12月短観予測:供給制約が長引き、大企業製造業の景況感は6期ぶりの悪化へ

(大企業非製造業の景況感は改善)

12月13日に公表される日銀短観12月調査では、半導体等部品不足の長期化や原材料価格高騰が重荷となり、注目度の高い大企業製造業の業況判断DIが16と前回9月調査から2ポイント下落すると予想(表紙図表1)。昨年秋以降続いてきた景況感の改善は6四半期ぶりに途絶えることになる。一方、大企業非製造業では、緊急事態宣言の解除に伴う人流回復を受けて、業況判断DIが6と前回調査から4ポイント上昇すると見込んでいる。これまで低迷が続いていた対面サービス業の景況感が持ち直すことで、業種間の格差もやや縮小に向かうだろう。

前回9月調査1では、半導体等の部品不足が重荷になったものの、堅調な海外経済やIT関連需要を受けて、注目度の高い大企業製造業の景況感が回復を続けた一方で、緊急事態宣言の延長が逆風となった大企業非製造業の景況感はほぼ横ばいに留まっていた(図表2・3)。

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(画像=ニッセイ基礎研究所)

前回調査以降も半導体等の部品不足という供給制約が長引いたことで、自動車産業を中心に輸出・生産が落ち込んだ。部品不足は既に最悪期を脱しているものの、生産は未だ完全回復に至っていないとみられる2(図表4・5)。

一方、国内では9月末に緊急事態宣言が解除されたうえ、コロナの感染が急速に鈍化したことを受けた人流の回復に伴って、飲食・宿泊など対面サービスを中心に消費が持ち直している(図表4・6)。

なお、資源・エネルギー価格高騰に伴う原材料価格の上昇は、価格への転嫁が進んでいる一部素材業種を除いた幅広い業種で収益の圧迫要因になっているとみられる(図表7)。

今回、大企業製造業では、円安の進行が一定の支えになったものの、自動車産業などにおける半導体等の部品不足や原材料価格の上昇が抑制要因となり、景況感が弱含むだろう(表紙図表1)。

一方、非製造業では、緊急事態宣言の解除ならびにコロナ感染の急減に伴う人流回復が追い風となり、対面サービス業を中心に景況感が改善するだろう。ただし、原材料価格の上昇や人手不足の再燃が重荷となるため、大幅な改善は見込めない。

中小企業の業況判断DIは、製造業が前回から3ポイント下落の▲6、非製造業が3ポイント上昇の▲7と予想(表紙図表1)。大企業同様、製造業では景況感が悪化する一方、非製造業では改善すると見ている。

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(画像=ニッセイ基礎研究所)
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(画像=ニッセイ基礎研究所)

先行きの景況感については総じて改善が示されると予想(表紙図表1)。製造業では部品不足の緩和による生産の回復、非製造業ではコロナ感染抑制に伴う人流のさらなる回復と「Go Toトラベル」等の経済対策への期待感が現れそうだ。中小企業非製造業については、もともと先行きを慎重に見る傾向が強く、先行きにかけて景況感の改善が示されることが極めて稀であるだけに、今回も小幅な悪化が示されると予想している。

ただし、今回の先行きの景況感に関しては、調査時期の関係で、直近発生したオミクロン株の世界的な拡大の影響が十分に織り込まれない点には留意が必要になる。オミクロン株の感染力や毒性はまだ不明だが、同株の拡大によって先行きの不透明感は確実に高まっている。

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1 前回9月調査の基準日は9月10日、今回12月調査の基準日は11月29日(基準日までに約7割が回答するとされる)。
2 製造工業生産予測指数は、11月における生産の大幅回復を示しているが、同指数はもともと高めに出る傾向がある。

(設備投資計画は小幅な下方修正へ)

2021年度の設備投資計画(全規模全産業)は、前年度比7.5%増(前回調査時点では同7.9%増)へやや下方修正されると予想している(図表9・10)。

例年、12月調査では中小企業において計画が具体化してくることで上方修正される傾向が強い3。しかし、今回は供給制約や原材料高による建設コストの増加などを受けて、設備投資を一旦見合わせたり、先送りしたりする動きがやや強まり、今年度計画の下方修正に繋がると予想している。

この場合でも、設備投資が前年度の落ち込みから大幅に持ち直すとの見通しは維持される。ただし、コロナ前である2019年度の水準との差は1.6%と、前回の1.2%からやや広がることになる。

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(画像=ニッセイ基礎研究所)
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(画像=ニッセイ基礎研究所)

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3 コロナ禍前の2010~19年度における12月調査での上方修正幅は平均で1.1%ポイント

(注目ポイント:供給制約の影響、仕入・販売価格判断DIなど)

今回の短観でまず注目されるのは、半導体等の部品不足、すなわち供給制約の影響が、足元・先行きの景況感や設備投資計画などにどこまで現れるかという点だ。最近の国内景気は供給制約によって下押しされてきただけに、その動向は景気の先行きを考えるうえで重要性が高い。

また、販売価格・仕入価格判断DIの動きも注目点になる。年初以降、原材料価格高騰によって仕入価格判断DIが大きく伸びる一方で、値上げに慎重な企業の姿勢を反映して販売価格判断DIは伸び悩みが続いてきた(図表11)。つまり、これまではコスト増の大半を企業部門が負担する形になってきたわけだ。今回、仕入価格がどれだけ上昇し、どれだけ販売価格に転嫁されているのか、先々の見通しはどうかという点は、今後の企業業績や消費者物価を占う材料になる。

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(画像=ニッセイ基礎研究所)

加えて、ソフトウェア投資計画の動向も引き続き注目される。同投資額(全規模全産業)は前回調査時点で前年比14.3%増と9月調査として過去最高4の伸びを記録している(図表12)。企業におけるオンライン需要への対応や業務のIT化などの動きを反映したものとみられ、日本企業のデジタル化推進に対する本気度を計る一つの試金石になる。

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(画像=ニッセイ基礎研究所)

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4 同項目は2001年3月調査から調査を開始

(金融政策との関連では資金繰り判断DIに注目)

今回の短観が日銀の金融政策に与える影響は限定的に留まりそうだ。

既述の通り、製造業の景況感が悪化し、設備投資計画も下方修正されることが予想されるが、それぞれ小幅な動きに留まり、日銀による早急な対応が求められるほどの内容にはならない。

また、そもそも日銀は物価目標の達成が見通せない一方で、追加緩和余地も殆ど残されていないことから、「強力な金融緩和を粘り強く続けていく」という建前を掲げながら、現状の金融緩和の枠組みを長期に継続せざるを得ない。

そうした中で日銀の目先の動きに関連してあえて注目されるのは、資金繰り判断DIとなる。日銀は今月16~17日の金融政策決定会合において、来年3月に期限が迫っている資金繰り支援策の延長是非を検討する見込みであるためだ。資金繰り判断DIは前回調査にかけて全体としては改善基調が続いてきたものの、事業環境の厳しい宿泊・飲食サービスなど一部の対面サービス業では厳しい資金繰り状況が続いていた(図表13)。今回もこうした業種で資金繰りの厳しさが続いていることが確認されれば、中小企業向け銀行貸出のバックファイナンスである「新型コロナ対応特別オペ」を延長するという判断を後押しする材料になる。

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(画像=ニッセイ基礎研究所)

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上野 剛志 (うえの つよし)
ニッセイ基礎研究所 経済研究部 上席エコノミスト

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