「中央銀行がインフレ対策を最優先課題として、通貨供給量の抑制を中心とする金融引き締め策を継続した結果、9月3日には1年国債の利回りは17.31%の最高値をつけ、遅行して9月30日には10年国債の利回りも15.84%となった」

上記はSF小説からの引用ではない。今から40年前、1981年の米国の債券市場の出来事だ。わずか40年歴史をさかのぼると、今では現代投資理論の世界で「安全資産」との扱いも受ける米国債の利回りが、ここまで上昇する。ただそこから更に20年ほどさかのぼって1962年を見てみると、1年国債の利回りは3.22%、10年国債で4.06%まで低下する。

1981年といえば、筆者は大学生活を正に謳歌し始めた頃である。当時の日本の若者にとって少なくとも米国はファッション、スポーツ、文化など憧れの国、洋楽番組の「ベストヒットUSA」などは毎週必ず観たものだった。

一方まだまだ経済のことなど真面目に勉強していたわけではなく、当時の世界経済が1979年の第2次石油危機に対する調整過程にあり、先進工業諸国においては1980年以降のインフレ高進、失業者の増大、経常収支の赤字の増大という困難な局面を打開しようと必死だったことなど、微塵も考えたことはなかった。

従って今回このような話から始めたからと言って経済の歴史を紐解くなどという意図はまったくない。ただ最初に事実認識を共有し、再認識したいと考えたのが金利の絶対水準に対する「刷り込み」の修正だ。

米国の金利であっても、材料が揃ってしまえば、インフレ率が急伸した新興国並みかそれ以上に高まり、10%を超える水準というのは決して奇跡的な出来事ではないということ。それを共有する為に、まずヒストリカルデータを引っ張り出してみたというわけだ。

米国債券の「過去60年間」を検証してみると…

債券,投資信託
(画像=KID_A / pixta, ZUU online)

現在、米国の1年国債の利回りはおおむね0.1%前後、10年国債でも1.6%前後だ。新型コロナウイルスの世界的な感染拡大によって疲弊した経済を「金融面から支える」ために、史上稀に見る金融緩和手段をFRB(連邦準備理事会)は行い、その結果として景気のリバウンドが始まるかたわらで、サプライチェーンの目詰まりなども手伝ってインフレの予兆なども見え始めた。

そうした中、超金融緩和政策を元に戻していく(テーパリング)などの議論がFOMC(連邦公開市場委員会)等で行われているという局面だ。景気回復と物価上昇の芽を背景に長期債利回りが徐々に上昇してきたので、FRBは金融のバルブ全開状態を徐々に元に戻そうかと考え始めたというのが正しい表現かも知れない。

米国債券市場ではここ最近のマクロ経済統計などの変化を受けて「長期金利の上昇」あるいは「長期金利の低下」と評価される動きを繰り返している。それを受けて、さらに株式市場ではハイテク・セクターやグロース銘柄を中心に、一喜一憂して右往左往している。だがその金利変化幅は長い時間軸で観察すれば「顕微鏡で見れば確認できるレベル」と言うこともできなくはない。

ちなみに、下記のチャートはFRBのデータベースを使って作成した過去60年間の推移(黒=1年国債、赤=10年国債)である。まずはこのチャートで長期トレンドを確認してみよう。