トランプ再選に赤信号、バイデン政権誕生で成長率上振れへ
第一生命経済研究所 主任エコノミスト / 桂畑 誠治
週刊金融財政事情 2020年10月12日号
11月の大統領選挙が近づくなか、トランプ大統領の新型コロナウイルス感染によって再選に赤信号が灯ったようだ。金融市場では先行き不透明感が強まり、債券が買われ、株、ドルが売られた。トランプ大統領は当初ホワイトハウスで執務を継続すると発表されたが、10月2日朝に大統領の血中酸素濃度を示す酸素飽和度が正常値である96~99%を下回った。重症化リスクが高まったため約1時間にわたって酸素吸入が行われ、ワシントン近郊のウォルター・リード軍医療センターに一時入院した。
トランプ大統領の症状悪化により政務継続が難しくなる場合、憲法に基づいてペンス副大統領に一時的に権限を委譲できる。過去には、1985年にロナルド・レーガン大統領が大腸内視鏡検査を受けたとき、ジョージ・H・W・ブッシュ副大統領が約8時間にわたって大統領代行を務めたほか、2002年・07年にはジョージ・W・ブッシュ(ブッシュ・ジュニア)大統領が大腸内視鏡検査に先立って、ディック・チェイニー副大統領に一時的に権限を委譲した。
現職の大統領が業務遂行不可能に陥った場合でも米国の統治に問題が生じることはない。ペンス副大統領夫妻はPCR検査で陰性だったが、仮にペンス大統領代行も新型コロナに感染し、職務遂行不能になった場合は、ペロシ下院議長、グラスリー上院議長代行、ポンペオ国務長官と大統領職の代行者が定められている。ただし、民主党のペロシ下院議長が大統領の代行を行う場合には、安全保障以外の政策が停滞するのは避けられないだろう。
11月の米大統領選への影響では、トランプ大統領への同情票が期待できる一方で、大統領の危機管理能力がないとの声や、根拠もなく専門家の意見を無視した判断能力の欠如への批判も多く、感染対策を重視する保守層の支持を失った可能性がある。感染発表前に行われた第1回討論会後の支持率調査ではバイデン氏が上昇し、トランプ大統領が低下するかたちで支持率差が再拡大している(図表)。討論会でトランプ大統領が「相手の話を2分間聞く」といったルールを守らず、バイデン氏の発言を妨げ続けたためだ。トランプ大統領感染後の支持率調査は10月5日時点で発表されていないものの、支持率差を拡大させる要因になったとみられ、再選の可能性は一段と遠のいたようだ。
足元で、21年の米国経済成長率の予想コンセンサスは前年比3.8%増だが、バイデン氏が勝利し、議会で民主党が上下両院の過半数を握れば、環境、インフラ関連などで大規模な財政措置が取られるとみられ、成長率は予想を上振れることが期待される。
(提供:きんざいOnlineより)