要旨
- 24日に2022年度当初予算が閣議決定された。予算総額は107.6兆円と前年度当初予算から+1.0兆円の増加。高齢化に伴う社会保障関係費の増加と国債費の増加の2点で殆どが説明可能だ。政策経費については高齢化要因による社会保障関係費の増加のみを認める例年通りの当初予算編成だ。税収は65.2兆円と既往最高額が見込まれており、新規国債発行額も36.9兆円と前年度当初予算(43.6兆円)から大きく減少している。
- このところの15・16か月予算は「補正を緩めて当初を絞る」財政運営である。官が長期的に何を重点分野とするのかを示し、継続的に取り組むことをコミットすることで、財政投資が呼び水となった民間投資が集まる。継続的な歳出はその性質から当初予算で行われるべきものであり、毎年の政治経済情勢によって規模も内容も変わる補正予算は不向きだ。財政均衡を目指すにしても当初予算のみの抑制では意味がない。岸田首相は「予算の単年度主義の弊害是正」を掲げているが、15・16か月予算の見直しをはじめ、その深化が求められる。
- 2022年度は団塊世代が後期高齢者入りする年であり、医療介護費の急増が懸念されていたが、社会保障関係費の伸びは従来並み。かねてから指摘してきたが、人口減が医療介護費を押し下げる作用もある。「急増」は言い過ぎであろう。
例年通りの当初予算編成
24日に2022年度の予算案が閣議決定された。当初予算の総額は107.6兆円で2021年度当初予算からは+1.0兆円の増加。高齢化に伴う社会保障関係費増加と国債費増加の2点でほぼ説明可能だ。その他の歳出経費は前年度とほぼ同額。コロナ予備費5兆円が計上されている点も昨年度と同様である。
税収は65.2兆円と既往最高額が見積もられている。前年度当初予算比では大幅な増加に見えるが、11月の補正予算案時点で20年度の税収見積もりは63.9兆円に上方修正されており、ここからの増加幅は+1.4兆円。経済成長のペースに沿った増加が想定されている。税収増の結果、新規国債発行額は36.9兆円と昨年度当初予算(43.6兆円)から大きく減少。コロナ予備費5兆円を除けば、当初予算ベースではすでにコロナ前の新規国債発行額を下回っている。実体経済の回復は道半ばだが、K字回復の下で税収の回復が一足先に進んでいることを示す内容である(※1)。
当初予算は骨太方針の財政再建計画に沿う形で社会保障関係費の増加のみを認め、それ以外は変わらないという、例年通りの予算編成になっている。近年は16か月予算・15か月予算という形で当年度の補正予算と次年度の当初予算を合わせた形で編成することが常態化している。この際、全体の予算規模は補正予算で調整されているため、当初予算単体で予算規模をみることにあまり意味がなくなっている点が、最近の予算編成の特徴である。
薬価引き下げで社会保障関係費の伸びを抑制
歳出項目の内訳を確認すると、社会保障関係費は36.3兆円(前年度当初予算対比+0.4兆円)と増加。高齢化要因による自然増+0.66兆円に加え、診療報酬本体部分の増加、看護・介護・保育士等の処遇改善、不妊治療の保険適用などが増額要因となる一方、診療報酬の薬価部分引き下げなどによって、社会保障関係費の増加は抑制された形だ。また、国債費は24.3兆円(同+0.6兆円)と、債務残高の増加を背景に増加した。今回の予算総額が増加した要因はこの2つでほぼ説明可能である。
このほか、文教・科学振興費が5.4兆円、公共事業関係費が6.1兆円と前年度とほぼ同額が計上されている。コロナ対策の予備費は前年度と同様に5.0兆円が措置された。防衛関係費は5.4兆円と前年度当初予算からおよそ500億円増えているが、予算規模全体へのインパクトは大きくはない。
「当初予算を絞り、補正予算を緩める」財政運営は続くのか
このところの15・16か月予算は、いわば「当初予算を絞り、補正予算を緩める」方法だ。当初予算の拡大を抑える一方で、年度途中で編成される補正予算には何ら制約を課していない。結果的に、当初予算の歳出構造は変わらないままで、財政需要に対しては補正予算の拡大で対応する形になっている。補正予算の規模・内容は毎年の政治経済情勢によって左右され、その事業は単発的・短期的なものになりがちだ。官が長期的に何を重点分野とするのかを示し、継続的に取り組むことをコミットすることで、財政投資が呼び水となった民間投資が集まる。継続的な歳出はその性質から当初予算(本予算)で行われるべきものであり、毎年の政治経済情勢によって規模も内容も変わる補正予算は不向きである。
財政均衡を目指す視点で考えても、当初予算のみをコントロールすることに大きな意味合いはない。補正予算を含めた決算ベースで考えない限り、歳出のコントロールにはならないからである。現在の財政運営はいわば財政縮小派と拡張派の間をとった折衷的なものだが、結果としてどちらの目的も十分に満たすことができない状態に陥っていると考えている。真に求められていることは、既存の歳出構造を所与とする当初予算運営の見直しであろう。
岸田首相は「予算の単年度主義の弊害是正」を訴えている。計画的な予算編成、財政運営が民間投資を呼び込むなどの観点でも有用という認識はあると思う。弊害是正のツールとして補正予算において「基金」が用いられているが、基金は事業執行責任のあいまいさや低い執行率など、ガバナンス面での課題が大きい。次の骨太・予算編成では当初予算の在り方、15・16か月予算の是非などを含め、既存の財政運営の課題について包括的な議論がなされることを期待したい。
団塊世代後期高齢者入りでも「社会保障費急増」というほどではない
2022年度以降、団塊世代の後期高齢者入りによって医療・介護費をはじめとした社会保障費が急増する、という議論(2022年問題ないしは2025年問題)がある。筆者はかねてから高齢化要因が社会保障給付費の押し上げ要因となる一方で人口減少は押し下げ要因となることなどから、「急増」は言い過ぎだと考えていたが2 、実際に今回予算案の社会保障関係費の増加は+0.4兆円でここ数年の当初予算ベースの値と大きく変わるものではなかった。
制度改革等の要因を除いた純粋な高齢化要因部分に相当する自然増をみると、2022年度の自然増は+6600億円と示されている。確かに2020・21年度よりも大きくなっているが、団塊世代の高齢者(65歳)入りを迎えた2010年代と比較すると伸びは明らかに小さい。「急増」というのは少々表現がオーバーに思われる。(提供:第一生命経済研究所)
(※1) Economic Trends「コロナ危機下でまさかの税収増~消費税率引き上げと2種類のK字経済が影響か~」(2021年7月6日)で税収の立ち直りの速さの背景について解説しています。
(※2) Economic Trends「「2020年代の社会保障費急増」は本当か?~人口要因はむしろ和らぐ~」(2018年4月19日)で背景について考察しています。
第一生命経済研究所 経済調査部
主任エコノミスト 星野 卓也