カンブリア宮殿,文明堂
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在宅でお菓子需要UP~進化する「3時のおやつ」

さいたま市にある人気のお菓子屋「あおぞら工房」。コロナ禍の今伸びているのが「おやつ需要」だという。

人気の新商品は「3時のおやつあんぱん」(270円)。パンを膨らますイースト菌は使ってないのに外側はふっくら。もっちりとした生地の中に北海道産の大粒あずきがたっぷり入っている。昨年6月に販売を開始するとたちまち人気に火がついた。

この店を運営しているのは、「3時のおやつ」で知られ、2020年に創業120周年をむかえた文明堂だ。

誰もが知るカステラの老舗・文明堂。その種類はさまざまで、1000円台のリーズナブルなカステラから、貴重な烏骨鶏の卵を使った2本で1万4256円の高級品まである。

カステラの起源には諸説あるが、もともとはイベリア半島に存在したカスティーリャ王国のお菓子だったという。日本には16世紀、ポルトガルからやってきた宣教師によって伝えられた。その後、日本独自の製法で作られるようになったという。

では文明堂のカステラはどうやって作っているのか。カステラの材料は卵、高級砂糖の「和三盆糖」と「グラニュー糖」。そこにもち米から作った米飴を加え、最後に国産の小麦粉を投入する。原料はこれだけと、いたってシンプルだ。

カステラ作り50年の製造部・山村国広は、シンプルなだけに難しいという。

「満足な仕上がりのカステラは少ないです。極めていないです。だから楽しいのかもしれない」(山村)

じっくり火を通すため、鉄板ではなく木枠を使い、生地がくっつかないよう和紙を張っていく。底にザラメ糖を敷き詰めていく理由は甘さだけではない。

「日がたつとザラメが溶けていき、保湿してくれる」(山村)

カステラがいつまでもしっとりしているのはザラメのおかげなのだ。

木枠にタネを流し込んでオーブンに入れて焼き上げていく。ここからがおいしくなるかどうかの勝負。その日の気温やタネの状態で、焼け具合が変わるため、温度を微調整しなければならず、職人はいっときも窯から目が離せないという。

山村が、まだ全然焼けてないのに窯を開けて混ぜ始めた。「中混ぜ」だ。中混ぜをしないと、気泡の大きさがふぞろいになって、均質できめ細かな生地にならないという。

下に敷いたザラメを散らさないよう、ヘラは底につけず、木枠の外にこぼさないよう素早く混ぜていく。これを焼きあがるまでに3~4回繰り返す。この中混ぜは、すべてのカステラで今でも手作業で行われている。

ギフトから「おうち需要」へ~価値観伝えるカフェも

カンブリア宮殿,文明堂
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京王百貨店 新宿店。百貨店に入る文明堂の店には、カステラ以外にも和菓子や洋菓子などが並んでいる。手土産や贈答品の定番として重宝されてきた。だが、文明堂東京社長・宮﨑進司(45)はいま、強い危機感を抱いている。

「売り上げの大部分をギフト市場で賄っていた会社です。でも儀礼ギフトの需要が年々減っているのは事実です」(宮﨑)

バブル崩壊やリーマンショックなどの景気低迷を境に、贈答品を取りやめる企業が増えた。さらにライフスタイルの変化で、個人の贈り物需要も減少傾向にあるのだ。こうした中で宮﨑は、新たなニーズに目を向け、早くから工夫を行ってきた。

「例えばカステラも大きく長いものだけでなく、『おやつカステラ』といって2切れサイズに。お子さんに召し上がって頂くような個人ユースを考えてやっています」(宮﨑)

バッグに入り、どこでも手軽に食べられるようにと2切れだけのパック「おやつカステラ」(270円)を作った。さらに、「バラにして一つ一つ販売していくというスタイルで、『おいしいお菓子を家で』という需要がとれたと思います。それが生きてきたと思います」と言う。「おうち需要」に早くから目を向けてきたことが、コロナ禍で功を奏しているのだ。

その最たるものが各地の文明堂工場にある。横浜市の工場、文明堂食品工業にある直売所。この工場で作っているいろんなお菓子がバラ売りされているのだが、それらをまとめ買いすることで、3割から5割引になるという。

ここで断トツの人気なのが、月に数回だけ売り出される「釜出しカステラ」(648円)だ。普通のカステラは一晩寝かせて熟成させるが、「窯出しカステラ」は焼きたてのホカホカ。焼きたてがおいしくなるように原料の配合を変えた。温かいうちに食べられるのは工場の近くの人だけ。まさに「おうち時間」のためのカステラだ。

さらに東京・武蔵村山工場直売所「壹番舘」で地元の人に人気なのが、見た目が悪い2等品やカステラの端っこを切り落とした格安のアウトレット商品だ。

一方で、文明堂の新たな価値を伝えるために作ったのが、日本橋本店の奥にある「BUNMEIDO CAFE」」。この店ではカステラを違った形で味わうことができる。

卵液にくぐらせてオーブンで焼き上げたのは「フレンチカステラ」(1078円)。普通のフレンチトーストとは違い、表面サクサクで中はしっとりしている。「ティラミスカステラ」(1078円)や、カステラでヨーグルトクリームとフルーツを挟み込んだ「カステラフルーツサンド」(1600円、ドリンク付き)などもある。

カステラだけではなく、ハヤシライスやナポリタン、ハンバーグなどの洋食メニューも。

「ハヤシライスやカレーライスなど文明堂なので文明開化の時代に入ってきた料理、明治・大正時代のエッセンスを体感してもらおうと考えて作っています」(宮﨑)

カステラで成長して来た文明堂は、今、新たな形で未来を切り開こうとしている。

「カステラはシンプルな原材料だけを厳選して使ったいいお菓子だと思っていますが、それだけではダメで、カステラを中心としてどんどん攻めていきたいと思います」(宮﨑)

カンブリア宮殿,文明堂
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カステラ一番、電話は二番~知られざる文明堂の世界

東京・新宿の路地裏に知る人ぞ知る人気店がある。文明堂のどら焼き専門店「新宿工房」だ。どら焼きは「三笠山」の名で売られている創業当初からの定番商品。以前、ここは工場だけだったが、出来たてを味わってもらおうと4年前から店頭販売も始めた。

皮がフワフワな秘密は皮作りにある。ただ焼くのではなく、製造ラインにトンネルを作り蒸し焼き状態にしている。さらに、上からも熱を加えることで水分を閉じ込め、ふっくら焼き上げることを可能にした。あんこは北海道産小豆を使用。もちろん豆から工房で炊いている。皮がフワフワなのであんこを包むのは手作業だ。

こだわりの「焼き立てどら焼」(1個130円)は、昼には売り切れの大人気商品になった。

カステラやどら焼きなど伝統の菓子を作ってきた文明堂は1900年、長崎で創業。今も総本店は長崎にある。

文明堂の名を全国に広めたのは創業者の弟、宮﨑甚左衛門。独立した後、東京に進出。1922年に店を構えると、百貨店に出店。客の前で切り分けて箱詰めする実演販売が大人気に。その後、子どもたちにのれん分けして、それぞれ独立した別会社として運営させた。

文明堂が有名になるきっかけが「カステラ一番、電話は二番、三時のおやつは文明堂」。客が覚えやすいように、本店や支店がある地域の末尾2番の電話番号を買い集めた。子熊の人形が踊るおなじみのテレビCMで全国的に知れ渡る。CMは現在も続き、これまで25種類を制作。実は子熊だけでなくペンギンバージョンなんてものまである。ちなみにこれらのCMはずっと同じ人形使いが操っている。

そんなCMを見て育った社長の宮﨑進司は1998年、一橋大学を卒業後、三菱電機に入社。半導体事業を日立製作所と統合するプロジェクトに携わり、労働組合でも積極的に活動した。

宮﨑が妻として射止めたのが同期入社の女性社員、藍さんだ。いよいよ結婚ということになって初めて、宮﨑は藍さんの父親が文明堂新宿の社長だと告げられた。

「『ちょっと待てよ。あなたは一人娘だよね。これはややこしいことになるぞ』と。彼女の父の所へ行って、『お嬢さんと結婚したいけど、会社は継ぎたくないし、名字も変わりませんけどいいですか?』と。スパークリングワインを開けてくれて『いいよ』と言ってくれました」(宮﨑)

会社統合で四苦八苦~おムコさん社長の奮闘記

カンブリア宮殿,文明堂
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宮﨑は三菱電機に残ったまま結婚するが、30歳の時に状況は一変する。藍さんの父親・正宣(当時 文明堂新宿社長)が急病で倒れたのだ。宮﨑は2006年、文明堂新宿に取締役として入社することに。しかしまさに入社初日、予想もしない展開に巻き込まれる。

おりしもその日は宮﨑のお披露目も兼ねた株主総会当日。社長秘書から一本の電話が入った。「今日からあなたが社長です。今日の株主総会は宮﨑さんに仕切っていただきます」というのだ。

「『え~!』ですよね。株主総会でつたない挨拶をして、『今日から社長になります』と。義父は決めていたんでしょうけど。一番の教育じゃないですか、いきなり社長をやらせるのは」(宮﨑)

これも運命だと腹をくくった宮﨑は、カステラを一から知ろうと、工場近くにアパートを借りて職人の元でカステラ作りを修業。人前で話すことが苦手だったため、話し方教室にも通った。

そんな宮﨑に一番の大仕事が降りかかってきた。それは分社化した文明堂の東京エリアの3社(新宿・日本橋・銀座)を一つにまとめようという『統合プロジェクト』だ。

「文明堂同士がライバルでいることのデメリットが増えてきました。例えばある駅ビルでは、新宿文明堂の店がここにあって、向こう側に日本橋文明堂の店が柱を挟んで出店していた。新宿文明堂でお客が商品を買って、次に日本橋文明堂で買ったりすると、『この前と味が違う』『包装紙が違う』という意見をいただきました」(宮﨑)

いわば身内同士の客の奪い合いは文明堂ブランドの価値を下げていき、3社(新宿・日本橋・銀座)もろとも赤字に転落していた。

宮﨑はまず日本橋と新宿の合併に動き出す。本社は当時自社ビルだった日本橋に置き、社名は文明堂東京とすることでお互いが合意した。だが、最大の難題が味の統一だった。

それまでは各社がカステラをはじめとする商品を、それぞれ独自のレシピで作っていた。統合すればそれを一つにしなければならない。しかし、双方の意地と誇りがぶつかり、なかなか折り合わなかったという。

当時の文明堂日本橋企画本部長・吉川精二は「同じカステラだが、両社で文化の違いがあるので、味を1つにするのは難しかった。「うまい」「まずい」というよりも、今までなじみのあったものが消えていくことで、何回話し合いを重ねても1つの味にまとまっていかなかったんです」と、振り返る。

そこで宮﨑は主力のカステラではなく、まず「かりんとう」を両社共同で開発しようと提案。議論や試作を重ね、ようやく統一版の「かりんとう」の発売にこぎつけた。だが、「全く売れなかったので、気付いたんです。議論の過程で欠けていたのが一番大事なお客さまの視点だということに。社内の議論だけで決めてしまった結果、お客を置いてきぼりにしてしまった。もう一度考え直してお客に聞こう、と」(宮﨑)。

宮﨑は両社それぞれの「かりんとう」を並べて売ることにした。すると、新宿のものが圧倒的に支持された。その結果、新宿のものを統合の商品とした。

客の意見を優先していくことで統合の商品が次々と決まっていった。だが、肝心のカステラだけはなかなか統一できない

そこで、日本橋の「吟匠カステラ」と新宿の「五三カステラ」を一切れずつ乗せたメニューを作り、客の反応を探ってみた。その結果は「それぞれ甲乙つけがたしで、それぞれの良いものを残そうと」(宮﨑)。商品のラインナップを広げる意味でも両方残したのだ。

日本橋との統合に道筋をつけた宮﨑は2010年文明堂東京の社長に就任。さらに2014年には銀座も統合、大役を果たした。

カンブリア宮殿,文明堂
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アスリート向けに開発~美味&栄養満点カステラ

東京五輪 パラカヌー 日本代表の瀬立モニカ選手。2016年のリオ・パラリンピックでは8位入賞。東京大会への出場も内定し、メダルへの期待がかかる選手の一人だ。

そんな瀬立選手が休憩中に好んで食べるのが、文明堂の「おやつカステラ」だ。

「(カステラは)卵からできていて、さらに炭水化物もしっかり取れる。すぐエネルギーに変えられるので、めっちゃ優秀です」(瀬立選手)

カステラは、糖質・脂質・タンパク質の三大栄養素はもちろん、卵に含まれる必須アミノ酸も効率的に取れる。だからアスリートにうってつけの食品なのだという。

そこで文明堂は筑波大学と共同でアスリート向けの新たなカステラの開発を進めている。その名も「V!カステラ」だ。

「これくらいの大きさで1本あたり150キロカロリー。100キロカロリーだとちょっと足りないなと思っています」(文明堂東京・池村信幸)

「補食として取ることを考えると、おにぎり1個分の例え話をよくするので、150キロカロリー前後は妥当なところかと」(筑波大学准教授・麻見直美さん)

他にもアスリート向けに工夫している点がある。工場で焼き上がりを見てみると、通常のものと比べると厚さは半分になっている。「空気が抜けている分、生地が詰まっていて、その分、口溶けが良くなる」という。

もともとの水分量は変えずに生地を圧縮することでしっとり感がアップ。喉が乾きにくく、スポーツの合間でも食べやすくした。

お年寄りや介護が必要な人への栄養補助も視野に入れ、開発が進められているという。

カンブリア宮殿,文明堂
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~村上龍の編集後記~

経営統合の際にはお家騒動が起こっても不思議ではなかったが、起こっていない。全員が大人だったからだと思う。新会社の社長は義理の父、日本橋店の会長だった人が会長に、宮﨑さんは副社長に。社名は、日本橋と新宿をひっくるめると東京だろうということで文明堂東京となった。全て大人の判断だ。2代前の社長が書いている。「右手に和菓子、左手に洋菓子を、そして真ん中にカステラを」。カステラをドーンと真ん中に置き、和も洋も、新しい幸せとなるようなお菓子を作っていく使命がある、それが文明堂だと宮﨑さんは考えている。

<出演者略歴>
宮﨑進司(みやざき・しんじ)1975年、愛知県生まれ。1998年、一橋大学社会学部卒業後、三菱電機株式会社入社。2005年、株式会社文明堂新宿店入社。2010年、株式会社文明堂日本橋店と合併、株式会社文明堂東京の代表取締役に就任。

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