相続対策や税金対策などを目的として資産管理法人の設立を検討している人にとって、設立後のお金の流れは気になるところでしょう。自ら100%出資し社長を務める法人でも、口座からお金を引き出す際には法人税法上のルールを守る必要があります。このルールを無視すると、不要な税金を払うことになるかもしれません。

役員報酬額の変更は基本的に1年間に1度のみ

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(画像=beeboys/stock.adobe.com)

一般的に、法人化のメリットは所得分散による適用税率の低減と個人所得税と法人税の違いを利用することで、実質的な税額を減らすことです。この場合オーナーは、資産管理法人から給料を受け取るかたちで個人所得を得ます。

この給料は役員報酬と呼ばれ、金額の変更ができるのは基本的に1年間に1度のみです。正確には、一度報酬額を決めると、期中に増額してもその分は経費計上できないため、所得税と法人税が二重にかかってしまいます。「今月は不動産の売却益がたくさん入ったから、役員報酬を2倍にしよう」というわけにはいかないのです。

この仕組みを定期同額給与といい、期首から3ヵ月以内にその期の役員報酬を決める必要があります。次の期になれば、報酬額は変更できます。

法人税法上、会社の利益に応じて役員報酬が決まる利益連動給与も認められていますが、社長と家族が株式の50%超を持つような同族会社では利用できません。

ボーナスは予約制

役員報酬の支払いには、事前確定届出給与という方法もあります。これを利用するためには、あらかじめ支給する金額と支給日を決め、税務署に届けておく必要があります。届け出の期限は期首から4ヵ月を経過した日か、支給を決定した株主総会から1ヵ月を経過した日のどちらか早いほうです。

事前確定届出給与は、非常勤監査役のように限られた時期だけ仕事をする人への報酬や、常勤役員へボーナスを支給する際などに使います。届け出と1円でも異なる金額を支給すると、全額が経費計上できなくなってしまうので注意が必要です。

在職中の社長へ法人から出金する方法は、基本的に上記の2つです。これ以外で合理的な理由なく法人口座からお金を引き出すと、会計上・税務上は貸付金と見なされます。その場合は会社の収入として金利を計上しなければならなくなり、法人税負担が増えてしまいます。今後借入をする際、金融機関からの印象も良くありません。

株主への出金方法としては配当がありますが、経費にはならないので法人税と所得税を二重で納付することになります。配当控除によって多少は調整できますが、最高でも配当金の10%なのであまり効果はなく、税務上デメリットの多い方法です。

家族を従業員か役員にする場合は?

世帯単位で考えると、家族を従業員や役員として役員報酬を支給する方法も有効です。特に専業主婦である妻やリタイアした親など、他に収入がない人の場合、給与所得控除と所得税の累進課税による税率の低さを利用した節税効果を期待できます。

同族会社の株主兼社長の親族は税務上役員と見なされ、定期同額給与や事前確定届出給与などのルールが適用されます。妻を従業員にし、会社の利益に応じて役員報酬を調整することは原則的にできません。

ただし、この「みなし役員」の要件には、「経営に従事している」ことがあります。簡単な作業を手伝ってもらうだけであれば、従業員として柔軟に給与を支給できるでしょう。

従業員とするのであれば、アルバイトや正社員を雇うのと同様に扱う必要があります。つまり、仕事量や成果に見合った給与を支給しなければならないのです。仕事をしない書類上の雇用関係だと、税務調査で指摘される可能性があります。

退職金のポイント

相続や法人の解散などで役員を退任する際は、退職金を支給できます。ただし一般的な支給水準を明らかに超えるような退職金は、経費に計上できません。計算方法は「最終月の給与×就任していた月数×功績倍率」です。功績倍率は業種により異なりますが、2~3倍程度です。

退職金は実質的な所得税率が低く、手取り額が多くなりやすいというメリットがあります。勤続年数に応じた所得控除があるうえ、課税されるのは控除後の金額の2分の1だからです。ただし、役員としての勤続年数が5年以下の場合は、控除後の金額から2分の1にすることはできません。

法人化の際は慎重な税務計画を

法人から個人へ出金する方法には、役員としての定期同額給与や事前確定届出給与、退職金などがあります。家族を従業員として給与を支給する方法もありますが、上述の通り役員と見なされる可能性があるので注意が必要です。法人税法にはさまざまな制約があり、株主兼社長といえども自由にお金を引き出すことはできません。法人化にあたっては、慎重に検討することをおすすめします。(提供:相続MEMO


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