「米国株取引は税金の仕組みがよくわからないから手を出していない……」という投資初心者もいるだろう。ここでは、近年手数料が引き下げられ、多くの投資家の関心を集めている米国株取引に関わる税金について、わかりやすく解説する。

目次
1,米国株にかかる税金を解説
2,二重課税を回避する方法
3,外国税額控除で覚えておきたい2つのポイント
4,米国株取引の損益通算をする方法
5,売却益にかかるコスト
6,配当金を受けるときにかかるコスト
7,米国株取引をする際に意識したいこと

1,米国株にかかる税金――売却益と配当金、それぞれに税金がかかる

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(画像=yilmazsavaskandag/Shutterstock.com)

日本国内に居住する個人投資家が米国株取引をする際は、日米間で締結されている「日米租税条約」が適用される。条約では、投資家が支払う国内の「所得税」と、米国内の「連邦個人所得税」の課税方法が定められている。

※「地方税」は日米租税条約の対象税目から除外されている。

日米租税条約の目的は、日米間の二重課税の回避と脱税の防止だ。本条約では、日本の居住者が米国株取引で譲渡益と配当を得た際の課税方法を、以下のように定めている。

米国株取引による収益別課税方法

収益の種類 米国内 日本国内 備考
売却益
(譲渡益)
非課税 ・所得税および復興特別所得税
→15.315%
・住民税
→5.0%
・不動産以外の財産の譲渡による収益は
「居住地国課税」との規定あり
・日本国内では、所得税法の規定どおり課税される
配当 ・連邦個人所得税
→10.0%
・所得税および復興特別所得税
→15.315%
・住民税
→5.0%
・米国内で支払われる配当に対しては、
「他方の締約国内」(米国内)で課税できるとする規定あり
・「居住者とされる締約国」(日本)においても課税できる
・二重課税を回避するため、日本国内で所得税の
「外国税額控除」が適用される

何もしなければ、売却益には20.315%、配当には30.315%が課税されることになってしまう。配当は米国内と日本国内で二重に課税されてしまうが、これは確定申告で「外国税額控除」を申告することで回避できる。

2,二重課税を回避する方法――確定申告で「外国税額控除」を申告する

二国間の二重課税を回避するために設けられているのが、日本の所得税法上の「外国税額控除」だ。確定申告で「外国税額控除」を申告することによって、米国内で課税された税金を、所得税から一定額を控除できる仕組みになっている。

3,外国税額控除で覚えておきたい2つのポイント 限度額、NISA口座の場合など

米国株で配当を受け取る人は、税金が控除される外国税額控除をぜひとも活用してほしい。ただしこの制度は、自ら確定申告しなければ適用されない申請主義であること以外にも、いくつか押さえておきたいポイントがある。

ポイント1,外国税額控除には限度額がある

米国で源泉徴収された税金が国内の所得税額から控除されるといっても、実は控除額には限度額が設けられている。また、米国で源泉徴収された連邦所得税が所得税の控除限度額を超える場合は、「復興特別所得税の控除限度額」を上限に、復興特別所得税額から控除することもできる。

(控除限度額の計算式)
所得税の控除限度額=その年分の所得税の額×(その年分の調整国外所得金額/その年分の所得総額) 復興特別所得税の控除限度額=その年分の復興特別所得税額×(その年分の調整国外所得金額/その年分の所得総額)

※用語の解説については、以下の国税庁ホームページ「No.1240 居住者に係る外国税額控除」を参照のこと

ポイント2,全額控除される場合もある

1年間に米国で源泉徴収された連邦所得税額の合計が、所得税の控除限度額に満たない場合は、全額が外国税額控除額の対象となる。

一方、1年間に米国で源泉徴収された連邦所得税額の合計が、所得税の控除限度額を超える場合は、所得税の控除限度額に加えて、以下のいずれか少ないほうの金額分が控除限度額に上乗せされる。

イ. 米国内で源泉徴収された所得税の額から所得税の控除限度額を差し引いた残額
ロ. 復興特別所得税の控除限度額

ポイント3,NISA口座利用の場合は、外国税額控除を利用できない

NISA口座は、株式取引などで得た利益が国内で非課税となる制度である。

NISA口座を利用して米国株を購入・保有する場合は、米国企業から配当金が支払われても、国内での所得税と地方税が非課税になる。米国内で連邦所得税だけが源泉徴収される(二重課税は発生しない)ため、外国税額控除を利用することはできない。

NISA口座で配当を目的とした米国株を保有すると外国税額控除を利用できないが、もともと米国内で配当金から源泉徴収されるのは配当金の10%分だけだ。

特定口座で外国税額控除を申告しても、国内で約20%が課税されることに比べると、NISA口座を利用して配当金を受け取ったほうが、節税効果が高いことを覚えておこう。

次は、売却の際に税金を含めたコストがどのくらいかかるか計算してみよう。

4,米国株取引の損益通算をする方法――コストを抑えるために必ず考慮したい

確定申告での控除申告に加えて、損益通算は米国株取引をする上で節税効果があるため必ず行いたい。

損益通算の方法は、大きく分けて2つある。どちらが有利かは、証券口座の数や譲渡損益の状況などによって異なるので、各自でその年ごとに判断してほしい。

方法1,「特定口座(源泉徴収あり)」を使う――手間がかからないのがメリット

1つ目は、特定口座(源泉徴収あり)で取引する方法だ。

米国株や他の外国株、上場国内株式、ETF、REITなどをまとめて特定口座で取引すると、利益が出た時点で所得税等が源泉徴収される。多少の損失が出ても、特定口座内の譲渡損益や配当金は自動的に損益通算される。

確定申告の必要がないので、証券口座を1つしか持っていない場合や、複数の証券口座を保有していてもそれほど損失が出ていない場合は、この方法が最も簡単だ。

方法2,確定申告をする――大きな節税効果を期待できる

2つ目は確定申告による申告分離課税で、損益通算や損失の繰越控除を受ける方法である。

保有する複数の特定口座のうちの1つで、あるいは保有する特定口座が1つだけでも米国株取引などで大きな譲渡損が発生した場合のための方法だ。1つの特定口座内で損益通算をしても大幅なマイナスになってしまうなら、迷わず確定申告による申告分課税を選択したほうがいい。

この方法なら、利益が出ている他の証券口座の外国株や国内上場株式、ETFなどの金融商品と損益通算ができるだけでなく、損失額が大きい場合はそれを3年間繰越して控除を受けることもできる。

確定申告が必要な一般口座と特定口座(源泉徴収なし)はもちろんのこと、特定口座(源泉徴収あり)を使った取引でも、損益通算と損失の繰越控除のどちらも利用できる。大きな節税効果を期待できるので、米国株取引で大きな損失が出た場合は、ぜひ検討してほしい。

5,売却益にかかるコスト――税金や手数料などは正確に把握しておきたい

ここまで、米国株投資に関係する税金の控除方法を紹介してきた。米国株投資では、所得税や復興税の他にも「SEC Fee」や手数料などもかかる。損益を正確に計算するためには、これらについても覚えておきたい。

ここからは、米国株売却時に発生するコストの内容と、実際の算出方法を紹介していこう

売却益にかかる5つのコスト――現地で「SEC Fee」、国内で「取引手数料+消費税」と「所得税」

国内の所得税以外に売却時のコストとして発生するのが、米国での「SEC Fee」と、国内証券会社に支払う「取引手数料」、そして取引手数料にかかる「消費税」だ。

実際に米国株を売却した際、何に対してどのくらいの税金や手数料が発生するか、コストの発生順に紹介する。

基準となるのは、米ドルベースの「売付注文の約定代金=約定価格×株数」(小数点第3位を四捨五入)である。

コスト1,米国内で徴収される「SEC Fee(米国現地証券取引所手数料)」
SEC Fee=米ドルベースの売付注文の約定代金×0.0000221米ドル
※算出数値は小数点第3位を切り上げ、最低額は0.01米ドル

SEC Feeとは、米国市場で株式を売却した際に米国証券取引委員会(Securities and Exchange Commission)に支払う取引所税のことで、約定代金から源泉徴収される。

コスト2,国内証券会社に支払う「取引手数料」
米ドルベースの取引手数料=米ドルベースの売付注文時の約定代金×0.45%
※算出数値の小数点第3位を四捨五入

なお、約定代金が2.22米ドル以下の場合は下限取引手数料0米ドル、約定代金4,444.45米ドル以上の場合は上限取引手数料の20米ドルになる。

コスト3,コスト2の取引手数料にかかる消費税
米ドルベースの消費税=米ドルベースの取引手数料×10%
※算出数値の小数点第3位を切り捨て

コスト4,日本国内で課税される譲渡益税(所得税と地方税)
米ドルベースの取得費=米ドルベースの買付注文時の約定代金-税込取引手数料……(A)

米ドルベースの譲渡価額
=米ドルベースの売付注文の約定代金-SEC Fee(①)-取引手数料(②)-消費税(③)……(B) 

日本国内で課税される「譲渡益税(所得税と地方税)」を算出するには、米ドルベースの「取得費」と「譲渡価額」をそれぞれ日本円に換算してから損益を計算して、「譲渡所得(譲渡益)」を求める。

最後に、譲渡所得に申告分離課税の税率を掛けて課税額を算出する。
※所得税と地方税の計算では小数点以下は切り捨て

なお、譲渡所得を円ベースに換算するための為替レートは、外貨決済と円貨決済で異なるので、以下を参照してほしい。

【外貨決済の場合】――米ドルで入金、米ドルで受け取り

円ベースの取得費=米ドルベースの取得費(A)×(買付注文時の国内約定日TTS適用為替レート)……(C)

円ベースの譲渡価額=米ドルベースの譲渡価額(B)×(売付注文時の国内約定日TTB適用為替レート)……(D)

円ベースの譲渡所得=円ベースの譲渡価額(D)-円ベースの取得費(C)……(E)

したがって、円ベースの譲渡益税(所得税と地方税)=円ベースの譲渡所得(E)×20.315%

外貨決済で特定口座(源泉徴収あり)を選択し、かつ譲渡益が出ている場合は円の預かり金から譲渡益税が源泉徴収される。

【円貨決済の場合】――日本円の買付余力で購入、日本円で受け取り

円ベースの取得費=米ドルベースの取得費(A)×(円貨決済の買付注文時の約定日TTS適用為替レート)……(F)

円ベースの譲渡価額=米ドルベースの譲渡価額(B)×(円貨決済の売付注文時の約定日TTB適用為替レート)……(G)

円ベースの譲渡所得=円ベースの譲渡価額(G)-円ベースの取得費(F)……(H)

したがって、円ベースの譲渡益税(所得税と地方税)=円ベースの譲渡所得(H)×20.315%

円貨決済で特定口座(源泉徴収あり)を選択し、かつ譲渡益がある場合は、受渡金額から譲渡益税が源泉徴収される。

一般口座を使った米国株売買で利益が出た場合は申告分離課税となるため、上記のように自分で譲渡益税を計算して、確定申告をする必要がある。

米国株取引で売却益が出た時の税金シミュレーション

特定口座(源泉徴収あり)を使って、外貨決済で米国株を売却した場合の譲渡益税を実際に計算してみよう。円貨決済の場合も、採用される為替レートが異なるだけで、譲渡益税の計算方法はほぼ同じだ。

(条件)
・米国法人A社株式を1株30.0米ドルの時に20株買付け、1株35.0米ドルで全株売却
・買付時の国内約定日適用TTSレート 1米ドル=100円
・売付時の国内約定日適用TTBレート 1米ドル=100円
・取引手数料(税抜)=約定代金×0.45%

(取得費の計算)
・米ドルベースの買付時の約定代金=30.0米ドル×20株=600.0米ドル
・買付時取引手数料(税抜)=600.0米ドル×0.45%=2.7米ドル
・消費税=2.7米ドル×10%=0.27米ドル
・取得費=600.0米ドル-2.7米ドル-0.27米ドル=597.03米ドル

円ベースの取得費=597.03米ドル×100円=59,703円

(譲渡価額の計算)
・米ドルベースの売却時の約定代金=35.0米ドル×20株=700.0米ドル
・SEC Fee=700.0米ドル×0.0000221米ドル≒0.02米ドル
・売却時取引手数料(税抜)=700.0米ドル×0.45%≒3.15米ドル
・消費税=3.15米ドル×10%≒0.31米ドル
・譲渡価額=700.0米ドル-0.02米ドル-3.15米ドル-0.31米ドル=696.52米ドル

円ベースの譲渡価額=696.52米ドル×100円=69,652円       譲渡所得(譲渡益)=69,652円-59,703円=9,949円

所得税(復興特別所得税含む)=9,949円×15.315%≒1,523円 地方税=9,949円×5.0%=497円

6,配当金を受けるときにかかるコスト――投資の際に覚えておきたい課税内容と計算方法

米国株を保有していて配当金を受け取った時は、前述のように配当所得に対して原則的に米国内で連邦個人所得税10.0%と、日本国内で所得税と地方税20.315%が源泉徴収される。配当に関しては、取引手数料は発生しない。米国株の配当金への課税内容を正確に把握することも大切だ。

配当金を受け取った場合の課税方法

米国の企業が配当金を支払ってから、日本国内で課税されるまでのステップを詳しく見てみよう。

ステップ1,米国内で課税される「連邦個人所得税」

日本に居住する個人投資家が米国株の配当を受け取ると、日米租税条約で定められたとおり現地で連邦個人所得税10%が源泉徴収される。(※米国での源泉徴収額の計算上、小数点第3位は四捨五入)

ステップ2,国内の「所得税と地方税」――米国で源泉徴収された残額を日本円換算して国内で課税

配当金から連邦所得税が源泉徴収された残額に対して、日本の配当所得20.315%(所得税15.315%、地方税5.0%)が源泉徴収される。(※所得税と地方税の計算では小数点以下は切り捨て)

取扱証券会社では、現地で配当金が支払われたことを確認すると、顧客の口座への入金処理を行って1週間ほどで米ドルでの入金が完了する。

一方で証券会社は、発行会社による配当金支払いを確認した日のTTBレート(申告レート)で配当金残高を日本円に換算する。その金額を配当所得として、日本円ベースの所得税と地方税を計算して源泉徴収する。

ステップ3,国内課税の「所得税と地方税」を米ドルに換算して、米ドルベースの配当金から控除

国内で源泉徴収された所得税と地方税は、それぞれ申告レートで再度米ドルに換算される。

次に、発行会社から支払われた配当金から、「連邦個人所得税」と米ドルベースの「日本の所得税と地方税」が控除された金額が、手取金額として米ドルで口座に入金される。

米国株の配当金が支払われた時の税金シミュレーション

特定口座(源泉徴収あり)で米国企業から配当を受け取る際の税金額と、実際に受け取ることができる米ドルベースの配当金額を算出してみよう。

(条件)
・米国法人A社株式を20株保有(年4回配当のうち、1回につき1株5.0米ドルの配当が支払われる)
・A社からの配当支払確認日のTTBレート(申告レート) 1米ドル=100円

(米国での連邦個人所得税と源泉徴収後の配当金額)
・1回の配当金額=20株×5.0米ドル=100.0米ドル
・連邦個人所得税額=100.0米ドル×10%=10.0米ドル

米国内での源泉徴収後の配当金額=90.0米ドル……(B)

(国内での配当税額)
・円ベースの米国源泉徴収後の配当金額=90.0米ドル×100円=9,000円

所得税(復興特別所得税を含む)=9,000円×15.315%≒1,378円
地方税=9,000円×5.0%=450円

(所得税等の米ドル換算と配当金額からの控除)
・米ドルベースの所得税=1,378円÷100円=13.78米ドル……(C)
・米ドルベースの地方税=450円÷100円=4.5米ドル……(D)

手取配当金額=90.0米ドル(B)-13.78米ドル(C)-4.5米ドル(D)=71.72米ドル

7,米国株取引も低コストと節税メリットを意識する

米国株の取引手数料が安くなり、ハードルは低くなった。それでも、為替リスクや値幅制限がないことによる株価変動リスク、為替手数料など、米国株ならではのデメリットは残っている。

リスクやデメリットを軽減するためにも、安易に米国株を取引するのは避けるべきだろう。手数料が安くなるような証券会社や銘柄、節税効果のある方法を選択して、米国株から得られる利益を最大化できるようにしたい。

文・近藤真理(フリーライター)/MONEY TIMES

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