原油価格は堅調も、年央以降は2つの不透明要因が重しに
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原油価格は堅調も、年央以降は2つの不透明要因が重しに

みずほ証券 マーケットストラテジスト / 中島 三養子
週刊金融財政事情 2021年3月1日号

 ウエスト・テキサス・インターミディエート(WTI)原油先物価格の期近物は2月中旬、1バレル=60ドル台に乗せ、米国株と共にコロナ危機前の水準を回復した(図表)。背景にはワクチン普及による経済活動の正常化期待や、米国の追加経済対策期待などがある。加えて、2月の石油輸出国機構(OPEC)月報によれば、アジア向けの輸出拡大による需要増が牽引し、世界の原油在庫も減少傾向をたどっている。

 このように足元堅調な原油価格ではあるが、短期および長期の不透明要因がある。短期的には、OPECプラスが4月以降に減産を継続できるかだ。OPEC加盟国および非加盟主要産油国によるOPECプラスは1月5日、減産幅を毎月日量7.5万バレルずつ縮小することで合意した。このこと自体は供給増要因であり、価格下落圧力となるが、サウジアラビアは2月に日量100万バレルの自主減産を行っており、昨年春のような混乱を招かぬよう配慮している。ただ、今後、サウジアラビアによる自主減産がなくなり、段階的にOPECプラスが減産を縮小すると、年後半には供給過多に陥る可能性もある。目先は3月4日からのOPEC会合での調整が焦点となる。

 長期的には、米国の原油市場が縮小すると予想されることだ。米エネルギー情報局(EIA)は2月3日に公表した2021年報で、米国の20年のエネルギー需要は前年比90%に減少するとし、19年の需要水準に戻るのは29年と予想している。さらに、米経済が低成長となった場合は、19年の水準を50年まで回復できないと指摘した。

 一方、供給側も、バイデン米大統領の環境政策によって減少するとみられる。同氏は就任初日から大統領令でカナダと米国を結ぶキーストーンXLパイプラインの認可を撤回、連邦所有地での新規掘削許可やリース権売却に制限をかけた。今後は脱炭素化に向け、再生可能エネルギーの台頭が進むことから、石炭と原油需要は減少し、天然ガス等に注目が集まろう。長期的に米国のエネルギー消費が減少し、エネルギー市場が縮小することで、原油価格の調整につながる可能性が考えられる。EIAは、天然ガスの台頭は技術コストの低下により激しい競争を生み、必ずしも米貿易収支の拡大にはつながらない、とも指摘する。

 原油価格は当面堅調な展開を想定しており、21年前半の原油価格の予想レンジを1バレル=50~70ドルとする。ただ、前述の不透明要因に加え、金融市場では米長期金利上昇に伴うドル高が進めば、ドル建てで取引される原油価格に割高感が出ることや、米国株が高値圏で推移しリスク資産全体が不安定となる可能性もある。

 以上から、原油市場は年央以降に需給が緩み、上値を抑えられる可能性があるとみている。

原油価格は堅調も、年央以降は2つの不透明要因が重しに
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(提供:きんざいOnlineより)