相続発生後、遺言書がある場合にはその内容に従って財産を相続し、ない場合には相続人間で遺産分割協議が行われます。ただし遺産分割をすることが禁止されるケースもあるため注意が必要です。そこで今回は「遺産分割の禁止」について解説します。

遺産分割の禁止とは?

相続,遺産分割の禁止
(画像=Andrii Yalanskyi/Shutterstock.com)

民法では、遺産分割を禁止する方法についての規定がいくつかあります。1つ目は遺言によって遺産分割の禁止をする方法です。

“(遺産の分割の方法の指定及び遺産の分割の禁止)
第九百八条 被相続人は、遺言で、遺産の分割の方法を定め、若しくはこれを定めることを第三者に委託し、又は相続開始の時から五年を超えない期間を定めて、遺産の分割を禁ずることができる”

出典:電子政府の総合窓口e-Gov(イーガブ)

民法第908条では上記のように5年間は遺産分割の禁止をすることが可能です。遺産分割をしないということを相続人間の遺産分割協議で取り決めることもできます。こちらも禁止の期間は5年間ですが、その期間をさらに5年間延長することも可能です。

“(共有物の分割請求)
第二百五十六条 各共有者は、いつでも共有物の分割を請求することができる。ただし、五年を超えない期間内は分割をしない旨の契約をすることを妨げない。
2 前項ただし書の契約は、更新することができる。ただし、その期間は、更新の時から五年を超えることができない”

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さらに遺産分割について争いがあり協議ができない場合など「特別な事由があるとき」は、家庭裁判所の審判によって遺産分割が禁止されることがあります。

“(遺産の分割の協議又は審判等)
第九百七条
2 遺産の分割について、共同相続人間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、各共同相続人は、その全部又は一部の分割を家庭裁判所に請求することができる。ただし、遺産の一部を分割することによりほかの共同相続人の利益を害するおそれがある場合におけるその一部の分割については、この限りでない。
3 前項本文の場合において特別の事由があるときは、家庭裁判所は、期間を定めて、遺産の全部又は一部について、その分割を禁ずることができる”

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どのようなときに禁止されるのか

相続人間で遺産分割についての話し合いがまとまらず裁判所によって遺産分割が禁止されるケース以外には、どのような場合に禁止されることが想定されるでしょうか。例えば被相続人の孫である代襲相続人が未成年で、その孫が成人するまで遺産分割を保留させるケースです。未成年の遺産分割協議には代理人を選任する必要があります。
しかし「成人して自身の判断で遺産分割協議に加わって欲しい」という想いがある場合には、このような遺言を遺すことも可能です。また「先妻・後妻それぞれの子の他に非嫡出子がいる」「後に非嫡出子の存在が明らかになる」など相続関係が複雑になることが想定される遺産分割を禁止することもできます。

相続人の確定までに相当な時間がかかるようなケースでは、遺産分割を禁止し相続をめぐる争いを未然に防ぐことも必要になるかもしれません。

遺産分割を禁止するメリット、デメリットは?

遺言によって遺産分割を禁止するケースでは、遺言者の遺志が反映されるという点がメリットです。また上述したように相続人が確定するまでは遺産分割を禁止しておけば後から相続人が明らかになった場合にもめるリスクを回避することができます。一方で相続財産が共有状態のままになるため、相続人は財産を取得することができず財産が宙に浮いた状態が長期間続く可能性もあるでしょう。

また相続税においては、相続開始から10ヵ月以内に申告を行わないとさまざまな特例などの恩恵を受けられなくなります。ただし「やむを得ない事情」がある場合には、申告期限後3年を経過する日の後に「遺産が未分割であることについてやむを得ない事由がある旨の承認申請書」を提出することで対応が可能です。

この手続きをしておけば遺産分割が完了した後に「配偶者の税額軽減」「小規模宅地等の特例」などの適用を受けることができます。申請書にやむを得ない理由の記載の他、相続または遺贈に関して以下の内容を証明する書類やその他の事情の明細を記載した書類を提出し承認されることが必要です。

・訴えの提起がなされている
・和解、調停または審判の申立てがされている
・遺産分割の禁止、相続の承認もしくは放棄の期間が伸長されている

遺言によって遺産分割が禁止されたり相続人間で禁止に同意したりするケースはあまりないかもしれません。しかし相続の中で「遺産分割は禁止することもできる」ということを認識しておくことは重要です。万が一禁止を検討するようなことがある場合には、専門家に相談したうえで今後の対策を検討するのがよいでしょう。(提供:相続MEMO


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