相続トラブルというとネガティブなイメージをお持ちの方が多いのではないでしょうか。特に近い将来に相続を控えている方にとって相続トラブルは何としても避けたい一方、ご自身の権利はきちんと主張・確保したいと考えることは当然といえます。
この記事では「相続トラブル」についてよくあるケースをご紹介し、トラブルを回避する方法、さらにトラブルが起きてしまった場合に弁護士に依頼するためのノウハウなどについて解説します。自分は無関係と思わず、相続トラブルとはどういうものかを知り、それを回避するための有効な手立てを講じていきましょう。
1.相続トラブルが「起こり得る」ケース6例
相続トラブルにはどのような事例があるのでしょうか。ここでは相続におけるトラブルが発生しやすいケース6つをご紹介します。
1-1.「遺産の全部または一部が不動産であり、分割するのが難しい」ケース
遺産が現金や有価証券などであれば分割が容易ですが、土地や建物などの不動産の場合、簡単に分割することができません。特に不動産が1つしかない場合や、財産がすべて不動産の場合は相続人の間で不平等感が生まれやすく相続トラブルに発展するケースが多くなります。
このように不動産は簡単に分割できないという相続トラブルが起きやすい特性がある一方で、実際に相続されている遺産のうち、半数弱が不動産であるというデータがあるのも事実です。下図は国税庁が発表している「相続財産の金額の構成比の推移」です。
紫色と黄色部分がそれぞれ土地と家屋で「不動産」に該当します。近年緩やかに比率は減少傾向ですが、グラフ中で最も比率の少ない平成27年でも不動産(土地+家屋)の占める割合は43.3%となっており、遺産の半数近くが不動産であることが分かります。
1-2.「特定の相続人が遺産の独占を主張する」ケース
経済的な事情で少しでも多くの遺産が欲しいと考える人、「長男だから」「親と同居しているから」といった理由で遺産の全額相続を主張する人、相続人同士(兄弟間など)で不仲ゆえに遺産分割協議自体を避けたい人など、家族ごとに様々な事情があります。
仮に一人の法定相続人が遺産の独占を主張したとしても法定相続人には「遺留分」があり、各相続人の権利は保全されていますが、このような人が相続人の中に含まれていると、相続トラブルに発展する可能性が高まります。
1-3.「遺言の内容が特定の相続人に偏りすぎている」ケース
被相続人が自分の意向を反映するために遺言書を作成することがあります。その内容が特定の相続人に偏った内容になっていると、他の相続人から不満が出る可能性が高くなります。
被相続人が「一緒に住んで世話をしてくれた人に手厚く財産を相続させたい」と考え遺言書にしたためるのは自然な成り行きかもしれません。しかし、例え遺言書といえども民法で保証されている他の相続人の権利、所謂「遺留分」を侵害することはできません。
1-4.「相続発生前に同居家族が財産を使い込んでしまった」ケース
相続が発生する前に、被相続人と同居している家族が被相続人の財産を使い込んでおり、いざ相続が発生した時に使い込みをしていた人の相続財産は少なくするべきという意見が他の相続人から出るケースがあります。本来であれば相続財産になるはずだった財産を減らしていることから、他の相続人から不満が出るのも当然といえますが、使い込みをした人が応じなければトラブルに発展します。
平均寿命の延伸とともに身体が不自由になっている高齢者が増えており、高齢者本人が財産を管理できないため同居している一人の子に委任しているケースが多くなっています。特に被相続人が認知症で判断能力が低下していた場合はこのケースに陥りやすく、近年紛争になることが増え問題になっています。
1-5.「被相続人に財産だけでなく借金もあった」ケース
被相続人が他界後に借金があったことが分かり、そのまま財産を相続すると借金も相続することになってしまう場合があります。
借金の性質にもよりますが、被相続人が存命中に借金をしている事実を家族に伝えていないこともあり得ます。借金は個人情報であり、家族であっても被相続人が存命中に全容を把握するのは簡単ではありません。
被相続人の借金が発覚し、その借金を相続することが相続人にとって不利益になる場合は、相続放棄の手続きを取ることでプラスの遺産も放棄することになりますが、そうした借金などのマイナスの遺産を相続しない選択をすることもできます。
1-6.「離婚歴があり前パートナーと現パートナーのそれぞれに子供がいる」ケース
被相続人に離婚歴があり、前パートナーと現パートナーの両方に子供がいる場合は、それぞれの子供に相続の権利があるため、法定相続人となります。
このケースでトラブルが深刻化するのは、被相続人が他界した後初めて前パートナーとの間に子供がいることが分かり、その子供が相続の権利を主張してきた場合などです。
2.相続トラブルは「一部の資産家」だけの問題ではない
相続トラブルはドラマや映画の中の出来事であり、資産家でなければ無関係だと思っている方は多いかもしれません。この章では相続トラブルが決して他人事ではないという事実と、その背景について解説します。
2-1.「トラブルになるほどの財産はないから無関係」は厳禁
一般的な生活水準であると自覚している方は、「そもそもトラブルになるほどの財産がないので自分には関係ない」と考えてしまいがちです。しかし現実には相続財産を巡って家族関係に亀裂が入ってしまった事例は数多くあります。「自分にも関係があること」という心構えをもって相続問題と向き合うことをおすすめします。
2-2.裁判所の調停では5,000万円以下の案件が大半という事実
相続トラブルが資産家などごく一部の人たちだけの問題ではないことを示す、興味深いデータがあります。裁判所がまとめた「司法統計年報」、家事編という資料に遺産分割事件のうち裁判所の調停が成立した件数をまとめたデータがあります。そこには争いが起きた相続財産の規模別集計があります。
相続財産 | 件数 |
---|---|
1,000万円以下 | 2,784 |
5,000万円以下 | 3,731 |
1億円以下 | 1,094 |
5億円以下 | 565 |
5億円を超える | 44 |
算定不能・不詳 | 492 |
※裁判所 http://www.courts.go.jp/ 「平成26年 司法統計年報 家事編」より作成
全件数が8,710件あるうち、1,000万円以下と5,000万円以下の合計は6,515件となり全件数のうち約75%を占める数値です。日本国内では一般的に保有する純資産規模が1億円以上の世帯を「富裕層」と定義していますが、遺産分割の裁判調停成立事例にはそのカテゴリーに属する人たちは少数派です。「相続トラブルの大半は5,000万円以下の資産規模で起きている」のが現実といえます。
2-3.相続税の基礎控除額引き下げによる影響
相続税法の改正により、平成27年1月から税額を計算するための基礎控除額が引き下げられました。
(改正前)5,000万円+法定相続人1人あたり1,000万円
(改正後)3,000万円+法定相続人1人あたり600万円
例えば標準的な4人家族(夫、妻、子ども2人)で夫が亡くなった場合、基礎控除額は
(改正前)5,000万円+1,000万円×3人分=8,000万円
(改正後)3,000万円+ 600万円×3人分=4,800万円
上記の通り、基礎控除は半分近くにまで引き下げられています。
相続税の課税対象となることが相続トラブルに直結するわけではありませんが、納税資金が足りない場合など、場合によっては相続財産によって税金を納める必要も出てくることから、「税金を納める義務が生じる」ということは、「相続財産が少なくなる」とも考えられます。遺産額が少ないケースのほうがトラブルになりやすいデータがあることからも注意が必要です。
3.相続トラブルを防ぐ対策:被相続人編
相続トラブルを防ぐために、被相続人が存命中に行っておいたほうがよいと考えられるものをまとめました。相続はいつ発生するかわかりませんので、できるだけ早い時期から必要な情報を収集し、当事者間で話し合い、予め分け方を決めておくのが効果的です。
3-1.財産目録を作成する
相続対象になる財産にはどんなものがあり、それぞれどれだけの価値を持っているのかという目録(一覧表)を作成しておくと、遺産分割の方向性を見出しやすくなります。
分割が難しい財産(不動産など)が含まれている情報を共有できれば、分割方法のための話し合いを被相続人を交えて行うことができます。
また財産目録を作っておくと、相続税の課税対象かどうかの判断、課税対象となる場合の課税額の見通しも事前に得られるため、効果的な節税ができる余地も生まれます。
3-2.法定相続人同士の合意形成と遺言書の作成
遺産「分割」は、複数の法定相続人が利害調整をすることです。被相続人が存命、健在のうちに法定相続人全員で話し合いを持ち、合意形成をしておくことはきわめて有効です。
遺言書には法的効力があるため、その内容にもとづく遺言書を作成しておけば遺産相続の内容を早い段階で確定させることができます。
3-3.法定相続人を把握しておく
法定相続人同士の利害調整をするためには、法定相続人が誰で、何人いるのかを把握しておく必要があります。その理由は被相続人の他界後に行われる遺産分割協議は法定相続人「全員」の合意が必要になるからです。
被相続人の配偶者や子供などの他に、もし被相続人に非嫡出子(いわゆる隠し子)がいた場合、その子供も法定相続人となります。被相続人が健在の時であれば、その子供の存在を知っているため法定相続人の全体像を把握しやすいのですが、他界後は「遺産分割協議書が完成した後に隠し子が名乗り出てきた」という事態も考えられます。この場合は名乗り出てきた子供も含めて遺産分割協議のやり直しになります。
以上から、法定相続人を把握しておく作業は被相続人が存命かつ健在のうちに行っておくことが望ましいといえるでしょう。
3-4.課税の有無を確認し、必要に応じて節税対策を講じておく
すでに述べたように相続トラブル調停件数のうち大半が相続財産額5,000万円以下であることを考えると、この層にある人が適切な節税対策を講じることで課税対象から外れれば、相続トラブルを事前に防げる可能性があります。
相続税対策はできるだけ早い時期から進めていくことで効果が大きくなるため、課税の有無だけでも確認しておくことが推奨されます。
3-5.被相続人が存命中に弁護士を選定しておく
相続トラブルは人災であり、感情の対立という側面も大きいため、相続人同士だけで話し合いをするよりも第三者であり法律の専門家である弁護士が関与した方が円満解決の可能性が高くなります。遺産分割の内容が適法かどうかを判断できるのも専門家ならではです。被相続人が存命中に弁護士を選定し、事前協議の段階から関与してもらうのが理想的です。
とはいえ、弁護士であれば誰でも良いというわけではありません。医師の診療科目が多岐にわたるのと同様に、弁護士の業務も幅が広く、それぞれの弁護士によって得意分野が異なりますので注意が必要です。
4.相続トラブルを防ぐ対策:相続人編
ここでは相続トラブルを防ぐために、法定相続人の立場から取れる対策について解説します。相続が発生してからのトラブル回避策と、相続発生後にトラブルが起きてしまった場合の対策も含みます。
4-1.遺言の有無を確認し、無ければ探す
被相続人が存命中に遺言の存在を周囲に伝え、第三者に託していれば良いのですが、そうでない場合であっても本人が遺言書を作成している可能性があります。被相続人が他界したら、まず遺言の有無を確認し、被相続人の持ち物などに遺言書がないか探してみてください。
遺言書がない場合は民法で規定されている比率で遺産分割をすることになります。しかし、「分割の難しい財産がある」「別の形で遺産分割をする」のであれば、法定相続人の間で遺産分割協議を行うことになります。
4-2.相続トラブルに関わりたくない場合は相続を放棄する
遺産分割協議がまとまらず相続トラブルに発展し、遺産相続そのものに関わりを持ちたくないと判断した場合は「相続放棄」という選択肢があります。法定相続人として有している権利を放棄するため遺産相続の権利はなくなりますが、相続による問題とは無縁でいられる可能性が高くなります。
4-3.遺産を借金が上回る場合は相続放棄の選択肢がある
被相続人に借金があってそれが相続できる財産額を上回るというケースの場合、財産と借金の両方を相続してしまうと差し引きでマイナスになってしまうため、相続によって不利益を被ることになります。
これを回避したい場合も「相続放棄」が有効です。法定相続人の全員が借金の相続を避けたい場合は、法定相続人の全員が相続放棄をすることで借金を引き継ぐ必要はなくなります。
ただしここで注意が必要なのは、法定相続人には順位があり、順位の高い人が相続放棄をすると1つ下の順位にあたる人に相続権が移るため、借金の相続を避けるためには下の順位にあたる人も相続放棄をしなければならないことです。
法定相続人には配偶者と血族という2つの種類があり、血族には第1順位である子供(子供が亡くなっている場合は孫)、第2順位である直系尊属(父母、祖父母など)、そして第3順位である兄弟姉妹(兄弟姉妹が亡くなっている場合は甥と姪)という3つの階層があります。
配偶者や第1順位の法定相続人が相続放棄をした場合は第2順位の人に相続権が移り、この人たちも相続放棄をしたら第3順位の人に相続権が移ります。
上の順位からマイナスの相続財産が回ってくることが予想される場合は、同列の順位だけでなく下位にあたる人たちにも周知しておかないとトラブルを引き起こす可能性があるため留意しておくとよいでしょう。
4-4.家庭裁判所に調停を申し立てる
遺産分割の内容などが合意に至らず相続トラブルに発展してしまったら、家庭裁判所に調停を申し立てることができます。具体的には裁判官と調停委員で構成される調停委員会がトラブルになっている当事者双方の言い分を聞き、法的な整合性を踏まえた調停案を提案し、双方の歩み寄りを促すという形がとられます。
遺産分割調停の概要や手続き方法、必要書類などについては、以下のサイトをご参照ください。
5.まとめ
相続税における基礎控除額の縮小に伴い、相続税を納付する人は増加しています。
また、相続財産のうち多くの割合を不動産が占めているケースも多いです。
相続人の間で話がまとまらなく揉めているなどのケースは弁護士に相談し、申告書類の作成は税理士に相談することでしょう。
そして、不動産についての相談はやはり不動産会社に相談するべきでしょう。
不動産は事前の相続税対策にも有効です。また、相続時の評価方法によっても納税額には差が出てきます。相続を得意とする不動産会社がハブとなり、必要に応じて専門家である弁護士などをチームとしてアサインするのが、実は相続における一つの効果的な形といえるでしょう。(提供:相続MEMO)
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