要旨
- 2021年10-12月期の法人企業景気予測調査を見ると、21年度計画では増収増益率が上方修正。
- 増収計画の上方修正幅が大きい業種は、製造業では「石油・石炭製品」「鉄鋼」「非鉄金属」、非製造業では「鉱・採石・砂利採取」「職業紹介・労働者派遣」。鉱工業については、化石燃料や鋼材価格の上昇の恩恵を受けやすい業種の上方修正が目立つ。非製造業では、ワクチン接種の進展などによりコロナショックが最悪期を脱しつつある中で、職業紹介・労働者派遣需要の回復が見込まれていることが予想される。
- 昨年度の経常赤字から今期黒字転換が計画されている業種は「宿泊飲食サービス」「生活関連サービス」「娯楽」「運輸・郵便」となる。特に「運輸・郵便」については、新型コロナに対するワクチンの普及が進むことで、空運や鉄道旅客数が正常化に向かう動きに加えて、EC化の進展に伴う宅配需要の増加も寄与している可能性。「鉄鋼」が経常利益計画も大幅上方修正されている背景には、世界の鋼材需要が回復する中で、原料購入価格と製品販売価格の差となる交易条件の改善も寄与。「生産用機械」は、世界的な部品不足に伴い、半導体製造装置を中心に世界的な生産設備需要拡大で経常利益が大幅上方修正された可能性。「電気機械」は世界的に好調な半導体関連や自動車関連製品の需要増が貢献している可能性。
- 日銀が来週公表する12月短観の収益計画(大企業)も今期業績見通しを読み解く手がかりとして注目。
上方修正される増収増益率
12月9日に公表された2021年10-12月期法人企業景気予測調査は、今年11月下旬にかけて資本金1千万円以上の法人企業に対して行った景気予測調査であり、今期の業種別企業業績計画を予想するための先行指標として注目される。
そこで本稿では、来年1月下旬からの今年度決算発表で、コロナ渦が続く中でも今年度の企業業績計画の上方修正が見込まれる業種を予想してみたい。
下図は、法人企業景気予測調査の調査対象企業の各調査時期における21年度の売上高と経常利益計画の年度見通しの推移を見たものである。まず売上高を見ると、今回は前回から増収率は若干上方修正となっていることからすれば、四半期決算でも今期の売上高計画が上方修正となる業種には注目が集まるものと推察される。
一方の経常利益も、売上高以上に上方修正となっている。このことから、1月下旬からの四半期決算発表では、多くの業種で利益の上昇修正計画が出てくることが予想される中、特に強めの計画が打ち出される業種には注目が集まるものと推察される。
売上高上方修正は素材がけん引
以下では、1月下旬からの決算で、今期売上高計画で高い上方修正が期待される業種を見通してみたい。下表は業種別売上高計画の前年比と前回調査からの修正率を比較したものである。
結果を見ると、21年度は「繊維」「その他輸送機械」「建設」「電気ガス水道」以外の全業種で増収計画となっている。こうした中で増収率の上方修正幅が大きい業種は「石油・石炭製品」「非鉄金属」「職業紹介・労働者派遣」であり、中でも「鉄鋼」「非鉄金属」「石油・石炭」は二桁増収計画となっている。
特に「鉄鋼」については、足元で原材料高が重しとなっているが、世界的に鋼材価格が上昇してきたことから、下期の大幅増収が期待される。「非鉄金属」でも、多くの鋼材価格が上昇してきたことが上方修正の背景にあることが推察される。
また、非製造業では、ワクチン接種の進展などによりコロナショックが最悪期を脱しつつある中で、職業紹介などの需要が回復してきたことが見込まれていることが予想される。
経常利益は「鉄鋼」「生産用機械」「電気機械」等が大幅上方修正
続いて、経常利益計画から21年度の大幅上方修正が期待される業種を見通してみよう。結果を見ると、一部業種で減益計画となっており、これは、部品不足に伴う生産抑制や、化石燃料や建設資材の価格高騰等に伴うコスト増が一因と推察される。また、「宿泊・飲食サービス」は、前回調査までは赤字計画となっていたが、今回調査で黒字転化計画となってた。
それ以外にも、20年度に赤字計画も今期は黒字転換を計画する業種を見ると、「運輸・郵便」「生活関連サービス」「娯楽」となっている。特に「運輸・郵便」については、新型コロナに対するワクチンの普及が進むことで、空運や鉄道旅客数が正常化に向かう動きに加えて、EC化の進展に伴う宅配需要の増加も寄与してい可能性が推察される。
こうした中、売上高計画が大幅上方修正された「鉄鋼」は、経常利益計画も大幅上方修正されている。背景には、世界の鋼材需要が回復する中で、原料購入価格と製品販売価格の差となる交易条件の改善も寄与している可能性がある。
また、「農林水産」で増益率が大幅上方修正されているのは、売上高は下方修正されていることから、何某かコスト削減効果により経常利益が大幅上方修正された可能性がある。一方、「生産用機械」については、世界的な部品不足が生じる中で、半導体製造装置をはじめとした生産用設備の需要拡大が寄与している可能性がある。他方、「電気機械」については、世界的に不足する半導体関連が好調に推移してきたことに加え、世界的な自動車生産の回復に伴い関連製品が好調だったこと等が貢献している可能性が推察される。
なお、日銀が来週公表する12月短観の収益計画(大企業)は法人企業景気予測調査に比べて聞き取りのタイミングが若干遅いことから、12月短観における大企業の収益計画も期末決算と来期業績見通しを読み解く手がかりとして注目したい。(提供:第一生命経済研究所)
第一生命経済研究所 調査研究本部 経済調査部
首席エコノミスト 永濱 利廣