この記事は2022年1月12日に「ニッセイ基礎研究所」で公開された「景気ウォッチャー調査(21年12月)~現状判断DIはわずかに改善も、新変異株への懸念から先行きは大幅に下落」を一部編集し、転載したものです。
現状判断DIはわずかに上昇、先行き判断DIは大きく下落
2022年1月12日に内閣府が公表した2021年12月の景気ウォッチャー調査(調査期間:12月25日から月末)によると、3カ月前との比較による景気の現状判断DI(季節調整値)は56.4と前月から0.1ポイント上昇した(4カ月連続の改善)。他方、2~3カ月先の景気の先行き判断DI(季節調整値)は49.4と前月から▲4.0ポイント低下した(2カ月連続の悪化)。
地域別でみると、現状判断DI(季節調整値)は全国12地域中7地域で上昇し、5地域で低下した。他方、先行き判断DI(季節調整値)は全国12地域すべてで低下した。
今回の結果からは、調査期間の時点では、感染者数の増加傾向がみられつつあったものの、依然として低位にとどまっていたことにより、現状の景況感は引き続き改善したことが示された。なお、直近2カ月の改善幅は0.8ポイント、0.1ポイントと横ばいに近いが、景況感の改善の程度は引き続き2013年後半に匹敵する。また、現在の景気の水準自体に対する判断を示す景気の現状水準判断DI(季節調整値)も48.0となり、消費税率引き上げ前の2019年9月(47.3)を上回った。
ただし、新変異株をはじめとする感染再拡大への懸念から、先行き判断DIは50を割り込み、先行きの見通しは全体として悪化に転じた。現在、新変異株を含む新型コロナウイルス感染症の感染者数の急激な増加がみられており、今後の推移次第ではあるが、1月調査(調査期間:1月25日~月末)では景況感は悪化に転じるだろう。
景気の現状判断DI:高額品の好調な売り上げなどで、小売関連は上昇
現状判断DIは、調査期間内(12月25日から月末)には感染者数の増加傾向がみられつつあったものの、引き続き低位にとどまっていたことにより、4カ月連続で改善したが、改善幅は0.1ポイントであり、横ばいに近い状況だ。回答者構成比をみても、維持と回答した割合が増加した。
現状判断DIの内訳をみると、家計動向関連は57.2(前月差0.7ポイント、4カ月連続の改善)、雇用関連は60.2(同1.2ポイント、2カ月ぶりの改善)、企業動向関連は52.1(同▲2.4ポイント、4カ月ぶりの悪化)であった。
家計動向関連は、全体としては前月から小幅増であるが、その内訳では、小売関連は前月から3.0ポイント増の56.7となる一方で、飲食関連は前月から▲6.1ポイント減の62.1、サービス関連は前月から▲1.6 ポイント減の59.3と落ち込んだ。
回答者のコメントからは、小売関連について、クリスマス商戦などで高額品の売り上げが好調であったようだ。他方で、飲食関連やサービス関連について、新変異株への懸念の高まりが影響したようだ。ただし、小売関連、飲食関連、サービス関連はいずれもDIが50を超えており、改善は継続している。また、企業動向関連の低下については、半導体不足や原材料の価格高騰などが主な要因とみられる。他方、回答者のコメントからは、原油価格高騰への懸念が伺われる。雇用関連は50を大幅に上回っている。
<クリスマス商戦や高額品の売れ行きの好調さに関連した回答者のコメント>
外出自粛ムードだった前年から一転し、店頭ではにぎわいが戻っている。特に高額品の売行きが好調で、全体をけん引している。18日からと26日からの最強寒波による積雪で来客数が落ち込んだため売上は失速したが、月全体では前年超えの見込みである(北陸・百貨店)
クリスマス商戦でケーキやチキンがよく売れた。クリスマスが終わってからも、帰省をするのか家族での来店が多くみられ、年末まで忙しくおにぎりや店内手作り弁当がよく売れた(東海・コンビニ)
時節柄、月曜日から木曜日はふだんどおりだが、金曜日、土曜日に人が出ており、特に当店では高額品が売れ、客単価が上がっている。また、近所の飲食店には列ができており、久しぶりに繁盛している状況が分かる。特に旅行客が多くなっている(東北・一般小売店)
<半導体不足の状況に関する回答者の主なコメント>
半導体不足や海外からの輸入部材、建材の遅れに伴い、工事期間の延長などが発生し始めてきた(東北・設計事務所)
経済は動き始めたが、輸入が入らず仕事がない会社が出てきている。半導体などの部品がないこと、ウッドショックも原因の1つである(南関東・求人情報誌製作会社)
なお、現状判断に関する回答者コメントの傾向を把握する観点から作成した共起ネットワーク(*1)は以下の通りとなった。
(*1)KH Coderにより作成。複合語等の調整を実施。
景気の先行き判断DI:新変異株への懸念から2カ月連続低下、50割れ
2~3カ月先の景気の先行き判断DIは2カ月連続で低下した。新変異株への懸念などから50割れとなった。回答者構成比でみれば、先行きは悪化するとする見通しが増加している。
先行き判断DI(季節調整値)の内訳をみると、家計動向関連は48.9(前月差▲5.2ポイント)、企業動向関連は47.7(同▲2.1ポイント)、雇用関連は56.5(同▲0.1ポイント)であった。家計動向関連や企業動向関連の内訳も全て前月から低下し、新変異株への懸念の全般的な広がりが示唆される。また、家計動向関連の内訳をみると、とりわけサービス関連(前月差▲9.1ポイントの47.5)と飲食関連(前月差▲5.4ポイントの50.4)の落ち込みが大きい。
回答者のコメントからは、新変異株などによる感染再拡大への懸念の声が聞かれた。原油価格上昇、物価上昇の懸念を指摘する声もあった。
<新変異株に関する回答者の主なコメント>
新型コロナウイルス対策としての景気浮揚策の効果も期待できるが、新型コロナウイルス新変異株や感染の第6波などへの不安要素の方が強く感じられるため、今後の景気はやや悪くなる(北海道・スーパー)
年末年始の宿泊予約が伸び悩んでいる。新型コロナウイルス新変異株による感染の再拡大及び燃料や食料品等の値上げにより、外食や旅行などの余暇に対する消費の抑制を懸念している(北陸・都市型ホテル)
<原油価格上昇や物価上昇への懸念を指摘する回答者の主なコメント>
原油価格の高止まりにより、当面は高い販売価格のまま推移する。それにより現状の節約志向はまだまだ続くとみられることから、販売量の回復は見込めない(東北・その他専門店(ガソリンスタンド))
市場マインドは上向きつつあるものの、新型コロナウイルス感染症の影響及び世界的な電子部品供給不足等による部品調達の遅滞や原材料価格の高騰等、不確定な要素が多く懸念される(四国・一般機械器具製造業)
なお、先行き判断に関する回答者コメントの傾向を把握する観点から作成した共起ネットワーク(*2)は以下の通りとなった。
(*2)KH Coderにより作成。複合語等の調整を実施。
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山下 大輔 (やました だいすけ)
ニッセイ基礎研究所 経済研究部 准主任研究員
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