小林 史生社長COO
小林 史生社長COO

 鎌倉新書(6184)は「いいお墓」や「いい葬儀」「いい仏壇」など、人生のエンディングに関わるポータルサイトを多数運営する。2020年1月期はウェブサービスの好調が寄与し、業績過去最高を更新した。今期はコロナ禍が影響し利益は2桁減見込みも、売上高は増収を予想。新たな施策として昨年に新サイト「いい相続」、今年8月には「いい不動産」を開始するなど、業域を広げている。

小林 史生社長COO
プロフィール◉こばやし・ふみお
石川県出身。1998年関西学院大文卒、日産トレーディング入社。2000年楽天入社。17年、鎌倉新書執行役員、18年取締役就任。20年4月、代表取締役社長COO就任(現任)。

高齢者人口増加に比例して成長
年間紹介数は年間約12万件

 2040年には、年間死亡者数が170万人に達するといわれる日本。先立たれた遺族は、弔うために「葬式」や「仏壇」、「お墓」を用意する。しかし、慣れない出来事にどうすればいいのか―。鎌倉新書は、そんな人の「困りごとを解決する」ウェブサイト運営を主軸としている。

 同社は元々、仏教関連書籍や葬儀やお墓事業関連のビジネス誌を発行する出版社だった。2000年から業態転換し、情報サイト事業を開始。現在のネット紹介サービスで成長した。その後2015年に東証マザーズ、東証一部に上場を果たした。 

 主要サイトは、「いいお墓」、「いい葬儀」、「いい仏壇」の3つ。いずれも、サイトから問い合わせを行ったユーザーに対し、要望に合った加盟事業者を紹介。成約に至れば、提携先から報酬の数%をもらう成果報酬型ビジネスだ。

 それぞれの加盟事業者数は、「いいお墓」では石材店・霊園・寺院など984社、「いい葬儀」は葬儀社など約1032社、「いい仏壇」は仏壇店など490社。年間紹介数は3サイトで約12万3000件に上り、うち成約率は約3割となる。

「例えば葬儀事業では、加盟事業者約1000社が利用している約5000斎場が登録されています。日本全国にある斎場数は約1万。当社は、うち半分の斎場を紹介できることになります」(小林史生社長)

 同社の2020年1月期実績は、売上高が前期比30%増の32億円、営業利益は同7%増の8億円、当期純利益は同53%増の6億円。サイトごとに売上高をみると、最も大きかったのは成約単価の高い「いいお墓」で、売上比率は全体の5割。「いい葬儀」は同3割、「いい仏壇」は同1割弱と続いた。

 エンディング業界は、高齢者人口の増加によって市場は拡大している。現在は関連事業も含めると、市場規模は1兆5000億から1兆8000億円と言われている。

 同社が成長した大きな要因は、インターネットを使って葬儀業者や霊園を探す人の増加だ。スマホやPCを使いこなすシニア世代も珍しくなくなり、今後も同社の事業にとって強い追い風になると見ている。

 また時代の変化によって、紹介などで葬儀業者を探すのが難しくなっている。地方から都市部に移り住み、親戚付き合いや近所付き合いが希薄になれば、いざ親族が亡くなった際に葬儀を手配するのも簡単ではないからだ。

電話で需要掘り出しクロスセル
相続相談など終活サービス開始

 業者を紹介するだけでなく、自社コールセンターを通じて、24時間直接ユーザーの悩み事を聞く点にある。これが近年、同社の事業領域拡大に寄与している。

「ご家族を亡くされた方にとっては、葬式やお墓が用意できただけでは終わりではありません。その後の相続、不動産、ご自身の終活…。お客様に電話で直接『何かお困りごとはありませんか?』と聞き課題を掘り起こし、別のサービスへとクロスユースできるのです」(同氏)

 ユーザーからの声を元に新サービスとして昨年立ち上げたのが、「いい相続」だ。相続で悩むユーザーに対し、行政書士などの士業をユーザーに紹介。同社の専門スタッフと士業者、ユーザーの3人で無料面談を行い、契約すれば成果報酬を士業者からもらう仕組みだ。

 加盟する士業者数は、9月中旬時点で約540カ所。今期上期の事業売上高は前年同月比437%と、仏壇事業に迫る勢いで成長している。

 また、今年8月には相続した不動産の扱いに特化した「いい不動産」を開始。売却や運用、維持管理、点検、リフォームなど、要望に合わせて不動産会社やリフォーム会社などを紹介するという。

 顧客が複数のサービスを利用することで、顧客当たりの単価を上げる。これが同社の次の成長エンジンとなる。

今期上期業績は苦戦
コロナ禍に合ったプラン投入

 今期上半期業績は、売上高は前年同期比4%減の13億円、利益面は赤字となった。緊急事態宣言に伴う外出自粛ムードにより墓石・仏壇の購入が減少。葬儀事業では、三密回避から直葬などのシンプル・低単価な葬儀に客が流れた。

「我々の強みは、場所や値段、内容、参列者などの要望を丁寧に聞いて、条件に合った良い業者を紹介すること。しかしそれにはある程度時間がかかります。コロナ禍では『とにかく早く、最低限の葬儀だけやってしまおう』という流れもあり、我々の強みが弱みに変わってしまった」(同氏)

 巻き返しに向けた施策のひとつが、「安心・安全でできる葬儀のパッケージ商品」開発だ。

「本当は参列者を呼んで賑やかに送り出してあげたい、けれどコロナ禍で安心・安全が担保できないから直葬を選ぶ方は一定数いるはず。そこで、当社は検温の徹底・大型斎場による密の回避、といった安心できるパッケージ商品を加盟葬儀社と一緒に作っています」(同氏)

 今期見通しは、売上高は前期比3%増の33.9億円、営業利益は同66%減の2.6億円を予想する。

「緊急事態宣言中に買い控えが起こったお墓や仏壇も、足元では前年同期比30%増程度となっています。葬儀に関して言えば、年間死亡者数が136万人だとすると、単純計算で我々のサービスはまだシェア0.5%くらいしかとっていない。どのマーケットも、伸びしろは充分です」(同氏)

(提供=青潮出版株式会社