働かずに収入が得られるのは誰にとっても理想だ。ETFの分配金や株の配当金は保有しているだけでお金がお金を生む仕組みなので、まとまった資金があれば理論上は不労所得生活が可能だ。問題はどのくらいの資金と利回りが必要かということだ。

目次
1.ETFの分配金と株式の配当金の違い
2.ETFや株だけで生活するために必要な資金
3.ETFで期待できる分配金利回り
4.「高配当」に着目したETFとは
5.ETFで高配当生活を目指すときの注意点
6.ETFの配当で不労所得生活を

1.ETFの分配金と株式の配当金の違い

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(画像=Tierney/stock.adobe.com)

ETFの分配金と配当金の性質についてみていこう。

インカムゲインと配当生活

インカムゲインは値動きによって得られるキャピタルゲインとは異なり、保有しているだけで得られるため不労所得として期待が大きい。最も身近なインカムゲインは預貯金だが、低金利政策により、その金額は雀の涙だ。

大きな収益が見込めるインカムゲインといえば不動産を賃貸することによる家賃収入だが、業界に詳しくない人が気軽に始められるものではない。そこでおすすめなのがETFだ。ETFの分配金や株の配当金であれば、ある程度の勉強は必要ではあるものの手が届くところにある。

投資信託やETFが「配当金」ではなく「分配金」である理由

「分配金」と「配当金」はどう違うのかと疑問に感じる人は多い。投資信託やETFで投資家に支払われるのは分配金だ。分配金と配当金の大きな違いは、分配金は運用会社が支払うのに対し、配当金は株式を発行した企業が支払う点にある。運用会社が支払う分配金の原資は株式の配当金や債券の利子および値上がり益などなので、配当金は分配金の一部という位置づけだ。

2.ETFの分配金や株の配当だけで生活するために必要な資金

ETFの分配金はETFを保有することによって得られる。つまり元手の資金が必要だ。

日本人の平均的な生活費は月24万1,000円

ETFの分配金や配当金だけで生活することは可能なのだろうか。厚生労働省の調査によると、全世帯の平均家計支出額は月24万1,000円だ(平成29年「国民生活基礎調査の概況」より)。これは教育費や住宅ローンなどがかさむ子育て世帯も含めての数字である。出費がかさむその時期に不労所得生活に入るのはなかなか考えにくいので、リタイヤ世帯の水準を参考にしてみる。その場合、月に必要な生活費は世帯人数が1.5人で19万4,000円だ。

20年間ETFだけで生活するために必要な資金はリターンの利率によって変わる

お金がお金を生むためには原資がいる。月に19万4,000円の生活費は年間で232万8,000円になる。それらをすべてETFの分配金でカバーするためには、約1億円分を投資して年率2.3%の分配金収入が必要だ。

しかし、なかなか現金で1億円を保有しているケースは少ない。では取り崩しながらの場合はどうか。20年間、毎月19万4,000円を取り崩しながら生活する場合、必要な資金は以下になる。

年率リターン1%→投資元本4,221万円
年率リターン2%→投資元本3,842万円
年率リターン3%→投資元本3,511万円
年率リターン4%→投資元本3,222万円
年率リターン5%→投資元本2,968万円

5%なら約3,000万円、2%なら4,200万円超になった。このようにリターンの利率によって必要資金は100万円単位で変わる。

3.ETFはどのくらい分配金利回りの生活を期待できるのか

ETFの分配金や株式の配当金はどのくらいの利回りが見込めるのだろうか。ETFの分配金の水準について解説する。

ETFの分配金利回りランキング

分配金利回りとはETFに投資した金額に対し1年間でいくら分配金があったかを示す。たとえば基準価額が1万円のETFから年間200円受け取った場合、利回りは2%になる。分配金利回りの高いETFは、証券会社やリサーチ会社が提供しているランキングがあるので見つけるのは簡単だ。

クォンツ・リサーチ社によると、2020年7月29日時点のETF分配金利回りランキングは以下である。

  銘柄名 分配金利回り(%)
1 NEXT FUNDS銀行(TOPIX-17)上場投信 14.59
2 NEXT FUNDS運輸・物流(TOPIX-17)上場投信 8.45
3 日経300株価指数連動型上場投資信託 7.27
4 上場インデックスファンド新興国債券 5.01
5 東証銀行業株価指数連動型上場投資信託 4.95
※筆者作成

分配金利回りが10%もあれば配当生活も夢ではないが、ランキング上位の運用会社や業界分類に大きな偏りがあるのが気になるところだ。

分配金利回りは「過去1年間の分配金÷基準価額」で計算されるので、基準価額が下がれば利回りは上がる。実施時期も商品によって毎月・隔月・四半期・年2回と異なるので、ランキング1位のETFを購入すれば同じ分配金利回りが得られるとは限らない。あくまでも参考程度にしておいたほうが良い。

ETFの分配金平均利回りは2.15%

日本取引所グループ(JPX)によると、分配金の支払いをおこなっているETF154銘柄のうち、「1%以上2%未満」が最も多く見られ、1%未満や4%超のものは少ない。分配のあるETFの平均利回りは2.15%である。特に高い分配金利回りが期待できるのは外国債券指数とREIT指数に連動するETFで、分配金利回り平均は3.12%と平均を大きく上回る。

分配金利回りが2.15%のETFだけで生活するために必要な資金

分配金利回りが2.15%の場合、資金がいくらあれば不労所得生活が可能なのだろうか。元本を取り崩さず分配金だけで月々に必要な生活費を先ほどの19万4,000円と仮定する場合、保有する必要があるETFの元本は1億828万円分だ。

分配金を受け取りつつ取り崩しもするのであれば、3,789万円分のETFを保有していれば20年間はETFだけで生活できる。ただしこれはあくまでもシミュレーションだ。分配金利回りは常に一定とは限らないし、税金や諸経費のことも考える必要がある。リスク分散のことを考えると、1種類のETFのみに投資することも現実的とはいえない。

4.「高配当」に着目したETFとは

高配当を得るには直接配当の高い企業の株式を購入するのが一般的だが、高配当株式に投資することで高分配を実現するETFもある。

株式の高配当ETF銘柄

インカムゲインが得られる金融商品といえば株式の配当金だ。企業からは株式を保有している投資家に口数に応じた配当金が支払われる。その利回りが高い企業の銘柄を「高配当銘柄」と呼ぶ。

一般的には利回りが3%を超えると高配当とされ、該当する銘柄は500を超える。ちなみに2020年6月時点の東証一部上場有配企業の平均利回りは2.15%、第二部上場有配企業2.42%だ。高配当株式をいくつも保有すれば配当生活も夢ではなさそうだが、株式は1口の売買代金が高く、1社につき100万円を超える場合もある。

そこで知っておきたいのは、多くの高配当銘柄に投資することで低コスト・高分配をめざすETFの存在だ。

バンガード・米国高配当株式ETF:VYM……米国の配当株式関連のETFの中では経費率が最も低い

一般的に分配利回りの高いETFはリスクを取って得たキャピタルゲインを還元することによって高分配を実現している。そのため高額な分配金が期待できる半面、基準価額の変動が激しく手数料は高いケースが多い。

バンガード社の「米国高配当株式ETF(VYM)」は、高配当株式に投資することによって得たインカムゲインを原資に分配金を支払う。2019年は分配金利回りが安定的に3%を超えるなど、高水準を維持している。1年間にかかる費用の割合である経費率は0.06%と、米国の配当株式関連のETFの中では最も低い。

バンガード・米国増配株式ETF:VIG……3年のトータルリターンが39%増

一時的ではなく継続して配当を増やしている企業に注目したETFがある。同じくバンガード社の「米国増配株式ETF(VIG)」だ。10年以上連続して増配の実績を持つ米国株式の中でも長期で業績向上が期待できる銘柄に投資している。

景気動向に業績が左右されにくいディフェンシブ銘柄と、今後も成長を期待できる企業の銘柄で構成されている。トータルリターンはこの3年で39%増だ。

5.ETFで配当生活を目指すときの3つの注意点

ETFへの投資においては以下の点について注意しよう。

注意点1……ETFの分配金は複利の効果が得にくい

ETFの分配金は原則、収益から信託報酬などを控除した金額をすべて支払われている。したがって収益を再投資することで投資元本を増やす「複利の効果」は得られない。手動で再投資する場合の分配頻度はあまり高くないほうが効率的だ。

毎月分配型の投資信託の中には元本を取り崩して分配金を支払うタイプがあり「タコ足配当」と批判されている。しかしETFは収益以外から分配金が支払われることはないので、分配金のために元本が取り崩されることはない。

注意点2……値動きと分配のトータルで考える

分配金の利回りが良くても、基準価額の値下がりが大きければトータルでマイナスだ。ETFで高分配金をうたっているもののなかには、ベンチマークになる指標のパフォーマンスを下回る銘柄もある。

たとえば「上場インデックスファンド新興国債券」の基準価額は対象指標を約12%も下回る(2020年7月末時点)。分配金と基準価額は少なくとも過去3年分をチェックしたい。

注意点3……信託報酬と手数料の低いETFを選ぶ

ETFに限った話ではないが、投資にかかるコストは低いに越したことはない。信託報酬や取引手数料はできるだけ低いものを選ぼう。長期安定運用を目的としたつみたてNISAのETF商品の要件が参考になるだろう。販売手数料は1.25%以下、信託報酬は0.25%以下をひとつの目安とするのが良い。

6.リスクも加味しながらETFの配当で不労所得生活を実現しよう

ETFにはさまざまな注意点もあるため、投資初心者はなかなか手が出しにくいかもしれない。しかし正しく理解をしたうえで投資すればETFの配当で不労所得生活も叶うはずだ。

執筆・篠田わかな(ファイナンシャルプランナー)
外資系経営コンサルティング会社にて製造・物流・小売部門のコンサルタントとして業務/システム改革プロジェクトに参画。退職後独学でFP技能士の資格を取得。開業して個人事業主となり、マネー・ビジネス分野の執筆、企業からの請負業務を手がける。

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