人によっては、相続や遺贈で財産を引き継ぐだけでなく売却することもあります。このとき出た売却益については税金を納めなくてはなりません。今回は、遺産を売却したときにかかる税金を低めに抑えるポイントについて解説します。
相続財産を売却すると譲渡所得の税金がかかる
相続や遺贈で財産を売却する場合、「譲渡所得課税」の課税対象になります。そのため、相続税とは別に所得税と住民税も意識しなくてはなりません。
所得税等の納付義務が生じるのは、不動産や絵画、骨董などの財産を売却して利益が出た場合です。これらの財産を売却したときの利益を「譲渡所得」と言い、次の算式で計算した金額が譲渡所得の金額となります。
譲渡所得=譲渡対価の金額-(取得費(※1)+譲渡費用(※2))
※1…資産の取得価額と取得のために直接かかった費用の合計額
※2…譲渡するために直接かかった費用
この譲渡所得に所得税と住民税がかかります。売却した資産が何か、保有期間がどれくらいかによって課税の仕方や税率は変わります。相続・遺贈の対象財産の中でもっとも比重の高い不動産(土地、建物)については、分離課税方式で次のように所得税・住民税を計算します。
譲渡所得に対する税額(所得税・住民税)=課税譲渡所得×税率(※)
※資産の保有期間が5年超の場合の税率…20.315%(所得税率15.315%、住民税率5%)
資産の保有期間が5年以下の場合の税率…39.63%(所得税率30.63%、住民税率9%)
保有期間の長い方がおトクなわけですが、相続や遺贈によって取得した財産を売却する場合、保有期間が極めて短いため、通常は5年以下の税率が適用されることになります。税金面では不利に見えますが、遺産の売却についてはこれからお伝えする点を意識しておくと節税することができます。
取得費の特例を活用する場合の4つの注意点
相続財産を売却する場合、いったん納付した相続税額の一部を「取得費」に加算することができます。つまり、相続税を考慮した分だけ譲渡所得の金額が低くなるわけです。この制度を「相続財産を譲渡した場合の取得費の特例(以下、『取得費の特例』)」といいます。
ただし、活用においては注意点があります。取得費の特例を活用する場合、次の4つに注意しなくてはなりません。
注意点①:相続税額を差し引くための3つの要件に該当するか確認
まず、相続税額を譲渡所得の取得費に加算するための3つの要件を確認しましょう。
- この特例の適用を受ける人が相続や遺贈によって財産を取得した者であること
- その財産を取得した人に相続税が課税されていること
- 相続や遺贈により取得した財産を相続開始の日の翌日から相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日まで(おおよそ3年10ヵ月以内)に譲渡していること
相続税額が0円だったり期限を過ぎていたりすればこの特例の適用は受けられないため注意が必要です。
注意点②:取得費に加算できる相続税額の計算(2015年1月1日以降取得の場合)
相続税額ならば何でも取得費に加算できるわけではありません。2015年1月1日以後現在、相続や遺贈により取得した財産についての取得費として加算できる金額は、次のように計算します。
【取得費に加算できる相続税額】
適用を受ける人の納付すべき相続税額×(その人の相続税の課税価格の計算の基礎とされた譲渡財産の価額)/〔その人の相続税の課税価格+その人の債務控除の額〕
ただ、この算式により計算した金額が相続税を加味しないで計算した譲渡所得額よりも多くなる場合には、その譲渡所得額が上限となります。つまり、マイナスは生じず、ゼロとなるわけです。
注意点③:2つ以上の相続財産を売却した場合の計算
2つ以上の財産を相続・遺贈で取得した後売却した場合、取得費加算はその譲渡した財産ごとに行います。例えば、建物と土地を相続後相次いで譲渡した場合には、建物の譲渡所得については建物の相続税額を元に計算した取得費が、土地の譲渡所得については土地の相続税額を元に計算した取得費がそれぞれ控除されます。
注意点④:親の自宅売却で「空き家の3,000万円控除」特例もあり
親が生前居住していた不動産を相続した後、相続開始後3年を経過する日の属する年末までに売却した場合、一定要件を満たせば、譲渡所得額から最高3,000万円を控除することができます。これを「被相続人の居住用財産(空き家)に係る譲渡所得の特別控除の特例(以下、『空き家の3,000万円控除』)」と言います。
なお、この特例を適用する場合には、先述の取得費加算の特例は併用できません。
所得税を確定申告する際の注意点
上記の特例のいずれかの適用を受けるときは、確定申告書に計算明細書や一定の登記事項証明書や確認書などの写しを添付することが必要です。また、確定申告時期になって慌てて準備しようとすると節税の判断ミスが生じるおそれがあります。どちらがより有利か、要件を満たしているかどうかについては事前に調べるようにしましょう。(提供:相続MEMO)
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