コロナ禍が始まった2020年は、ちょうど国勢調査の年でもあった。さかのぼること四半世紀の1995年、ちょうど東京一極集中が始まる前年からの都道府県別の出生数の変化をランキング形式でみてみたい(図表5)。
1995年から2020年までの四半世紀において、出生数は全国平均で約29%の減少率となった。わずか四半世紀で生れる赤ちゃんが7割水準となったということになる。「25年で3割減ならまだいい方なのではないか」と思う読者もいるかもしれない。
しかし、そのような単純な話だけではない。その内訳をみてみると、都道府県間で驚くべき出生率の減少率格差が生じていることがわかる。
四半世紀で出生数が約5割も減少したエリアは5エリア(秋田県、青森県、岩手県、福島県、山形県)であり、全て東北エリアとなった。
東北6県のうち、25位の宮城県を除くすべてのエリアで大きな出生数の減少が発生している。この5エリアにおいては、今の25歳男女の半分しか赤ちゃんが生まれなくなったのである。特に福島県と山形県は1970年から2020年の50年間における出生数減少率ランキングでの順位1と比べると、大きくランキングを上昇(福島県は14位から4位、山形県は12位から5位)させており、特にこの25年において出生数激減が発生したといってよいだろう。
福島県は2011年に発生した東日本大震災ならびに原発事故を端緒として、それまでよりも多くの女性が県外へ転出超過するようになり、全国でみても女性の転出超過数が常にトップクラスとなっている。そのため、当然の結果として出生数減少に拍車がかかる形となっている。山形県については1992年に山形新幹線が開通し、以降、仙台のその先に位置する東京へのアクセスが格段に上がったことが少なからず影響していると考えられる2。
全国平均を上回る出生数減少率を示したエリアは35エリアにものぼった。
47都道府県のうち実に4分の3ものエリアが全国平均を上回る減少を示している。つまり、全国平均を29%水準にまで引き下げている(出生数減少率の抑制に貢献している)のは、それより低い水準の減少率であるわずか12エリアである(減少率が低いエリアほど貢献度が高い)。
その12エリアの中でも東京都に関しては、前回レポートした1970年からの50年間減少率では約6割減であったものの、この四半世紀においては出生数減少どころか、103%の出生数増加エリアに転じ、「この四半世紀において唯一、少子化状況を免れ多子化に転じた」エリアとなった。
減少率ランキングを見ると18ランク引き下げることに成功している。それほどに、東京都へ若い女性人口が集中したのである。
コロナ禍で婚姻数と出生数の減少が大きく報道されていたが、「それでも東京都は別」である。今回は出生数の解説であるので他の人口動態に関するデータは省略するが、東京都は20代前半の就職期の未婚女性を中心にコロナ禍でも女性人口を全国から転入超過させ続け、婚姻数も全国トップクラスである。
約9割が未婚者である20代前半の若い女性が地方からの横滑りで東京都へ入ってくることによって、東京都は出生率が引き下がる。つまり、低TFRの原因は先に図示したように、地方からの未婚女性の転入が引き起こしていることにも気が付かねばならない。若年層の未婚率の高さも然りである。
「東京都は出生率が低くて未婚率も高いから、うちよりもっと少子化度合いがひどい(はず)」「待機児童も低出生率も東京都の問題だ」などと、統計数値の示す本質を見失った議論だけは回避しなければならない。
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1 「1970年から2020年の半世紀でみる出生数減少率・都道府県ランキング-ニッポンの人口動態を正確に知る(1)」参照
2 2020年に東北活性化研究センターが主催した女性定着調査において、筆者は山形県から首都圏に転出した20代女性にインタビュー調査を実施したところ、仙台と東京の就職先を比較していた。たまに実家に帰るならば、もはや仙台でも東京でもどちらでもいい、というところだろう。
3――地元を去り行く女性を顧みない政策に人口の未来なし
筆者が講演会等で、「10年単位でみて都道府県のTFR高低と都道府県の出生数増減の相関はない。関係があるのは女性の転出超過数である。それくらい人流が激化している」と繰り返し伝えているが、未だ自治体によっては理解が進んでいない、もしくは、少子化対策としてこれまで取り組んできたことと大きな変化が伴う政策変更への拒否感が強い、といった状況が見られている。
少子化対策を司るある自治体での担当課が「子育て支援話ではなく、女性の県外への転出対策といった話ならば、担当業務外である。」との認識であったというような話も仄聞する。
戦略、すなわちゴールを見失い、戦術に溺れる(流される)、とはまさにこのようなことであろう。
このような人口動態のエビデンスに基づかない政策に固執してしまう背景にあるのは、若い女性の県外流出、そして時代変化等への感度の低さである。
子育て支援、不妊治療、ひとり親施策といった、「既婚または婚歴あり男女への政策」は、それ自体は有効な施策ではあるものの、それらは全て「地元に残ってくれる人を対象」とした政策である。残ってくれない人のことは考えない、という政策のベースには、「自分たちのエリアが持っているこれまでの家族や労働価値観を頑なに変えない・変えたくない・変える気がない」「地元を選んでくれない人は視野にいれなくとも良い」というような社会的風潮が感じられる。
筆者の他のレポートでも繰り返し指摘しているが、統計的に見れば若い女性が去り行くトレンドのエリアに人口増加の未来はない。
今回の四半世紀出生数減少率ランキングは、「若い女性人口を集める東京都の人口の未来は明るい結果となった」ことを我々に示しており、それは少子化対策に欠けている「人流の視点」をあらためて念押ししたものと言えるだろう。
【参考文献一覧】
総務省. 「国勢調査」
厚生労働省.「人口動態統計」
総務省. 「住民基本台帳移動報告」
東京都. 「住民基本台帳移動報告」
天野 馨南子.“統計データに基づいた有意性の高い少子化政策策定のために―少子化の真因必携データと立ち上がる地方の自治体結婚支援" 2021年8月20日「第2回少子化社会対策大綱の推進に関する検討会」提出資料
天野 馨南子.“1970年から2020年の半世紀でみる出生数減少率・都道府県ランキング-ニッポンの人口動態を正確に知る(1) "ニッセイ基礎研究所「研究員の眼」2021年10月18日号
天野 馨南子.“人口動態データ解説-東京一極集中の「本当の姿」(上)" ニッセイ基礎研究所「基礎研レポート」2020年8月3日号
天野 馨南子.“人口動態データ解説-東京一極集中の「本当の姿」(下)-なぜ「子育て世帯誘致」では奏功しないのか)" ニッセイ基礎研究所「基礎研レポート」2020年8月17日号
天野 馨南子.“人口減少社会データ解説「なぜ東京都の子ども人口だけが増加するのか」(上)-10年間エリア子ども人口の増減、都道府県出生率と相関ならず-" ニッセイ基礎研究所「基礎研レポート」2019年6月10日号
天野 馨南子.“人口減少社会データ解説「なぜ東京都の子ども人口だけが増加するのか」(中)-女性人口エリアシャッフル、その9割を東京グループが吸収-" ニッセイ基礎研究所「基礎研レポート」2019年7月16日号
天野 馨南子.“人口減少社会データ解説「なぜ東京都の子ども人口だけが増加するのか」(下)-女性人口を東京へ一体なにが引き寄せるのか" ニッセイ基礎研究所「基礎研レポート」2019年11月11日号
天野 馨南子.“強まる東京一極集中(総数編)社会純減2019都道府県ランキング分析-最新純減ランキングにみる新たな動向-" ニッセイ基礎研究所「研究員の眼」2020年4月13日号
天野 馨南子.“令和元年2019人口動態データ分析-強まる東京「女性」一極集中(1)~追い上げをみせる大阪府、愛知県は社会減エリアへ" ニッセイ基礎研究所「研究員の眼」2020年2月25日号
天野 馨南子. “強まる「女性」東京一極集中(2)~転出男女アンバランス 都道府県ランキング-高まる地方男性の未婚化環境-"ニッセイ基礎研究所「研究員の眼」2020年3月9日号
天野 馨南子.“データで見る「東京一極集中」東京と地方の人口の動きを探る(上・流入編)-地方の人口流出は阻止されるのか-" ニッセイ基礎研究所「基礎研レポート」2018年8月6日号
天野 馨南子.“データで見る「東京一極集中」東京と地方の人口の動きを探る(下・流出編)-人口デッドエンド化する東京の姿-" ニッセイ基礎研究所「基礎研レポート」2018年8月13日号
天野 馨南子 (あまの かなこ)
ニッセイ基礎研究所 生活研究部 人口動態シニアリサーチャー
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