投資信託は積立投資も一括投資もでき、柔軟に投資しやすい金融商品だ。積立投資と一括投資のどちらの方法で投資すべきかに正解があるわけではない。大事なのは積立投資と一括投資の特性を理解して投資することだ。

目次
1.積立投資のメリットとデメリット
2.一括投資のメリットとデメリット
3.積立投資と一括投資を4パターンの値動きで比較
4.積立投資と一括投資の向き不向き
5.投資信託の積立と一括の選択は考え方の違い

1.投資信託の積立投資をする場合のメリットとデメリット

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(画像=small smiles /stock.adobe.com)

投資信託を積立投資する場合、どんなメリットやデメリットがあるのか確認しよう。

投資信託の積立投資をするメリット

投資信託の積立投資は、投資初心者など誰でも投資しやすい方法だ。タイミングを自分で計らず機械的に投資信託を買い付けていき、価格の下がっているときでも一喜一憂せずに投資を続けられる。

投資信託の一括投資の場合、高値つかみになると利益が出るまで何年もかかることがある。積立投資でも利益が出るまで時間がかかることもあるが、価格が下がっているときでも積立を続ける効果は大きい。価格の下落中は一括投資なら相場を見守ることしかできないが、積立投資なら価格の安い時期が続けば、それだけたくさん買い付けできるチャンスとも言える。

投資のドルコスト平均法とは

投資信託の評価額は「基準価額×口数」で計算し、口数をどれだけ多く買い付けられるかが重要だ。たとえば、同じ10万円の投資金額でも基準価額1万円のときに一括投資すれば10万口だが、5,000円に下がったときに買えば20万口も買い付けできる。投資信託の口数を多く買えると、仮に基準価額が1万円に戻ったときには評価額は20万円になる。同じ投資金額でも口数の買付量はパフォーマンスに影響するのだ。

投資信託の積立投資は機械的に買い続けるため、下落の時期が続けば、同じ投資金額でも一括投資より口数を多く買える。言い換えれば、バーゲンセールのときにたくさん買うのと同じである。つまり投資信託の積立投資は投資資金を分散して買い付けるため、高値つかみを避けつつ下がっているときには安く買っていく方法だ。

これをドルコスト平均法と言い、積立投資のメリットでもある。

投資信託の積立投資をするデメリット

投資信託の積立投資はドルコスト平均法によって買付単価を平均化できるが、上昇相場が続くと一括投資より不利になる。

仮に相場が上昇し続ければ、資金を分散して買い付ける積立投資では平均買付単価が徐々に上がっていく。一括投資は投資した時点の単価から変わらないため、右肩上がりが続くほど一括投資のほうが有利になるのだ。さらに高値の時期が続いた後に価格が下落すると、積立投資は平均単価が上昇している分だけ一括投資よりリターンがマイナスになりやすくなる。

投資信託の積立投資は買付単価を平均化し価格変動リスクを抑えられる投資方法だが、値動きに上下の波がある場合に効果を発揮する投資方法だと認識しておきたい。

2. 投資信託の一括投資をする場合のメリットとデメリット

投資信託のもうひとつの投資方法として一括投資という方法がある。このメリットとデメリットも確認しよう。

投資信託の一括投資をするメリット

投資信託に一括投資するメリットは、先述したように上昇相場では積立投資より利益が大きくなりやすいことだ。投資会社のアライアンス・バーンスタインによると、10年間の一括投資と積立投資を比較した結果、どちらも元本より増えていたものの、すべての分布パターンで一括投資が上回っていた。これは投資資金を早く投下したためである。

たとえば毎月1万円ずつ投資し10年間で120万円投資する場合、積立投資は分割で投資するため、まだ投資していない残りの資金は手元に置いておくことになる。そうすると1年経っても120万円のうち12万円しか運用していないことになり、初めからすべての資金を投資する一括投資より非効率とも考えられる。

もちろん価格には上下があるため早く投資すればよいというわけではないが、仮に10年間の平均利回りが5%だとすれば、分割で投資するより最初にまとめて投資するほうが最終的に資金は増える。運用はいわゆる「お金を働かせている」状態であり、一括投資のほうが働かせる期間が長くなる分、プラスリターンは大きくなりやすい。

投資信託の一括投資をするデメリット

投資信託の一括投資では積立投資よりお金の増え方は大きくなるが、それは右肩上がりの投資環境が続く場合である。

先ほどのアライアンス・バーンスタインの比較も、成長力のあるグローバル株式をもとに試算した結果だ。いまだバブル期の最高値に届かない日本株式で試算すると、積立投資のほうが運用成果はよくなる傾向にあった。別の見方をすれば、一括投資は右肩上がりの環境には強いが、それ以外では積立投資のほうが有利な運用になりやすい。

一括投資は価格が下落すればそのままマイナスが膨らんでいきやすいので、長期的に考えて上昇が期待できるものに投資するようにしよう。

3.投資信託の積立投資と一括投資を4パターンの値動きで比較

投資信託の積立投資と一括投資について解説したが、その特性がよくわかるように値動きのパターン別にどのような結果になるのか見てみよう。各パターンは手数料を考慮せず以下の前提条件でシミュレーションする。

<前提条件>
・積立投資……基準価額1万円のときから1万円ずつ10回投資
・一括投資……基準価額1万円のときに10万円投資

パターン1……投資信託の基準価額が右肩上がりの場合

投資信託の基準価額が右肩上がりのときには、積立投資だと買い付けできる口数が徐々に減っていく。このパターンでは最初が最も安いときであるため、結果的に一括投資のほうが買付口数は多くなり、利益も膨らんでいく。積立投資でもプラスリターンにはなるものの、右肩上がりの相場は一括投資のほうが有利な投資環境だ。

投資回数 基準価額 積立投資 一括投資
買付口数 買付口数
1回目 1万円 1万口 10万口
2回目 1万1,000円 9,090口 買い付けなし
3回目 1万2,000円 8,333口
4回目 1万3,000円 7,692口
5回目 1万4,000円 7,142口
6回目 1万5,000円 6,666口
7回目 1万6,000円 6,250口
8回目 1万7,000円 5,882口
9回目 1万8,000円 5,555口
10回目 1万9,000円 5,263口
合計口数 7万1,873口 10万口
評価額 13万6,558円 19万円
(筆者作成)

パターン2……投資信託の基準価額が上昇し再び下落する場合

投資にはアップダウンがあるため、利益がマイナスになることもある。上昇後に下落し最初の基準価額を下回った場合、一括投資はもちろん損失だが、積立投資のほうが損失幅が大きくなる。これは上昇中に買い付けられる口数が少なくなってしまうためであり、その後下落すると買付口数の少ない積立投資のほうが不利になってしまうのだ。

投資回数 基準価額 積立投資 一括投資
買付口数 買付口数
1回目 1万円 1万口 10万口
2回目 1万2,000円 8,333口 買い付けなし
3回目 1万4,000円 7,142口
4回目 1万6,000円 6,250口
5回目 1万8,000円 5,555口
6回目 1万6,000円 6,250口
7回目 1万4,000円 7,142口
8回目 1万2,000円 8,333口
9回目 1万円 1万口
10回目 8,000円 1万2,500口
合計口数 8万1,505口 10万口
評価額 6万5,204円 8万円
(筆者作成)

パターン3……投資信託の基準価額が下落してから上昇する場合

逆のパターンとして、基準価額が下落してから上昇するケースを見てみよう。この場合は、積立投資の場合、基準価額が下がっている間にも安く口数を買い付けていくため、安値で買えない一括投資より有利になる。最終的にはどちらもプラスリターンになるが、より多くの口数を買い付けできた積立投資のほうが利益は大きくなる。

投資回数 基準価額 積立投資 一括投資
買付口数 買付口数
1回目 1万円 1万口 10万口
2回目 9,000円 1万1,111口 買い付けなし
3回目 8,000円 1万2,500口
4回目 7,000円 1万4,285口
5回目 6,000円 1万6,666口
6回目 5,000円 2万口
7回目 7,000円 1万4,285口
8回目 9,000円 1万1,111口
9回目 1万1,000円 9,090口
10回目 1万3,000円 7,692口
合計口数 12万6,740口 10万口
評価額 16万4,762円 13万円
(筆者作成)

パターン4……基準価額が下落してから半分まで回復する場合

投資信託の基準価額が下落し、半分までしか回復しなかったパターンはどうだろうか。半値になると一括投資は当然損失だが、積立投資は損失とは限らない。積立投資は大幅に下落したときには大量に口数を買い込めるため、その間の買付口数が多ければ多いほど損益分岐点が下がり利益が出やすくなる。今回のパターンがそれで、下落後に少し回復しただけでプラスリターンになった。

投資回数 基準価額 積立投資 一括投資
買付口数 買付口数
1回目 1万円 1万口 10万口
2回目 8,000円 1万2,500口 買い付けなし
3回目 6,000円 1万6,666口
4回目 4,000円 2万5,000口
5回目 2,000円 5万口
6回目 2,600円 3万8,461口
7回目 3,200円 3万1,250口
8回目 3,800円 2万6,315口
9回目 4,400円 2万2,727口
10回目 5,000円 2万口
合計口数 25万2,919口 10万口
評価額 12万6,459円 5万円
(筆者作成)

4.投資信託は種類により積立投資と一括投資の向き不向きがある

上記の表からもわかるように。投資信託の積立投資は下落に強く、一括投資は上昇に強い。その特徴を踏まえ、どのような投資信託が積立投資と一括投資に向くのだろうか。

積立投資が向いている投資信託の種類……値動きのある株式投資信託

投資信託の積立投資は資金を分割して買い付けることで下落しても安値を拾っていく。そのため積立投資には値動きにアップダウンがあり、上昇だけでなく下落もしやすい投資信託が向いている。

値動きのある投資資産の代表は株式投資信託だが、株式にも日本や米国、中国などさまざまな種類がある。カテゴリーとしては先進国株式と新興国株式に分かれる。株式である以上どちらも値動きは大きいが、一般的には新興国株式のほうが乱高下しやすく、より積立投資に向いている。もちろん先進国株式も価格変動が大きいため、積立投資に適している。

株式投資信託以外にもREITやコモディティといった相対的に価格変動の大きな資産もあるため、資産クラスごとに値動きの特徴を把握して、積立投資が向いているのか検討してみてほしい。

一括投資が向いている投資信託の種類……価格変動が緩やかな債券型投資信託

一括投資が向いている投資信託は継続的な上昇が期待でき、資産や金利収入の得られる資産に投資するものだ。そのような投資信託は早い時期に投資しておくほど利益が膨らみやすいため、一括投資が向いている。具体的には株式投資信託の中でも国や投資対象を絞ったものや、利息の付く債券型投資信託である。

株式投資信託は値動きが大きいといったが、10年や20年単位など長期的に見ると右肩上がりのことも少なくない。積立投資のほうが価格変動リスクは抑えられるものの、結果的に一括投資のほうが資産は増える可能性もある。とはいえ将来も上昇し続けるかはわからないため、あくまでも結果論である。

債券型投資信託は相対的に価格変動が緩やかであり、値動きの大きい資産と比べると積立投資の効果が十分に発揮されにくい。値動きがそれほど大きくないのであれば、最初から一括投資をして金利収入の積み上げを期待するほうが効率がよい。ただし外国債券は為替変動リスクも伴うため、価格変動を抑えたい場合は積立投資を行うのもいいだろう。

5.投資信託の積立と一括のどっちがいいかは考え方の違い

投資信託の積立投資と一括投資は、それぞれメリットとデメリットがあり、どちらが優れているとはいい難い。リスクを抑えたい場合は積立投資、利益を伸ばしたい場合は一括投資という選び方をしてもいいし、投資する商品ごとの特性に合わせて投資方法を変えてもいい。投資結果は終わってみないとわからないため、投資に対する考え方をもとに積立投資と一括投資を選んでいこう。

執筆・國村功志(ファイナンシャルプランナー)
大手証券会社で株式・債券・投資信託などの金融商品販売に携わる。その後、ファイナンシャルプランナーの養成団体やFP事務所を経て、現在は資産形成FPとして活動。個人の資産運用経験も活かし、金融機関や一般の人向けに毎月セミナーも行っている。CFP®️、証券外務員一種

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