スマートフォンのアプリを使って個人の健康状態や医療情報を記録し、医療機関と共有するPHR(パーソナルヘルスレコード)のプラットフォームサービスを開発運営するのがWelby(4438)だ。現在、疾患別に30種類以上のアプリを開発運営しており、ダウンロード数は83万人超(2020年12月末現在)と順調に増えている。今後は新薬開発でのデータ活用なども視野に入れ、日本における総合的な医療ITプラットフォームを目指す。
患者と医師が情報共有できる
「治療アプリ」を提供
PHRとは、個人によって電子的に管理される自らの健康・医療情報のこと。健康管理アプリは多数存在するが、同社のアプリは治療領域に特化したPHRであり、患者と医師がつながって情報を共有できる「治療アプリ」であることを強みとする。
利用方法は、始めに医師や医療従事者からの紹介、またはアプリストアを通じて患者が自己判断でスマートフォンにアプリをダウンロードし、患者自身が血圧や体重、食事、運動などの健康・医療情報を入力する。入力された情報はグラフ化され、医療機関はパソコン等で確認した情報を患者の治療や療養指導などに役立てることができる。
「当社のPHRでは、例えば高血圧症の患者さんが血圧を自宅にある血圧計で測定するとデータがアプリに取り込まれます。オムロンさんやテルモさんといった主要な医療機器メーカーの測定機器と互換性があり、主な測定機器はすべて当社のアプリとつなげることができます。入力データはクラウドサーバーに送信されるので、主治医の先生は遠隔でリアルタイムでデータを確認することができます。コロナで規制緩和されたオンライン診療にも対応していて、在宅の患者さんの診療やモニタリングに活用されています」(比木武代表取締役)
Welbyマイカルテを運営
登録医療機関は2万超に成長
同社は現在、疾患ソリューションサービスとWelbyマイカルテサービスの2領域を柱に事業展開している。
1つめの柱である疾患ソリューションサービスは、製薬企業など企業向け(BtoB)のPHRサービスのソリューション提供を手掛ける。アプリの開発、サービスの運営等を請け負う事業であり、売上比率約8割を占めている。
2つめの柱であるWelbyマイカルテサービスは売上比率約2割を占める。糖尿病、高血圧症など生活習慣病向けPHRサービス「Welbyマイカルテ」を運営している。病院や診療所などが患者の管理ツールとして利用。利用料として診療所向けには初期導入費10万円(税別)、月額利用料2万円(税別)を課金している。
「2020年12月末現在で登録かかりつけ医療機関数は2万を超えました。全国には約6万の内科クリニックがあるので、その3分の1がユーザーであるといえます。治療アプリとしては圧倒的なシェアを持っていますが、まだまだ伸ばせる余地があり、今後さらに伸ばしていきます」(同氏)
がん治療に特化したアプリ開発
症状を記録し患者をサポート
20年12月期の業績は売上高8億6400万円、営業損失2億3700万円の増収減益だった。コロナによる受注遅延や事業拡大に向けた人件費増などが影響した。
「日本におけるインフラとしてシェアを取るため、コロナ関連の期間は医療機関向けに無料キャンペーンを行っているので登録医療機関の数が倍増しました。一方でかなりの先行投資をしたので利益については赤字となりました。今後その部分の収益化を進めていきたいと考えています」(同氏)
21年12月の業績予想は現時点では未定だが、19年度から20年度にかけて売上におけるストックの比率が伸びており、今後もストック売上が堅調に伸びる見込みだ。ストックは製薬会社のアプリ利用料や医療機関の月額利用料など安定的に積み上がる売上。糖尿病などの生活習慣病の治療は長期にわたるため、アプリ利用も中長期にわたるケースが大半だという。
今後は既存事業を拡大しつつ、新たな分野での成長を図る。1つはがん患者向けソリューションの推進。製薬大手と連携してがん治療に特化したアプリの開発を進めている。近年は通院でがんを治療する患者が増えており、症状などを記録して治療に役立てる効果が期待されている。
さらに今後は、患者のデータを治験などに利用する「Real World Data(リアルワールドデータ)」の事業化を推進していく。
「新薬の研究にアプリのデータが使われるようになってきました。中長期的には患者さんのデータを医薬品の開発や研究などに活用していこうとしており、昨年あたりから花開いてきました。今後はデータ活用に視点を置いた事業拡大にも取り組んでいきたいと考えています」(同氏)
■「Welbyマイカルテ」のアプリ画面。生活習慣病の患者がアプリで血圧や血糖値などを記録できる
(提供=青潮出版株式会社)