大正時代に創業し100年の歴史を有するETSホールディングス(1789)。電気設備工事、送電線工事のパイオニアとして事業を展開してきた。2020年12月に新社長に就任した加藤慎章氏は、中部電力での発電所建設、日本GEでの再生エネルギー発電所の開発投資などの経歴を持つ。SDGsの浸透により再生可能エネルギーを取り入れる企業が急増する今、同社の新たな挑戦に追い風が吹いている。
長年の実績が強み、国策も追い風
独自工法で優位性発揮
1922年に創業したETSホールディングスは、電気工事業界のパイオニアとして日本の高度経済成長期以前からインフラ整備に貢献してきた。高度な技術力と専門性の高さから東北電力をはじめとした多くの取引先から信頼を得ている。2020年9月期の売上高は前期比3.3%増の57億円。セグメント別では、鉄塔の基礎工事や組立、架線工事といった「送電事業」が20億1900万円、メガソーラー発電所の設計・施工や、建物の電気設備・情報設備の設計・施工を行なう「設備事業」が30億600万円、子会社による「建物管理・清掃業」が6億7500万円となっている。
「中心事業の送電事業は一朝一夕ではなく、長い経験とノウハウによって信頼を得てきた事業です。需要も多く、今後も大切にしていきたい」(加藤慎章社長)
同社への送電線工事の需要が絶えない要因は2つある。1つは、国内では昭和30〜40年代に建てられた鉄塔が多く、老朽化した鉄塔の建て直しが喫緊の課題となっているという。2つ目は、国が国家プロジェクトとして推進している、広域連系線の強化整備だ。北海道・東北と首都圏を送電線で繋ぐ連系線強化・複々線化対応に関する工事の受注が見込まれる。同社は東北電力と共同開発し特許を取得した鉄塔嵩上げ装置「エナーク160」など独自の工法があり、高い技術力で優位性を発揮している。
「エネルギーを首都圏へ運ぶには、送電鉄塔、送電線、変電所が必要になります。発電所を作っても各電力会社の鉄塔に送電線を連結する工事はリスクが高く、技術力の高い専門企業でないと不安が大きくなります。当社は鉄塔工事を多く手がけてきましたので、電力会社からの信頼を積み重ねてくることができました」(同氏)
SDGs の浸透を受け
再生可能エネルギー分野を強化
一方、設備事業では再生可能エネルギー分野にこれまで以上の可能性を感じているという。
「2050年カーボンニュートラルの実現に向けて、大手企業が続々とRE100に参加しています。企業の再生可能エネルギーニーズは増大しています。今後、自家発電やコーポレートPPA への需要の急激な高まりを感じています」(同氏)
RE100とは世界で活躍する企業が自らの事業の使用電力を100%再生可能エネルギーで賄うことを目指す国際的なイニシアティブだ。そのRE100企業が再生可能エネルギーを得る手法が、建物の屋上や敷地の中に発電設備を導入する自家発電や、電力事業者と企業が直接契約し再生可能エネルギーの調達を行なうコーポレートPPAである。
「今後増えていく工場やデータセンターの屋根を使った自家発電には、当社が培ったメガソーラー発電所建設のノウハウを活かせます。コスト面も競争力を持って戦えますし、予算の試算やファイナンス調達を含めたトータル提案が可能です。コアの技術がありますので、時代に合わせて少しマーケットを変化させることで大きな成長を期待できます」(同氏)
昨年、国を挙げた洋上風力発電設備の推進が発表された洋上風力マーケットも、同社が注力する分野の一つだ。風車設置や海底ケーブル敷設ではなく、特高変電所や自営線工事などの、豊富なノウハウ・強みを活かすソリューション提案を開始しているという。課題もある。電力技能工事の作業員の高齢化や後継者の育成など、人材確保は同社だけではなく業界全体の課題だ。
「人材不足の解消するためにも、DX に取り組みたいと考えています。テクノロジーで人材不足を解決していけるようになるかもしれません。IT化がなかなか進まない建設業界でテック化の先駆者となれるよう、まずはデータ収集から着手していきたい」(同氏)
加藤新社長就任により、同社では中期経営計画の策定を検討し始めたところだ。
「人材投資、テック化への投資などがありますのですぐに増配というよりも安定配当が基本となりますが、次の100年に向けた今後の成長にご期待いただければと思います」(同氏)
▼ 独自工法「エナーク160」を用いた鉄塔工事の様子
▼太陽光発電設備が一面に広がる同社の施工案件
(提供=青潮出版株式会社)