コロナ禍でも堅調な大学生の就職・採用環境
(リクルートワークス研究所「ワークス大卒求人倍率調査」ほか)
日本総合研究所 調査部 マクロ経済研究センター 国内経済グループ長 / 下田 裕介
週刊金融財政事情 2021年7月27日号
大学生の就職活動が順調だ。リクルート就職みらい研究所の「就職プロセス調査」によれば、2022年卒の就職内定率は、7月1日時点で80.5%となった。これは前年の同時期よりも高く、コロナ前の19年とほぼ同じ水準である。その背景には、企業の採用意欲が強いことが挙げられる。リクルートワークス研究所「ワークス大卒求人倍率調査(22年卒)」で公表された大卒求人倍率は1.50倍と、求人件数が就職希望の学生を上回っている。また、同調査によれば、コロナ禍が採用方針に影響したと回答した企業のうち、4分の3が「22年卒の新卒採用を減らさない」としている。もっとも、業種によってバラツキが見られ、飲食・宿泊や運輸では採用の減少や採用の中止を検討する企業も少なくない。一方、医療・福祉や金融・保険、建設などは、採用の維持、または増加を予定する企業が9割前後と多く、学生にとって就職の受け皿となっている(図表)。
採用意欲が高い業種は、女性の就職比率が高い傾向がある。例えば、医療・福祉や教育・学習支援へ就職する割合は、女性が男性よりもそれぞれ6.9%ポイント、1.8%ポイント高い。それに対し、製造や卸売りなど採用スタンスが相対的に慎重な業種では、男性の就職比率が高い傾向にある。大学新卒の就職・採用に限れば、男性に好まれやすい業種では、企業の採用意欲が相対的に弱い可能性がある。
コロナ禍の最中にあるわが国だが、かつての就職氷河期のような状況には至っていない。この背景には、生産年齢人口の減少により、人手不足は全体として深刻であることや、就職氷河期に極端に採用を絞った結果、社内の人員構成がいびつになってしまい、それを多くの企業が教訓としていることが挙げられる。
もっとも、企業の採用姿勢のバラツキなどを踏まえると、コロナ前の売り手市場と比べて、就活が不本意な結果に終わる学生が増える恐れはある。わが国では終身雇用制、ないしはメンバーシップ型の雇用を中心としているため、新卒時にその「レール」に乗り損ねると、そこからの軌道修正が困難だ。学生と企業とのマッチング支援のほか、仮に就職活動に失敗したとしても、卒業後に再びチャレンジできる環境を整備するなど、就職氷河期に多く見られた「不遇の世代」を生み出さない取り組みが求められる。
(提供:きんざいOnlineより)