この記事は2026年7月31日に「きんざいOnline:週刊金融財政事情」で公開された「インフレ加速の可能性は低く、政策金利は年内据え置きに」を一部編集し、転載したものです。
2026年6月の消費者物価指数(CPI)は、基調的なインフレを示すコア指数(食料・エネルギーを除く指数)が前年同月比2.6%の上昇となり、前月に比べて伸びが鈍化した。米連邦準備制度理事会(FRB)が物価目標とする2%を依然として上回っているものの、品目別の動きを見るとインフレ圧力は強くない。
ここ数年の物価高の主因ともいえる「住居費を除くコア・サービス物価」(スーパー・コア)は、6月も前年同月比で3.2%の上昇と高めの伸びが続いている。それでも6%を超えて上昇した22~23年に比べれば、インフレは抑制されている。
ドナルド・トランプ政権の関税措置によるモノの値上がりも一巡しつつあり、食料・エネルギーを除く財の物価は、昨年後半から伸びが縮小している。米連邦公開市場委員会(FOMC)で常に投票権を持つニューヨーク連銀のウィリアムズ総裁は、「インフレはすでにピークに達した」との見方を示している。
足元では、中東情勢が再び緊迫化するなか、エネルギーを中心に、インフレ圧力が強まることも否定できない。とはいえ、22年頃のような著しい物価上昇に至る可能性は低いだろう。
一方、米景気は中東情勢の混迷など先行き不透明感が根強く残る中でも底堅い。労働市場の安定を背景に個人消費が上向き、人工知能(AI)関連を牽引役に設備投資の増勢も加速しているためだ。もっとも、個人消費は底堅さを維持しているとはいえ、同時に脆さも抱えている。
ここ数年の個人消費は、高所得層の購買力に支えられてきた側面が強く、最近の株式市場の調整が高所得層の消費意欲を抑制する可能性がある。特に米国では、所得上位10%の層が税引き前所得全体の47%を得るなど富が偏在している。
高所得層の消費活動がマクロ経済に反映されやすくなっているだけに、株安に伴う逆資産効果には注意が必要だ。AI投資もやや過熱しており、一時的に供給過剰を招くリスクもある。景気は底堅く推移しているものの、先行きについては楽観できない。
こうした経済・物価情勢の分析を踏まえ、FRBは当面、金融政策を巡って様子見の姿勢を続けるだろう。現時点の政策金利は景気抑制的な位置にあり、この水準からの利上げには慎重な判断が求められるためだ。
FRBは24年9月以降、政策金利を1.75%引き下げてきたが、現在の水準はFOMCメンバーが想定する長期的到達点(中立金利)のレンジ上限付近で、中立金利の中央値からは0.5%高い水準にある(図表)。インフレ圧力がさらに高まった場合、この水準からの利上げも正当化されようが、経済・物価ともそこまでの力強さはない。インフレ懸念は依然としてくすぶり続けるものの、年内の利上げは見送られるとみている。
信金中央金庫 総合研究所 上席主任研究員/角田 匠
週刊金融財政事情 2026年8月4日号