原油価格の高騰と円安のダブルパンチで、ガソリン価格の上昇が続いている。その原油価格以上に心配されているのが天然ガス価格だ。世界では天然ガスの争奪戦が繰り広げられており、その影響は非鉄などの資源価格にも影響を及ぼしている。それが世界のインフレ懸念につながっているわけだ。ここでは、天然ガス高騰の構図や日本の環境対策について述べてみたい。
原油の先物価格は1年半で6~7倍に上昇
季節は行楽シーズン真っ盛り。緊急事態宣言も解除され、週末は行楽地に出かける家族も多いことだろう。そこで気になるのがガソリン価格である。久しぶりの遠出だからと張り切ってはみたものの、思わずガソリンを満タンにするのをためらってしまった方もいるのではないか。
資源エネルギー庁が発表している給油所の小売価格調査によると、2021年10月25日のレギュラー価格(現金)は全国平均で167.3円。九州や沖縄、東北、関東の一部では170円を超える県も散見された。2021年の年初は全国平均価格が136.1円だったので、この10ヵ月でおよそ23%上昇したことになる。ちなみに、同日の調査で全国最高値は長野県の175.1円、最安値は茨城県の161.9円だった。
周知のように、ガソリン価格は原油価格と為替相場の影響を受ける。国際的な原油価格の指標となるWTI原油先物価格は、コロナショック直後の2020年4月、1バレル当たりの価格が史上初めてマイナスを記録するなど急落した(翌日には10ドル台を回復している)。その後は世界経済の回復期待などによって右肩上がりの上昇を続け、2021年10月25日には一時85ドル台を記録。およそ1年半で6~7倍に値上がりしたわけだ。
一方、ドル/円相場は、2021年初頭の1ドル=102円台から、足元では114円台まで円安が加速している。これもガソリン価格上昇の要因の1つだ。為替相場の予想は専門家に委ねるが、複数の日米金融機関のレポートを見ると、ドル/円相場は現状維持、あるいは若干の円安傾向との予想が多いようだ。そうなれば、当面はガソリン価格にドル安・円高の援護射撃は期待できないということになる。
世界中で天然ガスの争奪戦が勃発
消費者としてはガソリン価格の高騰が身近な関心事だが、実は原油価格の上昇よりも深刻と思われるのが天然ガス価格の高騰である。天然ガス先物の価格は、コロナショック直後に比べて4倍程度に上昇した。これだけでは「原油価格のほうが上がっているじゃないか」と思われるだろうが、問題は天然ガス価格の上がっている背景や構図にある。
ある著名経済評論家は「世界中で天然ガスの争奪戦が勃発している」と指摘する。
「日・米・欧に加え、中国まで温暖化ガスの排出削減目標の期限を2030年に設定しています。火力発電の燃料を石炭から天然ガスにするだけで4割以上も温暖化ガス削減ができるので、各国とも天然ガスの確保に躍起となっているわけです。オーストラリアからの石炭輸入を禁止した中国は、十分な石炭を調達できず、不足分をロシアからの天然ガス輸入でまかなっている状態。それも、天然ガス価格の上昇につながっています。そもそも、原油の供給能力は十分。中東諸国が増産に踏み切ればいいだけです」