新型コロナウイルスの感染拡大によって世界経済の状況が激変し、投資においてはハイテクやITなどの新興株が関心を集めています。新興株は業績よりも将来性や企業の描く成長ストーリーへの期待感でダイナミックな値動きをすることが多く、中には短期間で数倍、数十倍の株価となるものも生まれています。

ただし、新興株は値動きの激しさから大きな損失を被る可能性や、流動性が低いなどの独特のリスクもあります。新興株投資を行うにはこれらの特徴とリスクをおさえる必要があります。ここでは新興株投資の魅力や注意点について解説します。

目次

  1. 1.「新興株」とは?新興株の意味と特徴
    1. 1-1.「新興株」とは、新興市場で売買されている株式
    2. 1-2.新興株の特徴
  2. 2.新興株を買うタイミングはいつがよいのか?
    1. 2-1.【購入タイミング例】Speeeの場合
    2. 2-2. 【購入タイミング例】メルカリの場合
    3. 2-3.新興株を買うタイミング=下がり続けた底値を狙う
  3. 3.新興株を見極めるポイントと目安
    1. 3-1.着目する主なポイント
    2. 3-2.リターンに見合った覚悟も必要
  4. 4.新興株の特徴とそれを活かした3つのメリット
    1. 4-1.短期間で大きな利益が見込める
    2. 4-2.実績よりも将来性への期待感が大きく化ける可能性を生む
    3. 4-3.海外市場の影響を受けづらく、国内要因のみでも成長が期待できる
  5. 5.注意しておきたい新興株の4つのリスク
    1. 5-1.流動性が低いため株価が乱高下しやすい
    2. 5-2.業績と株価が連動していないため変動が読みづらい
    3. 5-3.単一業態が多く、大きなダメージを受けるケースがある
    4. 5-4.配当収入が期待できない
  6. まとめ

1.「新興株」とは?新興株の意味と特徴

【新興株とは】短期間で大幅リターンが見込める新興株投資の魅力
(画像=onephoto/stock.adobe.com)

この記事で取り扱う「新興株」が何を指すのか、曖昧に感じる方もいるかもしれません。ここでは新興株の概要について説明します。

1-1.「新興株」とは、新興市場で売買されている株式

「新興株」という言葉に正式な定義が存在するわけではありませんが、多くの場合「新興市場で取り扱われている株式(新興企業、いわゆるベンチャー企業の株式)」という意味で用いられます。

新興市場とは、設立から間もない新興企業が多く上場している株式市場を指します。日本では東京証券取引所のJASDAQ、マザーズ、名古屋証券取引所のセントレックス、札幌証券取引所のアンビシャス、福岡証券取引所のQ‐Boardがあります。

ちなみに、米国では1971年に開設されたNASDAQ(ナスダック)が知られていますが、さらに上場の条件が緩和されているベンチャー企業向けのOTCQB, OTCQX, OTCBBといった新興市場もあります。

各新興市場は、東証1部・2部などと比較して上場基準のハードルが低くなっています。時価総額や株主数、推薦書などの審査は要件が緩いか、審査要件としない市場もあります。そのため、経営基盤が小さい新興企業でも上場できる可能性が高くなります。

なおJASDAQは日本初、国内最大規模の新興企業向け市場ですが、1963年(昭和38年)に制定された店頭登録制度を母体として発足した経緯があります。そのため他の新興市場と比べると歴史が長く、老舗企業も多く上場していることが特徴です。また米国NASDAQも、現在の規模感としては新興市場というには大きくなっています。

1-2.新興株の特徴

新興株は将来性・成長性次第で、大幅な利益が見込める株といえるでしょう。新興企業(ベンチャー企業)の経営基盤は小さいものの、その企業が描く成長シナリオや事業の基軸となる新技術などによっては、高い成長率が期待できると考えられます。

また、新興株は発行済み株式数(流通量)が少ないため、何らかの要因で一時的に大量に売られたり買われたりすると、株価が大きく上下に動く傾向があります。株価が購入時から10倍高に跳ね上がる銘柄を「テンバガー」と呼びますが、テンバガーは新興市場から生まれる可能性が高いといえます。

しかし一方、新興であるがゆえに、実績は中堅・大手企業と比較すると心許なく、「安定性」については未知数で不安要素もあります。人気や期待値、話題性ばかりが先行している新興株は会社の本来の価値以上に株価が高騰していることがあります。

また、上場からの期間が数年程度と短い場合、売上高や純利益が右肩上がりだとしても、今後も同じペースで上がっていくかどうかは判断が難しいかもしれません。こちらについて、詳しくは3章、4章で解説します。

2.新興株を買うタイミングはいつがよいのか?

ここでは、新興株を買うタイミングはいつがよいのか、また新興株投資において見るべきポイントについて説明します。

上場直後の新興株は値動きが激しくなりがちです。ですので、成長の経緯をある程度観察し、株価が下がっているタイミングを狙って購入すれば、その後の大きな成長とともに多大な利益を得られる可能性が高まります。新興株を購入するタイミングがわかる例を2つ見てみましょう。

2-1.【購入タイミング例】Speeeの場合

近年、ITベンチャーで大きく成長した企業は複数ありますが、Speeeはその中の1社といえます。2007年11月に設立された、「マーケティングインテリジェンス事業、デジタルトランスフォーメーション事業」を核とするベンチャー企業です。2020年7月、JASDAQ市場へ上場しています。

IT化の未開拓分野への積極的な進出と、ITを通じたユーザーへの恩恵の拡大をうたっています。具体的には中古不動産市場における不動産売却をオンライン化、購入希望者が簡単に価格や品質の妥当性を比較し必要な情報を得るためのサービスの提供があり、大きな成長を遂げています。

株価の推移を見ると、2020~2021年の1年間でいったん株価は下げていますが、ここ数ヵ月で再び上昇していることがわかります(2021年6月現在)。

下がった要因として、特にWebコンサルティング業界では近年ベンチャー企業が乱立しており、際立った特長を見せられなかったことがあるようです。上場当初の期待感が長く続かず緩やかに下降線を描き、下落トレンドが続いていました。

それが反発したのが2021年3月末です。Speeeでは子会社であるDatachainがブロックチェーンのインターオペラビリティ(相互運用性)を中心とした研究開発を行っていますが、この時期、ブロックチェーン技術によるサービスの相互運用を、Datachainと通信大手のNTTデータで技術連携を進めると発表したのです。事業成長の期待から買いが入り、3月26日の終値には前日から約20%の上昇となりました。5月には企業HPで正式にこのブロックチェーン技術の共同実証実験と事業提携を発表しています。

2021年6月現在では、同社の株価は上場当初の8割程度まで戻しています。仮に底値だった2021年3月頃にこの新興株を購入していた場合、単純計算で現在は約2倍程度になっていることになります。

なお、Speeeの上記サービス商用化は2022年以降とされています。そのため実際の商用化までに調整売りの可能性も考えられ、売買のタイミングはなお注視していく必要があります。

2-2. 【購入タイミング例】メルカリの場合

次に、Speeeと似たような値動きをした例としてメルカリを挙げます。

メルカリのマザーズ上場は2018年6月19日でした。上場直後は期待感から高値をつけたものの、その後緩やかに下降線を描き、そのまま低調を続けていました。しかし、その中でもサービス自体は浸透していき利用者数も増えています。

新型コロナウイルス対策として、新型インフルエンザ等対策特別措置法の改正案が成立したのが2020年3月13日でした。実際に首都圏をはじめとする7都府県に緊急事態宣言が発令されたのは4月7日です。メルカリの株価はこの時期、大きく上昇を始めています。これはコロナ禍によって人々が自粛生活を行う中で、さまざまなことに気付き、行動したことに起因します。

・これまでよりも自分の住まいに関心をもち、片付けや不用品の処分を始めたこと
・職を失うなど収入源に苦しむ人が増え、手持ちの品物を換金したいと考えた人が増えたこと

などが、メルカリの利用につながり、その需要に期待した投資家が多くいたことがメルカリの株価躍進につながったと考えられます。

2-3.新興株を買うタイミング=下がり続けた底値を狙う

上場直後の新興株は話題性も高く、投資家からも大きな期待が寄せられるために、実際の価値より割高で買われることが珍しくありません。言い換えると、事業内容や経常利益、売上高、純利益、キャッシュフロー、何よりその成長に必要な技術力と積極的な姿勢が、株価にそのまま反映されていない場合があるとうことです。

そのため、上場直後の取得ではなく、成長の経緯をある程度観察し、その企業を総合的に見たうえで下がっているタイミングを狙い購入すれば、大きな利益を得る可能性があります。

3.新興株を見極めるポイントと目安

新興企業にはさまざまな業態があります。業態が異なれば、先述の売買タイミングの考え方は当てはまらないことも十分あり得ます。新興株を購入する場合は、その企業の特性と成長の可能性をじっくりと見極める目が必要といえそうです。

3-1.着目する主なポイント

着目すべき点として、以下のようなものが考えられます。

・株価は下がっている(または安値圏での推移が続いている)が、売上高は順調に上がっている
・純資産の割合が多い(経営者の持ち株比率が高い)
・特段の理由がなければ、闇雲な資金調達を行わない
・浮動株比率が少ない(発行済み株式に対し市場に流通する可能性のある株式が少ない)
・事業内容が社会のニーズやトレンドと合致しており長い目で見て成長が期待できる
・画期的な新技術をもっている
・社長の考え方に共感できる。

このような株は、ニュースで取り上げられるなど世間の注目を集めたり、時代の波に乗ったりした場合には、上記2社の例のように一気に株価が急騰する可能性があります。

3-2.リターンに見合った覚悟も必要

割安なタイミングで銘柄を購入したいのであれば、一般にBPSを目安にする方法もあります。BPS(Book-value Per Share)とは1株当たり純資産を指します。会社の純資産を発行済株式数で割って、1株当たりいくらになるのかを算出したものです。企業の安定性を示す指標として利用され、BPSの値が大きいほどその企業の安定性は高く、逆に値が小さいと安定性を欠くと判断されます。株式投資においては、基本的にBPSに対して株価が低いほど割安とされます。

ただし、新興市場における成長株は、BPSの数倍の高い株価をつけている場合も多いです。割高で購入することは、仮に本来の価値まで下落すると損失が生まれるリスクがあるということです。新興株でリターンに期待するのならば、ある程度割高であることを覚悟する必要があるでしょう。

また、2章で説明した「底値」の判定もBPSである程度予測することが可能です。ただし、株価が割高か割安かはBPSだけで判定するものではなく、さまざまな指標を組み合わせて判断するべきものです。あくまでもひとつの目安として考えておきましょう。

4.新興株の特徴とそれを活かした3つのメリット

ここでは新興株投資において、一般にいわれているメリットを紹介します。

4-1.短期間で大きな利益が見込める

新興株は、その特性に連動したダイナミックな値動きが珍しくありません。これを上手く利用すれば、莫大な売却益を見込めます。実際、テンバガー(10倍株)は新興市場から生まれることが多いです。

4-2.実績よりも将来性への期待感が大きく化ける可能性を生む

新興株は、実績よりも企業の描く成長ストーリー、テーマ、将来への成長期待によって株が買われることから、未知数の可能性を秘めています。社会情勢の変化やトレンドにうまく乗った場合は爆発的な高騰を遂げることもあります。

4-3.海外市場の影響を受けづらく、国内要因のみでも成長が期待できる

新興株は新興企業のため、企業規模が小さく、そのため海外市場や世界情勢の影響を受けづらいといえます。よって、国内要因のみで成長が期待できます。

ただし、ここで紹介したこれらのメリットは次で説明する「リスク」と表裏一体となっています。

5.注意しておきたい新興株の4つのリスク

新興株は、計画性なく安易に手をつけると大きな痛手を負うことがあります。ここでは新興株の購入を検討する際に、おさえておきたいリスクを説明します。

5-1.流動性が低いため株価が乱高下しやすい

新興株は発行済み株式数が少なく、流動性が低くなっています。流動性が低いと株価が乱高下しやすくなります。もしも株価が上昇している際に「まだ上がるだろう」と安易に購入してしまうと、その後買った値段よりも大きく価格を下げてしまうリスクがあります。

5-2.業績と株価が連動していないため変動が読みづらい

新興株は増益よりも成長性に重きを置いている投資家が多くなっています。そのため、たとえ業績が良くても成長性にかげりが見られると株価の上昇にブレーキがかかることもあり得ます。投資家は未来を見て投資しているので、現実の新興企業ではなく、数年後にこうあってほしいという期待に対して投資しています。

よって成長率がその期待のとおりでなければ、それだけでも投資家の食指は動かなくなってしまいます。このように実態以上にさまざまな思惑や社会情勢に影響を受けるため、変動が読みづらくなっています。

5-3.単一業態が多く、大きなダメージを受けるケースがある

また、新興企業は企業規模が小さいぶん、複数の業態ではなく単一業態であることも多いです。そのため、大企業のように「1つの事業の失速を別の事業でカバーする」ことができません。単一業態しかないということは、その業界の動きに業績が左右されてしまうため、たとえばコロナ禍の旅行業界のように大打撃を受ける可能性もあります。企業の資本規模が小さいことから、体力もなく、最悪の場合は倒産してしまうかもしれません。

5-4.配当収入が期待できない

新興株では配当益や株主優待は期待しないほうがよいでしょう。なぜなら、配当は利益から株主に分配されるものだからです。しかし新興企業では、よりいっそうの利益や企業の成長、業績の安定性を得るため、配当に回すのではなく企業成長のための投資に回すことがあります。配当収入や株主優待を期待する場合は、新興株はあまり賢明な選択とはいえません。

まとめ

この記事では、新興株について説明しました。

・新興株売買においては、業績以上にその企業の成長性を見極める目が重要である
・できるだけ底値をつかめるよう、さまざまな情報を集めて判断する
・新興株では短期保有で売却することで大きな利益を得られる可能性が高いが、リスクも大きい
・新興企業であっても長期保有し、長く成長を見守り利益を得る方法もある。そのためにも新興企業の本質を見抜く目を養う必要がある

新興株投資には、大手安定企業への投資とは異なる醍醐味があります。新興株に興味がある方はぜひ、投資に挑戦してみてはいかがでしょうか。

文・福本江里

(提供:SmallCap ONLINE