この記事は2022年6月1日に「第一生命経済研究所」で公開された「骨太方針2022のポイント(総論編)」を一部編集し、転載したものです。


経済
(画像=PIXTA)

目次

  1. 2022年の骨太方針原案が示される:日本も「大きな政府」へ舵
  2. ワードクラウドにみる2022年の骨太方針
  3. 「計画的政府投資>財政再建」のスタンスが明確に

2022年の骨太方針原案が示される:日本も「大きな政府」へ舵

2022年5月31日に内閣府の経済財政諮問会議から2022年の経済財政運営の基本方針(骨太方針)の原案が示された。毎年の政府の経済財政政策の中核を担う文書だ。2022年6月7日にも閣議決定が見込まれている。閣議決定に向けて原案から内容が調整されていくが、大筋は原案通りにまとまるのが通例である。

今回の骨太方針は5章構成だ(資料1)。第1章では新型コロナウイルス感染症やウクライナ情勢、気候変動問題等に触れつつ、これらの社会課題の解決に向けた取組を成長の源泉にしていく、という「新しい資本主義」の考え方が述べられている。

第2章では重点分野として、「人」「科学技術・イノベーション」「スタートアップ」「グリーン」「デジタル」への投資が示されているほか、そのほかの取組として少子化対策・こども政策、女性活躍、インバウンドの戦略的回復などが掲げられた。

第3章は安全保障上の課題が中心になっている。昨年と異なり安全保障を中心とした「章」が設けられていることは、ウクライナ情勢緊迫化などを受けた今回骨太の特徴の1つだ(*1)。

NATO諸国がGDP比2%以上の国防予算を目指していることに触れられており、防衛費の増額が念頭に置かれている。経済安全保障については「重要な課題」とされ、半導体やレアアースなどの安定供給に向けた取組を強化する。ウクライナ情勢緊迫化を背景に、エネルギー安全保障、食糧安全保障の強化も挙げられている。

第4章では財政再建計画など今後の中長期の経済財政運営方針、第5章ではそれを踏まえた2023年度予算の編成方針などについて述べられている。

*1:2021年骨太は(1)新型コロナウイルス感染症の克服とポストコロナの経済社会のビジョン、(2)次なる時代をリードする新たな成長の源泉~4つの原動力と基盤づくり~、(3)感染症で顕在化した課題等を克服する経済・財政一体改革、(4)当面の経済財政運営と令和4年度予算編成に向けた考え方、の4章構成だった。

今回の骨太の最大の特徴は、様々な分野において中長期的・計画的な財政支出を行う旨が明記された点である。「人への投資」では、成長分野への移動促進に3年間で4000億円の政策パッケージを設ける旨が示されたほか、「グリーントランスフォーメーションへの投資」を行うために新たな国債=「GX経済移行債(仮称)」を発行する。

政府投資の規模は“10年で20兆円規模”とされる(岸田首相発言)。国際情勢の変化に伴う防衛の重要性も説かれており、防衛費増額も念頭に置かれている。

また、骨太方針では予算の単年度主義の弊害是正について繰り返し触れられており、複数分野で政府が中長期的・計画的に支出を行っていく方針が示されている。米欧でも市場原理での解決の難しい脱炭素や安全保障分野などへ政府が数年間にわたって財政支出を行う計画が立てられてきた(*2)。

政府部門がこれらの投資を先導する近年の「大きな政府」の世界潮流に日本も乗ることになる。

*2:米国のインフラ投資法案(2021年11月15日成立)や欧州の次世代 EU(2020年7月合意)。

なお、岸田首相の掲げてきた「新しい資本主義」は、政権発足当初には金融所得課税の強化をはじめ分配政策が重視されていた印象もあったが、今回の骨太方針からは官民一体での投資や、それによる成長を重視した形に変容してきたことがうかがえる。

第一生命経済研究所
(画像=第一生命経済研究所)

ワードクラウドにみる2022年の骨太方針

骨太方針の文書について、単語の出現頻度を示すワードクラウドを作成、昨年の骨太方針と比較してみたものが資料2だ。まず、2021年はトップワードであった「感染症」の出現頻度が大きく減少(2021年:97回→2022年:14回)。新型コロナの落ち着きともに骨太内での出現頻度が減っている。

今回の骨太では「投資」(42回→92回)の出現頻度が大きく増加したことも特徴。積極的な政府投資を掲げる内容になっていることが語の出現頻度にも表れている。

また、「安全保障」も増加(20回→39回)。ウクライナ情勢の緊迫化等に伴い、より多くの紙幅が割かれている。

第一生命経済研究所
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「計画的政府投資>財政再建」のスタンスが明確に

今回の骨太方針は政府が「中長期的・計画的な財政出動」を行うことを明示した点が従来からの大きな変化である。そして、財政再建についてのトーンが明確に弱まっている点も特徴だ。

骨太方針では「財政健全化の『旗』を下ろさず、これまでの財政健全化目標に取り組む」としつつも、「現行の目標年度により、状況に応じたマクロ経済政策の選択肢が歪められてはならない」「債務残高GDP比をコントロールする観点からも名目成長率を高めることが重要」「経済あっての財政であり、順番を間違えてはならない」といった記述が新たに盛り込まれている。従来記載されていた財政目標を「堅持する」との文言はなかった。

また、「状況に応じて必要な検証を行っていく」として将来の財政再建目標修正に含みを持たせている。「これまでの財政健全化目標に取り組む」とされていることから、政府の掲げる2025年度の基礎的財政収支黒字化目標そのものは生きている形になっているが、経済優先のトーンが強まっており、財政再建目標の優先順位は低くなったと考えられる。

中長期的・計画的に政府が支出を行うという「単年度主義の弊害是正」(基金等による複数年度の財政支出)と、財政再建目標における2025年度(3年後)の基礎的財政収支黒字化は、基本的にバッティングする概念だ。

基礎的財政収支の黒字化目標を第一に優先すると、今後骨太方針内の政策が具体化されていく過程において、「現行の目標年度により、状況に応じたマクロ経済政策の選択肢が歪められる」事態が起こってしまう。この点を含め、今回骨太が財政再建計画や今後の財政運営に与える示唆については、稿を改めて検証したい。

第一生命経済研究所 経済調査部 主任エコノミスト 星野 卓也