張って返済してきた社長さんがやむにやまれずリスケを申し込む場合に邪見に扱われることはほとんどありません。むしろ、「業績が厳しそうだったので大丈夫かなと思っていました」と、前向きに捉えていただけるケースの方が多いように思います。

複数の金融機関と取引している場合の留意点

複数の金融機関と取引をしている場合には、「公平性」に配慮する必要があります。一部の金融機関は約定どおり返済を続けて、残りの金融機関はリスケする…となれば、当然リスケする金融機関としては納得ができません。リスケを交渉する際には、「すべての金融機関に、同時期に、同条件で」が原則となります。

また、リスケ後の返済計画についても同様に公平性に配慮します。よくある事例として、「1年間は元本返済を猶予してください。1年後には、直近決算の簡易キャッシュフローの70%を返済原資として返済を行う予定です」という金融支援を行うケースを想定します。返済原資はこれによって自動的に決まりますが、それを各金融機関でどのように配分すれば公平なのか…という問題が残ります。

一定以上の返済原資がある場合、一般的には、「プロラタ返済」という方式が使われます。プロラタとは、「比例配分できる」という意味の言葉(Proratable)の略称であり、会社が複数の金融機関から借入をしている際に、各金融機関別の借入金残高に応じて比例的に返済額を決めて、返済することをいいます。なお、残念ながら直近決算で営業キャッシュフローが確保できなかった場合等では、例外的に「借入1口あたり1万円」などの方式を用いる場合もありますが、基本はプロラタ方式をおすすめします。

いずれにしても、返済計画については金融機関の意向を踏まえた事前交渉が必要なため、しっかりとコミュニケーションを取って決めていくことが肝要です。

リスケは経営改善計画とセットで

前述のとおり、リスケをむやみに怖がる必要はありませんが、かといって気楽に使えるものでもありません。「厳しい現状ではありますが、返済条件の緩和で資金繰りに余裕を持たせている間に、抜本的に業績を立て直して、元通り返済できるように頑張ります!」というストーリーと決意がなければ、金融機関としてもリスケに応じる理屈がありません。これはまさに、経営改善計画の趣旨に沿ったものです。

単純にリスケをすると、要管理先に格付されて金融機関としても多額の引当金を計上しなければなりませんが、経営改善計画を策定することで要注意先への格上げが可能となります。「リスケに応じることが企業の再建に役立つ」との確証を得ていただく観点からも、「金融機関の決算への悪影響を緩和するため」という事情に配慮する観点からも、「リスケするなら経営改善計画の提出とセットで」と要請されることは極めて合理的なことであり、企業側としても全力で対応する必要があることをご理解いただいてください。

リスケは資金繰りが厳しい企業の窮余の策として有効ですが、それ自体が目的化することがあってはなりません。金融機関にとっても企業にとっても望ましい「立て直しのための手段」との共通認識を形成する必要があります。

はじめて「資金繰りに悩む社長」を担当したときに読む本
藤井 正徳
昭和49年10月生まれ、山口県萩市出身。神戸大学経済学部を卒業後、保険会社に入社し16年間勤務した後、経営コンサルタントとして独立創業。創業から1年後に至誠コンサルティング株式会社を設立。「経営の救命救急士」として年間12件以上の経営改善・事業再生プロジェクトに携わり、全ての案件で金融支援を成功させている。商工会議所・商工会からの受託事業等で延べ500社以上の経営相談に対応し、金融機関・商工会議所・商工会等の主催セミナーの講師としても年間12件以上登壇。2019年に岡山県経営コンサルタント事業協同組合専務理事に就任し、他の専門士業とのネットワークを活用した幅広い経営支援を展開している。

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