相続時精算課税制度とは

まず、相続時精算課税制度とは何か、ということからご説明します。

相続時精算課税制度とは、一定の親族間の贈与について、2500万円の特別の非課税枠を設けるという制度をいいます。通常、贈与の非課税枠(基礎控除額)は1年間で1人につき110万円です。これを越える贈与を行えば贈与税課税の対象となります。

しかし、相続時精算課税制度では、65歳以上の方(2014年時点)お一人について2500万円の贈与税の非課税枠を設けることができます。そして、2500万円までの贈与については、相続開始までは税金が課されません。2500万円を超えた場合には一律で20パーセントの税金がかかります。これは2500万円までであれば、贈与自体をしやすくして社会にお金を回すことを企図した制度です。

この制度を利用して直接にメリットを受けることができる方は相続税がかからない方です。例えば、遺産総額が推定で2000万円であれば、基礎控除額の範囲ですので相続税は一切かかりません。この場合に、例えば、1500万円を一括で贈与した場合、通常であれば110万円を大きく超えてしまうので贈与税が発生しますが、相続時精算課税制度の利用のもとでは税金はかかりません。

このように一定額の贈与をしやすくして社会にお金を回しやすくするのが相続時精算課税制度です。相続時精算課税制度を利用するためには税務署への届出をすれば良く手続きは簡便です。ただ、一度相続時精算課税制度を選択して手続きをすると二度と暦年贈与には戻れないという点には注意が必要です。

相続時精算課税制度だけでは節税にならないけれども

相続時精算課税制度を選ぶと、2500万円の非課税枠は設けられるものの、相続税の計算の時に贈与分は遺産に加えて計算されます。贈与額+相続開始時の遺産をもとに計算をして相続税が課税されることとなります。そのため、相続税の発生が見込まれる場合、相続時精算課税制度を選択しただけでは相続税の節税効果はないことになります。しかし、贈与対象が賃貸物件である場合には節税効果を産むことが可能となります。

つまり、相続時精算課税制度を利用して賃貸物件を子息に贈与した場合、相続時点での贈与税が(相続時精算課税制度の分)安くなるだけではなく、その物件から発生する賃料収入を子息のものとさせることができることになります。例えば、1億円の賃貸物件を贈与した場合には、暦年課税であれば4700万円程度もの贈与税がかかってしまいます。

しかし、相続時精算課税制度であれば、7500万円×20パーセントで贈与時の税金は約1500万円です。これに加えて、相続開始時までの賃料をすべて子息の「ふところ」に入れることが可能となります。

そして、賃料は将来の相続時の精算時の納税資金とすることが可能となります。賃貸物件の贈与の法務手続きとしては、贈与契約(これは口頭でも構いません)に加えて、贈与を原因とする所有権移転登記をすることで法律上「つつがなく」完了します。(理論上は口頭で「この物件を子息にやるよ」と言ってご子息が「もらう」という意思表示をすれば贈与契約が完了しますが、贈与を明白にするために登記を移転させるべきでしょう。)

このように相続時精算課税制度を賃貸物件について適用させることで高い節税効果を期待することが可能となります。