相続対策不足によるこんな悲劇も
次のような事例に付いて考えてみましょう。夫が突然亡くなり、残された妻のAさん。法定相続人は、Aさんと、夫の姉(Bさん)と夫の妹(Cさん)の計3人です。夫が残した財産は、不動産と預貯金・株でした。不動産の評価額は4,000万円、さらに預貯金・株の800万円を合計して総額4,800万円となりました。税理士に確認をしたところ、相続税の基礎控除の範囲内であるということで、相続税を納める必要はないとのことでした。
(参考)相続税の基礎控除=5,000万円+1,000万円×法定相続人の数(平成26年12月末までの相続の場合)
葬儀などを終えしばらくした後、BさんとCさんより、Aさんに遺産分割協議の申し出がありました。話し合いをしたところ、BさんとCさんから法定相続分の財産を欲しいと言われました。相続人が、被相続人の「配偶者」と「兄弟姉妹」である場合、配偶者の法定相続分は遺産の「4分の3」、兄弟姉妹の相続割合は遺産の「4分の1」となります。BさんとCさんはその「4分の1」を2人で分けることとなるので、それぞれの法定相続分は「8分の1ずつ」となります。
遺産総額である4,800万円の8分の1は600万円、BさんとCさん2人分では1,200万円となります。Aさんの立場からすると、預貯金と株を合わせて800万円を相続した中で、夫の姉妹が主張する金額を払うことは困難です。この場合、現金を借り入れて2人に法定相続分を支払うか、不動産を売却して現金を捻出するという方法が考えられます。
生命保険を活用した代償分割とは
上記の例の場合は、夫が契約者となり、自身の死亡を事由として妻であるAさんが死亡保険金を受け取ることができる生命保険に加入していれば、Aさんは現金借入や不動産売却を行うことなく、姉妹2人に支払うための現金を確保できました。このように、特定の相続人が財産(不動産など)を相続し、他の相続人に代わりに金銭を支払い遺産分割を行うことを「代償分割」と呼びます。不動産が財産のほとんどを占め現金が少ない場合は、代償分割を行うための現金を生命保険金で準備することがおすすめです。
それに加えて、遺言で「不動産を誰に受け継がせたいか」を書いておけば、より安心です。さらに上記の例では、夫が配偶者であるAさんに全財産を残す旨の遺言を書いておけば、そもそも兄弟姉妹には「遺留分」がないため、代償分割すら行うことなく、全財産を妻に相続させることができました。
(参考)遺留分:最低限保証された遺産の取り分のこと。被相続人の配偶者・子・親などには遺留分があるが、被相続人の兄弟姉妹には遺留分がない。
平成27年の相続税改正による影響
相続税は、相続人が受け継いだ財産の金額に応じて納める税のことです。相続税は誰にでもかかるものではありません。基礎控除額を財産から控除できる制度などにより、一定額以上の資産がある方が対象となります。現在、相続発生件数のうち4%程度が相続税の対象といわれており、富裕層の税というイメージがあることも頷けます。なお、相続税の基礎控除額は平成27年1月から発生した相続に関して現行制度の6割に減額されるため、相続税を納める方は今よりも増えることとなります。
(参考)相続税の基礎控除=3,000万円+600万円×法定相続人の数(平成27年1月以降の相続の場合)
今までは「相続税がかからないから、代償分割のみ生前対策をしておけば良かった」という方も、今後は相続税がかかるかどうか、その場合は対策をどうするかについても考える必要が出てきます。これを機会に、自身の法定相続人や基礎控除額、そして資産状況を改めて確認されることをおすすめします。
【関連記事】
金融資産と不動産~2つの角度から見る財産評価概略~
相続税改正に向けて 〜贈与税に関する3つの節税ポイント〜
平成27年1月1日から。相続税改正におけるポイントまとめ
生前贈与を賢く活用する〜相続時清算課税と暦年贈与の選択~
相続税対策の強い味方~生命保険と生前贈与の関係とは?~