アパートのオーナーとしては、何らかの理由で入居者に立ち退きをお願いしなければならないケースがあります。例えば「建物の老朽化により建て替え」「建物を相続したけど少し目的を変えた建物にしたい」などさまざまな理由があるでしょう。もし建て替えなどを実行する場合は、現賃借人に立ち退いてもらう必要があります。

本記事では入居者に立ち退きをお願いするときの手順と立ち退き料の計算方法について事例を見ながら解説します。

旧借地借家法と新借地借家法

賃貸管理
(画像=luismolinero/stock.adobe.com)

旧法借家法の時代は、所有者の自己使用などの理由がかなり限定され実質的に立ち退きが不可能という状況が長く続きました。なぜなら終戦後、引き上げ先から戻ってきた兵士を守る意味合いが色濃く残っていたからです。しかし「あまりにも賃借人に有利な立場になる」ということが指摘されはじめ1992年8月から新借地借家法が施行されました。

旧借地借家法は1921年(大正10年)から71年続いたものでした。新借地借家法では、賃借人の立場を配慮したうえで賃貸人の立場も今まで以上に重視され社会的な弊害を取り除くようになったのです。もちろん賃借人を立ち退かせる場合は、賃貸人の正当な理由が求められこの理由がきちんと整理され分かりやすく明示されました。

立ち退いてもらう正当事由とは

賃借人に立ち退いてもらうためには、正当事由を明確にすることが必要です。一般の賃貸借と異なり建物の賃貸借は、賃借人を保護することが重視されています。例えば賃貸借契約期間が満了した時点で賃借人が契約の延長を望む場合、賃貸人に正当事由がないと原則認められません。ではその正当事由とは以下の4つです。

  • 賃借人および賃貸人が建物の使用を必要とする理由
  • 賃貸借に関する従前の経過
  • 建物の利用状況および建物の現況
  • 賃借人に対して財産上の給付をする旨申し出た場合におけるその申し出

最近の判例においてもこの4つのポイントが論点となっています。

立退料の計算

上記4番目の「財産上の給付」というのがまさに立ち退き料にあたるものです。まず立退料の算定方法を見ていきましょう。近年は以下の5つが不動産鑑定の中で主に使われている方式です。

  • 比準方式
  • 賃料差額補償方式
  • 価格控除方式
  • 借地権価格割合方式
  • 公共事業損失補償方式

ここでそれぞれの詳細な計算方法を示すことはしません。しかし上記5つの方法にもメリットとデメリットが存在します。また実務上このいずれかの方法で計算をした場合、とても現実的な立退料と思えない金額になるケースも少なくありません。最近の判例の中で立退料とは、建物明け渡しによる移転費用その他の損失を補てんするもので借家権価格と損失補てん額を足した金額と解釈されます。

これを計算式で表すと「立退料=借家権価格+移転費用」です。借家権価格とは、「賃借人が長く建物を借りていることで発生する価格」と定義されます。そのため一般的な居住物件と商売をする店舗物件では、その価格が異なることになるでしょう。また移転費用とは、現賃借物件から引っ越す費用全般を指します。具体的には、以下のようなものが挙げられます。

  • 引っ越し費用
  • 移転先に合わせた家具の購入費用
  • 造作費用
  • 新たな賃貸借契約により発生する費用

最近の立退料の判例事例

立退料について最近の判例の傾向は以下の通りです。

  • 正当事由の判断においては、新法施行以降おおむね「賃貸人が賃借人に対して返還させる権利」を明確にしている
  • 立退料の金額は、賃借人の拒絶の可能性との絡みで決まってくる
  • 直近では、借家権よりも立ち退きにより発生する経済的損失に重視する傾向がある

これを踏まえた立退料のおおよその計算方法は、立ち退き後の時点から賃貸借契約の残存期間に対応する引っ越し先の新賃料と引っ越し代を合わせた程度といわれています。オーナーとしては「賃借人に早く立ち退いてもらって新たな建物の建築にかかりたい」といったケースの場合、その金額に幾分上乗せすることもあるでしょう。

立ち退きは交渉事のため、一方的な強要は望ましくありません。オーナーの事情だけでなく賃借人の事情を十分に考慮したうえでお互いにとって妥協できる範囲で決着をつけるのが理想といえるでしょう。(提供:YANUSY

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