本記事は、浅野 潔氏の著書『米国海軍大学元教官が教える自律型チームのつくり方』(フォレスト出版)の中から一部を抜粋・編集しています。

米国海軍大学元教官が教える自律型チームのつくり方
(画像=aironamad/stock.adobe.com)

アメリカ軍がたどり着いた「任せる」指揮法「ミッション・コマンド」とは?

目的&理想を示して、やり方は委ねる

ミッション・コマンドとは、簡単に言うと、命令するのでなく、部下に任せる指揮法のことです。「権限委任型指揮」という呼び方もあります。
上官は、部下に対してあれこれ細かい指示をするのではなく、組織が目指すべき目的と理想の状態をしっかり説明します。そして、目的と理想を実現させるためのやり方については、部下が自ら考えて行動するように促すのです。
ビジネス的に読み替えるなら、

部下に裁量権を与え、部下は与えられた裁量の中で自由に判断して行動し、課せられたミッションを達成する

ということになるでしょう。
他にも、
「“命じる”のではなく“委ねる”」
「指示するのではなく、ガイダンスを示す」
といったフレーズが、ミッション・コマンドの考え方をわかりやすく表しています。

目まぐるしい変化に、迅速かつ的確に対応する

ビジネスパーソンの多くは、上司の指示に対して、首をかしげたり苛立ったりした経験があるはずです。
「現場のことがわかってないのに、あれこれと口を出してくるんだよな。勘弁してほしい……」
軍事組織においても事情は同じです。
上官は、必ずしも最前線で何が起きているかを把握できているとは限りません。状況は目まぐるしく変化するのですから、当然です。上官からの命令は現場の事情にマッチしないことも多いわけです。
それなら、命令を待つのではなく、現場にいる部下自身に判断を任せたほうが、スピード感があり、かつ適切な意思決定と行動が可能になるはず。
ミッション・コマンドの根底にあるのは、そんな考え方です。

ロシア軍のウクライナ侵攻で見るミッション・コマンドの効用

ミッション・コマンドの有効性が証明された最近の事例が、ウクライナとロシアの戦いです。
2022年2月にロシア軍がウクライナに侵攻を開始したとき、一般的な見方は「ロシア軍の勝利は時間の問題」「1カ月もつかどうか」といったところでした。ウクライナにはアメリカやEUの支援も期待できるとはいえ、ロシアとは軍の規模がまるで違いますから、こうした予測は当然でしょう。
ところが、現実に起きたことはご存じのとおりです。
(2026年2月現在)に至るまで、ウクライナ軍は圧倒的に強大なロシア軍を相手に善戦しています。
理由はいくつも考えられますが、その1つが指揮法の違いです。
ロシア軍は、旧態依然とした「絶対服従型」に近い指揮法を取っているのに対し、ウクライナ軍はアメリカ軍やNATO軍からミッション・コマンドを学び、実践しているのです。

その違いが現れている事象が、この戦争の序盤からしばしば報道された、ロシア軍指揮官の戦死です。
ロシア軍は「絶対服従型」の組織だからこそ、上官がトンチンカンな命令を出すと大損害につながります。指揮官たちもそのことはわかっていますから、できるだけ自ら現場に出ていって、状況を見極めようとします。
こうして前線に出てきたところをウクライナ軍に狙撃されたり、ミサイルを打ち込まれたりして、指揮官クラスが次々と戦死していったーーというわけです。

米国海軍大学元教官が教える自律型チームのつくり方
浅野 潔(あさの・きよし)
ハイパフォーマンス組織プロデューサー。エンドステートナビゲーション代表。
防衛大学校卒業後、海上自衛隊に入隊。34年間の勤務において、護衛艦での実任務をはじめ中東アデン湾派遣、阪神・淡路大震災および東日本大震災での災害派遣部隊司令部幕僚を歴任。極限の状況下における指揮官の意思決定プロセスを数多くサポートする。その後、アメリカ海軍大学(ロードアイランド州)にて専門的な軍事的意思決定・問題解決法を修得。その知見を活かし、同大学に新設された「国際海上作戦幕僚養成課程」の外国人教官として招聘され、世界各国の海軍士官への教育に従事した。退職前の約6年間は、海上自衛隊幹部学校にて作戦教官を務め、1,000名以上の高級幹部に対する講義や図上演習を担当。2021年、1等海佐で退官。現在は、軍事理論をビジネスに応用した独自の「ミリタリー式組織マネジメント」を確立。製造、金融、医療などの民間企業、24時間稼働の厳しい現場を持つ組織を中心に、自律型組織への変革支援を行なっている。

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