長引くコロナ禍において、先行き不透明な世界経済。だが、「どうなるかわからないからこそ、お金の一部を避難させるべき」だと説くのが、経済評論家の藤巻健史氏だ。具体的には、円の資産の一部を「ドル」に変えておくべきだと主張する。

その理由とはどういったもので、具体的には何をすればいいのか。近著『コロナショック&Xデーを生き抜くお金の守り方』において「今すぐドルを買え」と主張する藤巻氏に詳しくうかがった。

*本稿は、『コロナショック&Xデーを生き抜くお金の守り方』(PHPビジネス新書)の内容を抜粋・編集したものです(写真撮影:長谷川博一)。

※本稿は2020年8月時点の情報に基づき、投資に対する著者の考え方を示したものであり、個別の金融商品を推奨するものではありません。金融商品の価値は状況によって変動しますので、購入の可否を含む投資の判断はご自身の責任で行うようお願いいたします。

トランプ再選リスクはあれど、やっぱり「ドル」は強い

コロナショック&Xデーを生き抜くお金の守り方,藤巻健史
(画像=THE21オンライン)

有事に備え、自分の資産を守るために買う通貨のことを「避難通貨」と呼びます。激しいインフレになれば、コツコツ貯めた銀行預金の価値は半減、最悪1000分の1以下になってしまいます。資産の一部でも他国に逃がしておけば、最悪の事態は防ぐことができます。

避難通貨の条件は、何よりも信頼性です。そう考えたとき、やはり選択肢は「米ドル」ということになるでしょう。

新型コロナウイルスで世界最大の感染者を出し、経済も大打撃を受けていますが、それでも株価は再び上昇に転じています。大規模な財政出動に加え、IT企業や医療メーカーがコロナショックを追い風に好調を維持しているのも大きな要因でしょう。

コロナ対策で株を下げたトランプが11月の大統領選挙で再選できるかどうかは、確かにアメリカ経済にとってのリスクと言えます。ただし、政治問題は思ったほど市場に影響を与えないというのが、私の過去からの経験則でもあります。

そもそも、自分の資産をすべて円で持っているということは、「円に100%賭けている」のと同義であり、極めて危険なことなのです。

藤巻健史氏が注目する「ドル建てMMF」

ドル建て資産の持ち方にはいろいろあります。一番簡単なのは、いわゆる「外貨預金」でドルを購入することでしょう。外貨預金は日本国内の銀行はじめ多くの金融機関が取り扱っていますから、誰でも手軽に始めることができます。

もう一つ、私が注目するのが、「ドル建てMMF(マネー・マーケット・ファンド)」です。ドル預金との大きな違いは税金です。ドル預金は為替の益が総合課税ですが、ドルのMMFは20%の源泉徴収です。したがって、所得の高い方は一般的に言ってドルMMFのほうが有利でしょう。

「ドル建てMMF」は、投資信託の一種です。魅力は、安全性の高さ。元本は保証されていませんが、短期の米国債を含む公社債や格付けの高い社債で運用されているので、元本割れの可能性はかなり低いと言えます(為替での損の可能性はドル預金同様あります)。

また、1年未満の短期的な債券で運用していることも、注目する理由の一つです。

2020年3月、アメリカの政策金利は、コロナショックによる経済危機を防ぐために、1%から一気にゼロ金利まで下げられましたが、景気が良くなれば、金利が引き上げられ、長期債の金利も上昇する可能性があります。

金利と価格はコインの表裏の関係にあり、「国債金利の上昇=国債価格の下落」となります。つまり、長期債で運用している金融商品は短期債で運用している商品より大きく値下がりすることが予見されます。長い間、金利上昇の悪影響を受けるからです。

一方、ドル建てMMFは、1年未満の債券でしか運用されていないので、金利が上がってもほとんど値下がりすることがなく、金利面であまり損をしないで済みます。為替の差益を十分に享受することができるのです。

MMFは他の外貨建ての商品もありますが、ドル建てMMFは中でも非常にポピュラーな商品なので、多くの日本の証券会社や銀行で買うことができます。証券会社や銀行は販売仲介で、資産運用会社が運用しています。

売買などの手数料も安く済みます。ネット証券会社なら、取引手数料が無料というケースも珍しくありません。為替スプレッドという円からドルに換金する際の費用はかかりますが、これも米ドル建ての場合は、片道で25銭前後が相場です。例えば、為替レートが1ドル105円の場合は、105円25銭というレートで、ドル建てMMFが購入できるのです。

ドル建てMMFは、円安が進むなら、円建てで大きな利益が出ます。ただし、円高になれば逆に損をする可能性があることは、ご理解いただければと思います。