信用取引は現物取引と同じ資金でも、より大きな利益を得る可能性のある取引であるが、注意しなければならない点もある。それは現物株式にはない金利、貸株料などのコストである。今回は、コストの中でも金利に焦点を当てて、金利が安いネット証券をランキング形式で紹介する。

1,信用取引とは?現物取引と何が違う?

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(画像=Andrey Popov/stock.adobe.com)

最初に信用取引は現物取引と何が違うのか、その特徴を確認していこう。

信用取引と現物取引の違い

信用取引とは保証金を担保として証券会社に預け入れ、証券会社から資金や株を借りて、自己資金以上の大きな売買をする取引のこと。現物取引より資金効率が優れている点が、信用取引最大の特徴だ。

信用取引と一言でいっても、「制度信用」と「一般信用」の2種類があり、その特徴もしっかりと把握しておきたい。

制度信用とは?

制度信用とは、取引所が選定した銘柄に対して、証券会社を介して新規建てして、6ヵ月後の返済期日までに決済する取引のことだ。

制度信用の選定銘柄は、全て信用買い(資金を借りて株式を取引する)ができる。しかしそのうちの一部、「貸借銘柄」は、信用買いと信用売り(資金や株式を借りて取引する)のどちらも可能な銘柄となっている。

制度信用には、投資家に貸し出す資金や株式が不足したときに、証券会社が「証券金融会社」から不足する資金や株式を借りる「貸借取引」が存在する。この貸借取引や、証券金融会社から株式を借りることで、品貸料(逆日歩)が発生するのも制度信用ならではの特徴である。

一般信用とは?

もう一方の一般信用は、投資家と証券会社の間で取引が完結する、自由度の高い取引である。

証券会社ごとに返済期日や金利などの条件が異なるものの、銘柄が豊富で、信用買いと信用売りのどちらでも取引できる。証券会社によっては、新興市場銘柄など、日計り取引専用銘柄も用意しており、一般信用は収益機会も豊富な取引といえる。

信用取引の5つのメリット

制度信用と一般信用という2つの種類に分かれる信用取引だが、現物取引と比較して、どういったメリットがあるのか見ていこう。

信用取引のメリット1,収益機会が現物取引の2倍に増える

信用取引と現物取引の最も大きな違いは、信用取引なら下げ相場のときでも、売りから入れば(空売り)、利益を出せることだ。

現物取引の基本は安く買って高く売ることであり、利益はその差額によってのみ得られる。

信用取引の信用買いも、現物取引同様、株価が上がることで利益が出る。それに対して、信用取引の信用売りは、証券会社から株式を借りて高く売って安く買い戻すことで、利益を出す。

信用取引は、株式相場が上がっても、下がっても、利益を出せるので、収益機会が現物取引の2倍に増えるということになる。

信用取引のメリット2,資金効率性が向上する

現物取引は自己資金と同額の取引金額となる。それに対して、信用取引では、現物取引と同じ金額の自己資金でも、現物取引の約3.3倍の取引(=保証金は取引金額の30%)ができる。そのため資金効率が向上する。

信用取引の保証金の最低額は30万円。この30万円さえ、保証金として差し入れることができれば、理論的には、現物取引の約3.3倍の利益を出すことができるのだ。

信用取引のメリット3,同一の保証金で銘柄を問わず何度取引可能

信用取引では同じ銘柄か別の銘柄かを問わず、1日のうち何度でも、同一の保証金を使って回転売買できる。あらかじめ多額の資金を用意する必要がないので、デイトレードのような取引手法とも相性が良い。

信用取引のメリット4,保有株式を保証金の代用として利用できる

資金が少なくても、保有する株式を代用有価証券に充てることができ、一定の掛目をかけた評価額で保証金として利用できる。株式だけでなく投資信託も、信用取引の代用有価証券として利用できる証券会社も多い。現金資産が十分でなくても、眠っていた有価証券を有効に活用できるのも信用取引の大きなメリットだ。

信用取引のメリット5,株主優待のためのつなぎ売りができる

株主優待ために保有している現物株式が下落局面にある際に、信用取引で売り建てて、リスクヘッジ(つなぎ売り)ができるのも魅力だ。

株価がそのまま下がれば買い戻すことで差額分が利益になるので、現物株式の評価損と相殺できる。予想に反して株価が上がってしまったら、現物株式を現渡しすれば、損失の発生を防げる。

3,信用取引にかかる主なコストは?取引手数料、金利、貸株料

信用取引の際に必ず支払わなければならないコストは主に、「取引手数料」「金利」「貸株料」の3つだ。

このうち、「金利」と「貸株料」は、現物取引には不要だが、信用取引の仕組み上、発生する信用取引固有のコストである。

取引手数料――売買取引にかかるサービス料

「取引手数料」とは、現物取引と同じように、信用取引でも必要になる売買取引そのものにかかるサービス料のようなもの。証券会社が受け取る手数料でもある。

金利――証券会社から借りた資金にかかる金利

信用買いでは、保証金を担保に、投資家が証券会社から資金を借りて株式を購入する。この証券会社による融資で、反対売買によって建玉が決済するまでに毎日かかるコストが「金利」である。

投資家は証券会社に支払う金利を「買方金利」とも呼んでいる。

貸株料――もう一つの金利、証券会社から株式を借りると発生するコスト

信用売りでは、保証金を担保に、投資家が証券会社から株式を借りて空売りする。この借りた株式に対して発生するのが「貸株料」だ。新規売り建て注文が約定すると建玉が決済されるまで、借りた株式に毎日発生する。いわばレンタル料である。

貸株料は、新規売り建て注文が約定した翌営業日から発生する。投資家は証券会社に支払う貸株料を「売方金利」とも呼んでいる。

追加的に発生する信用取引特有のコスト――品貸料や管理費など

「取引手数料」「金利」「貸株料」という3大コストの他にも、現物取引にはない信用取引固有のコストが発生する。

「品貸料」は制度信用で、信用売りの投資家に賃借される株式が不足した場合に、投資家が支払う株式のレンタル料のこと。逆日歩(ぎゃくひぶ)としても知られている。人気が高く、株式の調達が難しい銘柄の信用売り(空売り)に対しては、証券会社によって日計り信用取引を可能にするサービスを提供していることがある。この場合、銘柄ごとに異なる特別手数料も上乗せされる。SBI証券のHYPER料、松井証券のプレミアム空売り料、マネックス証券のスペシャル空売り料などが、これに該当する。

それ以外にも、信用取引の新規注文約定日から1ヵ月ごとに、建玉ごとに発生する「管理費」や、権利確定日をまたいで買い建玉が建てられていると発生する「名義書換料」などの費用も必要になる。

4,信用取引の金利が安いネット証券ランキング

今回は、信用取引にかかるコストのうち、2種類の金利、「買方金利」と「売方金利」に注目し、一般信用取引(無期限、短期/日計り)と制度信用取引ごとに、買方金利を中心にした、通常金利が安いネット証券のランキングを紹介する。

以下の表は、2020年10月27日現在、各社の公式ホームページで公表していた信用取引金利を参照して作成したものである。

ネット証券 一般信用取引(無期限)金利ランキング

順位 証券会社名 一般信用取引金利(年率)
買方 売方
1 GMOクリック証券 2.00% 0.80%
2 SBI証券 2.80%
※優遇金利2.10%
1.10%
2 楽天証券 2.80%
※優遇金利2.10%
1.10%
2 マネックス証券 2.80% 1.10%
5 auカブコム証券
(10年)
3.79%
※金利優遇プランあり
(最低金利1.15%)
2.25%
6 松井証券 4.1% 2.0%
対象外 DMM.com証券 株 2.70% 取り扱いなし
対象外 ライブスター証券 2.75% 取り扱いなし
対象外 岡三オンライン証券 2.80% 取り扱いなし
対象外 LINE証券 取り扱いなし 取り扱いなし
(※各社ホームページで公表している金利を参照し筆者作成)

ネット証券 一般信用取引(短期、日計り)金利ランキング

順位 証券会社名 一般信用取引金利(年率)
買方 売方
1 松井証券 【短期】設定なし
【一日信用】
・約定代金100万円以上:0.00%
・約定代金100万円未満:1.80%
【短期】設定なし
【一日信用】
・約定代金100万円以上:0.00%
・約定代金100万円未満:1.80%
1 SBI証券 【短期】設定なし
【日計り】
・約定代金100万円以上:0.00%
・約定代金100万円未満:1.80%
【短期】3.90%
【日計り】
・約定代金100万円以上:0.00%
・約定代金100万円未満:1.80%
1 楽天証券 【短期】設定なし
【いちにち信用】
・約定代金100万円以上:0.00%
・約定代金100万円未満:1.80%
【短期】3.90%
【いちにち信用】
・約定代金100万円以上:0.00%
・約定代金100万円未満:1.80%
1 マネックス証券 【短期】設定なし
【ワンデイ信用】
・約定代金100万円以上:0.00%
・約定代金100万円未満:1.80%
【短期】3.90%
【ワンデイ信用】
・約定代金100万円以上:0.00%
・約定代金100万円未満:1.80%
5 GMOクリック証券 【短期】2.00%
【日計り】2.00%
【短期】3.85%
【日計り】0.80%
対象外 auカブコム証券 取り扱いなし 【売短(返済期日14日目)】
5.85%
対象外 DMM.com証券 株 【デイトレ】2.00% 取り扱いなし
対象外 ライブスター証券 設定なし 取り扱いなし
対象外 岡三オンライン証券 設定なし 取り扱いなし
対象外 LINE証券 取り扱いなし 取り扱いなし
(※各社ホームページで公表している金利を参照し筆者作成)

ネット証券 制度信用取引金利ランキング

順位 証券会社名 一般信用取引金利(年率)
買方 売方
1 ライブスター証券 2.30% 1.10%
2 岡三オンライン証券 2.60% 2.00%
3 DMM.com証券 株 2.70% 1.10%
4 GMOクリック証券 2.75%
※VIP金利1.80%
1.10%
5 楽天証券 2.80%
※優遇金利2.28%
1.10%
6 LINE証券 2.80% 1.15%
7 SBI証券 2.80%
※優遇金利2.28%
1.15%
8 マネックス証券 2.80% 1.15%
9 松井証券 3.10% 1.15%
10 auカブコム証券 3.98%
※金利優遇プランあり
(最低金利1.34%)
1.15%
(※各社ホームページで公表している金利を参照し筆者作成)

5,ランキング上位の証券会社の特徴は?

一般信用取引(無期限)、一般信用取引(短期、日計り)、制度信用取引の3区分の金利ランキング上位5社を、それぞれ第1位→5ポイント、第2位→4ポイント、第3位→3ポイント、第4位→2ポイント、第5位→1ポイントでポイント化。各社が各ランキングで獲得したポイントを合計した。

その結果、合計ポイントが高い、信用取引金利の低いネット証券総合ランキングTOP5は次のようになった。

第1位,楽天証券(合計10ポイント)
第2位,SBI証券(合計9ポイント)
第2位,マネックス証券(合計9ポイント)
第4位,GMOクリック証券(合計7ポイント)
第5位,松井証券(5ポイント)
第5位,ライブスター証券(5ポイント)

第1位,楽天証券――業界最安水準の手数料やコストに加えて、ポイントもたまる

楽天証券はネット証券業界の大手であり、取引手数料の安さは常に業界最安水準である。その上、信用取引特有のコストである金利についても、一般信用(無期限、短期、いちにち信用)と制度信用のいずれもTOP5にランクインしている。

信用取引の取引手数料も下限が99円(税込)から、上限でも385円(税込)と格安だ。さらに、「いちにち信用」なら取引手数料は全て無料である。

これに加えて、信用取引の約定代金が10万円超なら、1ポイントもしくは3ポイントのポイントバックがある。楽天証券で獲得したポイントは、株式や投資信託を購入できるだけでなく、楽天グループでの買い物にも使えて便利だ。

第2位,SBI証券――コストが安いネット証券業界最大手、HYPER空売りも人気

SBI証券はネット証券最大手かつ、IPO引受銘柄数や口座開設数では証券業界全体の第1位となるなど、圧倒的な存在感を示している。引手数料も楽天証券と並び、業界最安水準の低コストとなっているのが魅力のネット証券だ。

制度信用取引の金利水準はネット証券第7位で決して最低水準ではないが、一般信用取引の買方金利や売方金利は低く設定しており、日計りの金利は業界最低水準である。

SBI証券の信用取引では、「HYPER空売り」と呼ばれる日計りで信用売りできるサービスを利用できる。追加的にHYPER料がかかるものの、人気が高く、購入しにくい新興市場銘柄や話題のIPO銘柄などを空売りできるため、注目度も高い。

第2位,マネックス証券――金利の低いワンデイ信用、信用取引初心者向けサービスも

マネックス証券は豊富な米国株取扱銘柄数で知られるが、信用取引のコストが安いことも魅力の一つである。一般信用取引の金利は低く、ワンデイ信用の金利はSBI証券や楽天証券と同水準の低さを誇る。

スペシャル空売りサービスも利用できるので、スペシャル空売り料がかかっても、話題の大人気銘柄を空売りしたいなら検討するとよいだろう。

また信用取引初心者のためのサービスも充実しているのが特徴だ。信用取引の取引手数料が10万円までキャッシュバックするサービスや、買い建て取引専用で建玉上限を500万円とする「スタート信用」、事前に設定した損切り決済率で自動決済する「みまもるくん」があるので、初心者でも信用取引にチャレンジしやすい。

第4位,GMOクリック証券――無期限の一般信用取引金利はネット業界最低レベル

GMOクリック証券は信用取引全般で金利が低い。中でも、無期限の一般信用取引金利は業界最低に設定している。大手ネット証券に比べると、制度信用取引の金利も低めに抑えているのが特徴だ。

制度信用も、一般信用もどちらも取引したい人や、制度信用で確実・安心、低コストで取引したい人にはおすすめできる証券会社である。

第5位,松井証券――デイトレードに力を入れている老舗ネット証券

松井証券では、一般信用で信用買いと信用売りのどちらも取引可能である。無期限に限れば、他社と比較するとやや高めの印象だ。それに対して、一般信用の一日信用取引サービスを業界で初めて導入した先駆的ネット証券であり、松井証券のデイトレードにはメリットも多い。

一日信用取引の金利は業界最低水準、プレミアム空売りサービスも利用できる。一日信用取引の取引手数料も無条件で0円だ。歴史と実績のある証券会社で、安心して信用取引したいなら、松井証券は最適である。

第5位,ライブスター証券――最もコストの安いネット証券、制度信用金利が低い

一般信用取引では、無期限の信用買いしか取り扱いがないため、一般信用での空売りができない。デイトレード向けの金利なども設けておらず、一般信用の弱さが気になる人もいるだろう。

その反面、制度信用取引では金利の低さが際立っており、低コストに定評のあるライブスター証券らしさを感じる。返済期日を決めている制度信用でも、金利の低さを最優先に考えるなら、外すことはできない証券会社である。

6,信用取引の4つのデメリット

一般信用と制度信用は、どちらも現物取引より恵まれた収益機会や収益性が魅力の取引である。ただし、レバレッジを効かせた取引であることや、お金や株式を借りて行う取引であることから、主に、以下のような点に十分注意してほしい。

デメリット1,ハイリスク&ハイコスト

信用取引は現物取引に比べて、収益性はよいが、ハイリスクでコストがかかる。信用取引を行う際には、費用対効果を常に考えることが重要だ。

デメリット2,現物にはないロスカットもある

委託保証金の最低維持率を下回ると追証が発生する。追証が解消されないと、強制決済や口座凍結の可能性もあるので要注意である。

デメリット3,毎日のチャートチェックが必要

建玉を決済するまで、買方金利あるいは売方金利は毎日発生する。無期限でも日々金利が積み上がっていくことを忘れないこと。信用取引を行う際は、毎日チャートを見る必要がある。

デメリット4,返済期日が設定されている

制度信用や日計りの一般信用など、返済期日が決まっている取引は、期日を過ぎると強制決済される。建玉保有中は、返済期日を常に意識した上で、決済のタイミングを模索すること。自分の意図しないタイミングで決済されないように、注意を払いたい。

留意点も少なくないが、資金が潤沢とはいえない個人投資家にとっては、保有する資産を効率よく増やせる機会にもなる。

幸いなことに、信用取引はレバレッジが約3.3倍なので、損失額も限定的だ。「案ずるよりは生むがやすし」ともいう。現物取引に慣れてきたら、信用取引の仕組みを学んでみよう。低コスト取引ができるネット証券を選んだら、一度信用取引を始めてみるのも、資産を増やす一つの手だ。

執筆・近藤真理
証券会社の引受業務やビジネス系翻訳携わったのち、個人投資家として活動。現在は総合証券、ネット証券の両方を使いこなし、経済、金融、HR領域で多数の媒体で執筆中。2019年にフィナンシャルプランナーの資格取得。

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