厚生年金がある会社員とは異なり、中小企業の経営者や個人事業主にとって公的年金は基本的に国民年金しかありません。国民年金は老後資金に欠かせないお金ではありますが、残念ながら多くの人にとって国民年金だけでは老後の生活が心もとないのが現実です。経営者や個人事業主にはより一層の老後の備えが必要だと考えられます。
そこで活用を検討したいのが、「小規模企業共済制度」です。経営者の退職金制度とも呼ばれるものですが、それはどのような制度なのでしょうか。老後のための資産形成制度としては「国民年基金」や「iDeCo」といった制度もありますが、小規模企業共済制度とそれらの相違点を交えながら解説します。
目次
経営者の退職金「小規模企業共済制度」とは?
小規模企業の経営者や個人事業主には、国民年金の上乗せとなる厚生年金がありません。2020年度現在、国民年金の額(老齢年金、満額)は、月額で65,141円です。いくら切りつめた生活をしたとしても、多くの人にとって、これはかなり厳しい金額のはずです。このため、年金を補う備えが必要となりますが、そのときに活用を検討したいのが「小規模企業共済制度」です。
小規模企業共済制度は、「独立行政法人中小企業基盤整備機構法」に基づく独立行政法人である中小機構によって、運営されています。小規模企業の経営者や個人事業主などが積立によって、自身の退職後や廃業後の生活に備える資金を用意できるように設けられた制度です。
同制度に加入できるのは、以下の条件を満たす人となります。
- 常時使用する従業員数が20人以下(商業・サービス業では5人以下)の個人事業主または会社の役員
- 事業に従事する組合員が20人以下の企業組合、協業組合、農事組合法人の役員
- 常時使用する従業員の数が5人以下の弁護士法人、税理士法人等の士業法人の社員
- 小規模企業者たる個人事業主に属する共同経営者 (個人事業主1人につき2人まで)
高い節税効果と安定した運用が魅力
小規模企業共済制度の最大のメリットは、掛け金の全額を所得から控除できる点です。月々の掛け金は、1.000円から7万円までで、500円単位で指定することができます。掛け金が大きいほど、高い節税効果が得られることになります。
積み立てた掛け金は、廃業時や退職時、または契約者が死亡したときなどに、共済金として受け取ります。65歳以上で180ヵ月以上掛金を払い込んでいる場合には、老齢給付として受け取ることもできます。共済金の額は請求の理由や加入期間によって変わりますが、ほぼ金利のつかない定期預金などよりは有利な利回りで運用が行われています。
一方、廃業や退職、契約者の死亡などではない個人的な理由で加入を止めることを任意解約といい、その際には解約金が支払われます。20年以上加入していない場合には、解約金の額は掛け金を下回りますので注意が必要です。
共済金の受け取り方は、一定の条件のもと、一括か分割、あるいはその組み合わせという3種類から選択できます。どの受け取り方でも一定の所得控除ができる優遇措置がありますが、税法上の扱いは異なってきます。
▼共済金の受け取り方による税法上の扱い
受け取り方法 | 税法上の扱い |
---|---|
一括で受け取る場合 | 退職所得扱い |
分割で受け取る場合 | 公的年金等の雑所得扱い |
一括と分割を併用する場合 | 一括分は退職所得扱い、分割分は公的年金等の雑所得扱い |
税法上の扱いが変われば、税金の総額も変わってきます。今後の生活スタイルを考えることに加え、必要に応じて税理士などに相談することにより、最適な受け取り方を工夫したいところです。
小規模企業共済制度の3つの注意点
節税効果がメリットとしてある一方で、小規模企業共済制度にはデメリットも存在します。加入を検討する際には、次の3つの注意点に気をつけなければなりません。
デメリット1:納付期間が短いと共済金が支払われない
先にも述べた通り、任意解約の場合、納付月数が20年(240ヵ月)未満であれば、解約金は掛け金総額を下回ってしまいます。つまり、20年未満で途中解約すると、「元本割れ」するということです。このため、退職や廃業時まで事業を続けるか、少なくとも65歳まで働き続けることを前提として、加入を検討する必要があります。
さらに、退職や廃業が理由であっても、加入から6ヵ月以内であれば共済金は支払われません。任意解約については、加入から12ヵ月以内では解約金は全く支払われません。短期の加入では掛け捨てとなってしまうリスクには注意が必要です。
デメリット2:途中で掛け金を変更すると利回りが低くなるリスクがある
掛け金は、加入後も自由に500円単位で増減の変更をすることができます。しかし掛け金の減額は、実はおすすめできません。減額をすると、減額した分の金額についてはその後運用がされず、共済金の受け取りまで全く増えない仕組みとなっているためです。
たとえば3万円の掛け金を1万円に減額すると、それまで積み立てた2万円×納付月数分はそこで運用が停止され、その後は1万円の掛け金部分だけにしか運用利回りが付きません。トータルで見た利回りは非常に低くなってしまうのです。このため、将来的に減額する必要がないように、余裕を持った掛け金を最初から設定することが肝要です。
デメリット3:65歳未満で解約すると「一時所得」として扱われる
また事業を続けていく中では、どうしても資金繰りに行き詰まる局面があるかもしれません。それでも、できれば任意解約は避けたいところです。240ヵ月以内の任意解約は元本割れとなってしまうことに加え、解約金の受け取りには税金が発生するためです。65歳未満の人が受け取る解約金は「一時所得」の扱いとなり、所得金額の2分の1が総合課税の対象とされます。
もし資金が必要な場合には、小規模企業共済制度の貸付制度を利用することが検討できます。掛け金の納付期間に応じた限度額の範囲内で、迅速な貸し付けを受けることが可能です。
国民年金基金やiDeCoと何が異なるのか?
中小企業の経営者や個人事業主が老後に向けた資産形成を行うには、ほかにも国民年金基金やiDeCoといった手段があります。小規模企業共済制度と比べて、どのような違いがあるのでしょうか。
国民年金基金:生きている限り年金を受け取れる点が魅力
国民年金基金は、厚生年金のない自営業者など(第1号被保険者)が、国民年金とセットで任意に加入できる制度です。掛け金が多いほど、将来的に老齢基礎年金に上乗せされる額が多くなりますが、掛け金の額は申し込む口数や、年金の受け取りの方が違う7種類の型(プラン)からどれを選ぶかによって変わってきます。小規模企業共済制度の場合と同様、掛け金は全額が所得控除できますが、月々の上限は6万8,000円です。
小規模企業共済制度との大きな違いとしては、国民年金基金は生きている限り年金が受け取れる「終身年金」であるということです。小規模企業共済制度でも年金のように分割受給することは可能ですが、分割回数は限定的であり、受け取ったらそれで終わりという点で大きく異なっています。
終身受け取れるというのは大変魅力的ですが、一方で、事業譲渡時や廃業時にまとまった資金が必要になる場合もあるかと思います。その場合は、一括で共済金が受け取れる小規模企業共済制度の方が役立ちます。
なお、国民年金基金と小規模企業共済制度は併用できるので、自分の人生プランに応じて上手く組み合わせて活用するのがよいと思います。
iDeCo:リターンが見込めるが、リスクもある
個人型確定拠出年金(iDeCo)は第1号被保険者だけでなく、60歳未満の人なら基本的にほぼ誰でも活用できる制度です。自分の老後資金を積み立てるための制度で、こちらも毎月の掛け金を全額所得控除とすることができます。
この制度の掛け金の上限は職業によって異なり、自営業者などの第1号被保険者の場合は月々6万8,000円です。ただしこの上限は、国民年金基金の掛け金と合算したものに適用されます。つまり、iDeCoで毎月の掛け金を3万円とするなら、国民年金基金では3万8,000円に掛け金が収まるような口数しか加入できないということになります。
iDeCoと小規模企業共済制度の最大の違いは、iDeCoでは金融機関が用意する投資信託などの中から、自分で選んだ商品で運用するということです。運用の結果によって、基本的に60歳以降に受け取れる年金の額が変わってくることになります。言い換えると、より積極的にリスクを取ってリターンも上げたいと考える人にはiDeCoが向いていると考えられます。運用結果は自己責任となりますが、運用益が非課税になるなどの税制優遇措置も設けられています。
各制度の特長を活かして老後に備える
将来に備えることは全ての人にとって重要です。しかし、国民年金しかない中小企業の経営者や個人事業主の場合には、さらに老後のお金のことを考えておく必要があるでしょう。
その際には、節税効果の高い小規模企業共済制度などの活用が役に立ちます。制度のメリットだけでなくデメリットも理解した上で、他の制度ともうまく組み合わせながら活用してほしいと思います。(提供:JPRIME)
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