足元で市場が急拡大しているクラウドファンディング。ある情報サイトのアンケート調査では、7割近い人がその存在や仕組みを知っているという結果になった。それだけ、クラウドファンディングが身近なものになり、プロジェクトに「共感」する人々が増えつつあるということだ。
今回の特集ではクラウドファンディングそのものの解説から、業界大手企業の代表者へのインタビューや実際にプロジェクトを実行した企業への取材記事などを掲載。クラウドファンディングの真髄に迫る。
成長を続けるクラウドファンディング市場
おそらく、この記事に目を通し始めたあなたは、次のいずれかに該当するのではないだろうか。従来の投資では得られなかったプラスアルファの満足感を求めている人か、資金面がネックとなって長年温めている夢を実現できていない人である。
クラウドファンディングについては、すでに多くの人がある程度は認識しているようだ。融資・借入情報サイトの「資金調達プロ」が2018年12月に発表したアンケート調査では、クラウドファンディングについて「仕組みを知っている」あるいは「名前を聞いたことがある」と回答した人が全体の67.2%に達していた。
あるシンクタンクの調査によると、国内のクラウドファンディングによる資金獲得額は2014年度に221億9100万円だったが、2018年度には2044億9900万円に達したという。数年のうちに目覚ましい勢いで普及しているわけだ。従来の投資商品とは異なる魅力に惹かれてお金を出す人と、クラウドファンディングによる資金調達で夢を実現しようとする人が急激に増えているということである。
ここで、改めてクラウドファンディングとは何かについて説明しておこう。クラウドファンディングは、クラウド(群衆)とファンディング(資金調達)という言葉をミックスした造語である。「特定の目的のために、インターネット上で不特定多数の人たちから少額ずつ資金を集める」ための手段や行為を意味する。
まず、資金を求めている側は、自分(もしくは自分たち)が構想を練っているプロジェクトについてネット上でプレゼンテーションし、賛同を呼びかける。そして、それに共感した人たちが少額ずつ資金を出し合い、そのプロジェクトの実現、達成を支援するというのが基本的な流れである。
ここまで爆発的な普及ぶりを示しているのは、資金を出す側とリターンを受け取る側にクラウドファンディングならではのメリットがあるからだ。この特集ではそれを明らかにしつつ、両者(出す側と受け取る側)が存分に恩恵を享受できる活用法や、クラウドファンディングが抱えるポテンシャルなどについて検証していく。
キーワードは「共感」や「一体感」
結論から言えば、資金を出す側と受け取る側の“距離”が一般的な投資よりもはるかに近いことがクラウドファンディングの魅力だろう。株式投資においても、「その会社のミッションやビジョンに共感し、事業を応援するつもりで株主になる」といった表現がよく用いられる。
ただ、クラウドファンディングはもっと具体的なアクションになる。「株式型(説明は後述)」のように株式投資と同じようなタイプもあるが、特定のプロジェクトの実現に向けた資金を提供することになるため、よりダイレクトな支援行動となるわけだ。
投資する側にとって重要なのは、その事業対する「共感」である。また、プロジェクトを事業主とともに成功に導きたいという一体感も生まれやすい。しかも、多くのケースでは株式投資よりも少額で出資することが可能だ。この「共感」や「一体感」がクラウドファンディングのキーワードとなる。
事業主、つまり資金提供を求める側にとっても、クラウドファンディングは画期的と言えよう。金融機関による融資やベンチャーキャピタル、エンジェル投資家(スタートアップの支援者)による出資といった従来方式の資金調達は、小規模の事業主にとっては狭き門だ。
その点、クラウドファンディングを通じた資金調達ははるかにハードルが低い。ネットの爆発的な「拡散性」によって、たとえ1人1人の出資額は限られていても、時に驚異的なパワーで資金を集められる。たとえば、ゲームブランドのOVERDRIVEが最終作「MUSICA!(ムジカ)」を開発するプロジェクトには、実に5037人が出資。3969万6000円の目標額に対して1億3230万2525円もの資金が集まった。
このように、“募る側”と“応じる側”の双方にとって手軽で、ともに熱くなることができるのがクラウドファンディングの特徴であり、魅力と言えるのだ。
原型は「ピューリッツァー賞」で知られるピューリッツァーの活動?
こうしたクラウドファンディングというスキームが確立する前から、不特定多数の人たちから資金を集めて特定の目的を果たすという行為は世界的に繰くり返されてきた。キリスト教社会では様々なことのために寄附が盛んに行われてきたし、日本でも寺院や仏像などの造営・修復資金を集める「勧進(かんじん)」が古くからの慣習となっていた。
実は、ピューリッツァー賞の由来となった米国人ジャーナリストのジョーゼフ・ピューリッツァーが1880年代に行った活動が、クラウドファンディングの原型と言われている。フランスから米国に自由の女神が贈られたことはよく知られるが、その台座の製作資金が途中で尽き果ててしまい、ピューリッツァーは自らが発行する新聞を通じて寄付を募った。当時は新聞が最も先進的なメディアだったからだ。
初めてネット上で寄附を求めたのは、90年代末期にイギリスのとあるロックバンドとの説がある。このバンドのファンが、全米ツアーの費用を集めるため、ネットを通じて寄付を呼びかけたという。インターネットの普及に伴って類似の行為が散発した後、2000年代の米国でついにクラウドファンディングのスキームが確立される。出資を求める側とそれに応じる側をマッチングさせるプラットフォームとして、Indiegogo(2008年設立)やKickstarter(2009年設立)をはじめとするサービスが続々と生まれた。
それから遅れること数年、日本でも2011年3月にクラウドファンディング会社としてReadyfor(レディーフォー)が誕生。また同年6月には、後に国内最大手となるCAMPFIRE(キャンプファイヤー)がサービスを立ち上げた。くしくも東日本大震災に見舞われた年。復興支援のための寄付を行う手段として注目されたことが、日本のクラウドファンディングにとって最初の起爆剤となる。
さらに2011年には、北尾吉孝氏率いるSBIグループのSBIソーシャルレンディングが「融資型」と呼ばれるタイプ(説明は後述)に的を絞ってサービスを開始する。2013年にはサイバーエージェントの子会社であるMakuake(マクアケ)が追随するなど、現在の主要なプレイヤーが出揃ってきた。その後もクラウドファンディングのプラットフォームを提供する事業者はさらに増え続け、先に述べたように市場も急ピッチで拡大を続けている。
では次に、クラウドファンディングではどのような形式で具体的に資金集めが行われているのかについて見ていこう。
クラウドファンディングの種類を把握する
一口にクラウドファンディングと言っても、いくつかの種類に分類される。不特定多数の人からお金を集めるという点は共通しているが、タイプによって出資者が得られるリターンの質や内容が異なってくる。
<購入型>
日本におけるクラウドファンディングで主流となっているのが「購入型」。これは、プロジェクトに賛同して出資すると、その見返りとして金銭ではなくモノやサービスが得られるというスキームだ。独自の製品や芸術作品、サービスを考案したのでそれを世に送り出したいという趣旨のプロジェクトが多く、それらを購入するような感覚で支援できる。購入型では、一般的なEC(電子商取引)と同じ感覚でクラウドファンディングを活用する事業主も少なくないようだ。
さらに「購入型」には、「All or Nothing(達成時支援)型」と「All In(即時支援)型」というタイプがある。「All or Nothing型」は、募集期間内に集まったお金が目標額に達した場合にのみプロジェクトが成立。目標額に達しない場合、基本的に出資金は各出資者に返金される。
これに対し、「All In型」の場合はたった一人でもお金を出す人が現れれば、目標額に届かなくてもプロジェクトが成立する。発案した側にとっては、期待していたほどお金が集まらなくてもプロジェクトを実行して出資者の期待に応えなければならない。
<寄付型>
「寄付型」はその名称の通り、無償で出資してプロジェクトを支援するもの。金銭面はもちろん、商品やサービスなどの見返りは原則的に得られない。ただ、プロジェクトを起案した人から、出資のお礼として手紙や写真などが贈られるケースが多いようだ。自然災害の被災地を支援する際などによく用いられるのがこのスキームである。
<融資型>
金融機関の融資に代わる資金調達手段として活用されているのが「融資型」だ。起案するのはもっぱら企業で、特定のプロジェクトを実行するための資金を募り、期限までに所定の利息を乗せて出資者に返済する。
「融資型」は「ソーシャルレンディング」とも呼ばれており、支援者は金銭的なリターン(利息)を得られることが前提になっている。資金を融資する色彩が濃いことから、このスキームには「貸金業法」や「金融商品取引法」といった法律が関わってくる。
資金を提供する側にとって、「融資型」の大きな魅力は利息(利率)の高さ。国内の預貯金はほとんど利息がつかないのが実情であるのに対し、「融資型」のクラウドファンディングでは、それよりはるかに高い利率の利息が見込める。
たとえば、SBIソーシャルレンディングが2019年6月14日 ~ 同年6月19日に募集した「SBISLカンボジア・モビリティローンファンド1号」は、利回り:3.8%(保証されているわけではない)、予定運用期間:約36カ月、1口:5万円という条件だった。調達した資金で購入した中古車両にIoT端末を取り付けて再販し、位置情報を把握しながらその購入費用の貸し倒れを防ぐという手法が採られた。カンボジアにおけるモータリゼーションの拡大と社会問題解決の一助とするのが狙いだという。
<株式型>
プロジェクトを起案した側に返済義務が発生せず、出資者もリターンを期待できるクラウドファンディングのスキームもある。「株式型」と呼ばれるもので、個人ではなく企業が起案者となる。
まだ株式市場に上場していないスタートアップ企業などが出資者に自社の未公開株を購入してもらう。期待通りに企業やビジネスが成長を遂げれば、その株式の価値が上昇。両者はウィンウィンの関係になるというものだ。昔から「未公開株の購入」に関しては詐欺絡みの話がつきものだが、大手クラウドファンディング事業者を通じたものは、それらと一線を画していると言える。クラウドファンディング事業者のほうで、会社の内容やプロジェクトの将来性などをきちんと精査するからだ。
日本では2015年に第一種金融商品取扱業において少額の特例が設けられたことが契機となり、2017年頃から「株式型」のクラウドファンディングが登場するようになった。出資の仲介役となる事業者には「第一種少額電子募集取扱業」の資格が求められる。また、資金を得る企業側には年間1億円未満、お金を出す投資家には「1社につき50万円まで」といった金額的な制限が定められている。
<ファンド型>
「株式型」に近いタイプとして、「ファンド型」と呼ばれるクラウドファンディングも存在する。特定の事業に対して資金提供を求める点は同じだが、投資信託(ファンド)に近い仕組みになっていて、お金を出した側は出資額に応じて金銭的なリターンを得られる仕組みだ。
支援した事業が売上を伸ばせば伸ばすほど、それだけリターンの分配も多くなる。「ファンド型」を手掛けるためにはクラウドファンディングの事業者が第二種金融商品取引業の登録を行う必要があり、国内ではまださほどこのタイプが出回っていないのが現状だ。
<ふるさと納税型>
さらに、日本国内で独自に派生した“ガラパゴス的”なタイプもある。それが「ふるさと納税型」。自治体が解決したい課題をプロジェクトとし、その内容に共感した人がふるさと納税の制度を通じて資金を寄付する仕組みになっている。
ふるさと納税の制度を活用することによって寄附した人は返礼品を得られ、寄付金の控除を受けられるのがメリットだ。「CAMPFIREふるさと納税」や「ふるさとチョイス」など、いくつかの事業者が同タイプのクラウドファンディングを実施していて、かなりの盛り上がりを見せているようだ。
これから最もアツいのは「融資型」?
今後、クラウドファンディングはどのような経緯をたどりつつ拡大を続けるのか。クラウドファンディングの成立件数で国内トップを誇るCAMPFIREの大東洋克取締役COO(最高執行責任者)はこう語る。
「これまで案件として最も多かったのは『購入型』。世間一般のクラウドファンディングのイメージも『購入型』がメインだと思います。ただ、扱う金額や市場規模という点では『融資型』のほうが大きい。私たちも『融資型』に力を入れていくことになるでしょう」
世界のクラウドファンディング市場では、取引額が年間17.1%増(2019〜2020年)のペースで拡大し、2022年までに総額11兆円を越えると予想されている。その中でも特に「融資型」のスケールが大きいのはどうしてか。また、クラウドファンディングが秘める将来性とは何なのか。クラウドファンディングは社会にどのような影響を与えるのか――。
これらの疑問に答えてもらうべく、次回は大東COOへのインタビューを掲載する。 (提供:YANUSY)
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