事業売却額の相場

事業売却後の資産運用
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事業売却後の資産運用を考えるためには、まず売却する事業がどれぐらいの額になるのかを把握しておかなければならない。

実際の事業売却の相場を算出する際は、さまざまな企業価値が考慮されながら複雑な計算が行われることになる。しかし、おおよその金額であれば次の式を使って求められる。

  事業売却の相場価格 = 時価純資産額 + 営業権

時価純資産額とは、時価評価した資産から時価評価した負債を控除したものである。実態純資産ともいわれる。純資産は貸借対照表で数値化されている(簿価純資産)が、既存の帳簿と時価に差が生まれている場合、算出した値が実際の純資産と大きく異なる可能性があるため、時価に評価し直す必要がある。

時価に評価し直す例としては、回収不能となった売掛金の減額や、長期にわたって在庫として残っている商品、あるいは赤字での販売が見込まれている商品の棚卸資産からの減額、保有している有価証券の市場価格への修正などが含まれる。

時価純資産額は計算が簡単であり、計算される企業価値の正確性が高いため、広く利用されている。一方、時価純資産額には将来の収益性や貸借対照表に含まれない資産価値などは反映されない。実際の事業売却ではこのような帳簿に現れない価値も考慮する必要がある。これらの目に見えない価値にあたるのが、2つ目の「営業権」である。

営業権とは、企業が持っているノウハウやブランド、立地条件や取引先との関係性など、他に変えることができない無形の価値のことだ。一般的には「のれん」と同じ意味で使われている。

営業権の計算方法はさまざまだが、中小企業では「営業権=過去3年間の営業利益の平均×3〜5年分」として算出することが多い。

ここまでをまとめると、事業売却のおおよその額は、時価純資産額と営業利益がわかれば比較的簡単に求められることがわかる。

たとえば、時価資産が3,000万円、時価負債が1,500万円、過去3年の営業利益の平均が2,000万円の事業の場合、営業権を営業利益の平均3年分とすると、事業売却額の相場は、

  (3,000万円 - 1,500万円) + (2,000万円 × 3年) = 7,500万円

と算出できる。

事業売却後の資産運用における基本方針

事業売却の理由やタイミングはさまざまだが、ここでは個人事業主や小規模な会社が事業売却を行う場合を想定して、その後の資産運用方法を紹介する。

実際、小規模な事業では、経営者が高齢になっても後継者が見当たらず(あるいは育たず)、事業の継続が困難なところも多い。このような事業の売却は、まとまった資金が手に入り、また同時に後継者問題も解決できる(売却先から選出される)ため、近年一般的になりつつある。

高齢になってから事業を売却した場合、まとまった資金が手に入ったとしても、積極的な運用はおすすめできない。長年事業の経営を行っているのであれば、一般の会社員よりはファイナンスの分野に詳しいかもしれないが、家計資産の運用という分野に限るとほぼ初心者であることが多いからだ。

投資で資産を増やそうとした場合、必ず伴うのがリスクである。年率10%のリターンを期待する場合、それと同程度資産が減ることも想定する必要がある。もし事業売却時の資産で老後の生活が成り立つ見込みがあるなら、あえて大きなリスクを取ることはないだろう。

ただし、まったく運用をせず、すべての資産を預貯金で管理すべきかというと、それもまた問題である。というのも、今後インフレが見込まれる場合、預貯金だけしか保有していないと、物価上昇に金利が追いつかず資産が目減りしてしまう恐れがあるからだ。

したがって、事業売却後の資産運用の方針としては、積極的な投資は必要ないが、インフレに対応できる程度の運用は行うことになる。いわば、資産を目減りさせないための「守りの運用」である。

事業売却後の資産運用で検討すべき金融商品

守りの運用といっても、投資である以上、リスクは伴う。リスクをできるだけ少なくするには、リスクの高い金融商品に手を出さないことはもちろんだが、分散投資をするのも有効な方法である。分散投資には、「資産・銘柄」の分散や「地域の分散」のほか、投資する時期をずらす「時間分散」という考え方がある。

時間分散はリスク軽減効果の高い分散方法であるが、ここで想定しているように高齢になってから資産運用を始める場合、20代30代に比べその効果が得にくい。したがって、以下では主に「資産・銘柄の分散」「地域の分散」の観点から、投資先として検討すべき金融商品を紹介する。

定期預貯金

普通預金や通常貯金の利息に不満がある場合、次の選択肢としてまず思い浮かぶのは定期預貯金だろう。銀行では「スーパー定期」が主流だが、他にも大口定期預金、期日指定定期預金、定額貯金などがある。

定期預貯金の特徴は、あらかじめ満期が決まっている点である。3カ月定期なら3カ月後が満期になり、5年定期なら5年後が満期だ。定期預貯金は原則的に固定金利であるため、預けた時の金利が満期まで続く。つまり、金利と期間が決まっているため、預けた時点で満期時に受け取る金額が確定することになる。

気をつけたいのが、満期前に解約すると利率が低くなることである。しかし、利率が低くなるといっても元本を割り込むことはなく、普通預金程度の金利は受け取れる。

普通預金や通常貯金に比べ、いつでもすぐに引き出せるわけではないが、その自由度と引き換えに多少なりとも高めの金利が得られる。そう考えると、定期預金で保有すべきなのは「数年後に使う予定があるお金」が最適だろう。たとえば1年後に予定しているリフォームにかかる費用などである。

国内債券

債券は定期預貯金と同様に、金利と満期が決まっている金融商品である。一般的に、債券で運用した方が預貯金よりも高いリターンが見込める。

そもそも債券とは、国や企業が資金集めのために発行するものである。国が発行するものを「国債」、地方自治体が発行する「地方債」、そして会社が発行するものは「社債」という。債券の安全度と金利は、その債券を発行する発行体によって決まる。

日本国内で、もっとも信用力が高い債券といえば、日本国債である。日本政府が元金の払い戻しと利払いを保証しているため、安全性が非常に高く、個人向け国債であれば1万円から購入できる。投資の経験がなくても預貯金の延長感覚で利用できるだろう。

個人向け国債には「変動金利型10年満期」「固定金利型5年満期」「固定金利型3年満期」の3種類がある。インフレ対策という目的から考えると、おすすめは変動金利型10年満期の国債だ。変動金利なので、世の中の金利が上昇すれば将来受け取れる利子が増えることもある。実際、2021年の適用利率は3種類とも0.05%(税引後0.0398425%)だったが、2022年の11月15日に発行された変動金利型10年満期の適用利率は0.17%(税引後0.1354645%)まで上昇している。

個人向け国債の次に検討する選択肢としては、地方債も候補に挙げていいだろう。地方自治体の中には個人でも参加が可能な「住民参加型市場公募地方債」を発行しているところがある。このような地方債の利率は、各自治体の信用力によって決まる。地方自治体の信用力が国を超えることはないので、地方債の利率は国債より高く設定されるのが一般的だ。

たとえば、2022年5月に発行された「ふくしま復興・創生県民債」は、5年満期で利率が0.10%、10月に発行された愛知県名古屋市の「なごやか市民債」は、同じく5年満期で利率は0.18%だった。同時期に発行された個人向け国債固定金利型5年満期の利回り0.05%と比べると、かなり高めに設定されていることがわかる。

ただ、これらの地方債は発行額が多くないため、満期前の売却が難しく、もし売却ができても元本割れする可能性がある。満期まで保有することを前提として購入した方がいいだろう。

住民参加型市場公募地方債を購入するには、は発行する自治体に住んでいるか、勤務先があることが条件になる。発行予定は「地方債協会」のホームページなどで確認できる。

さて、国内債券には他に国内企業の社債もあるが、「守りの運用」で検討する商品としてはおすすめしていない。企業の場合、満期までの間に経営を無事に続けている保証がないためだ。有名企業でも投資先として安全とは限らないのである。

社債に限らず、債券には発行体が破綻してしまうことで元本が受け取れなくなるリスクがある。預貯金であれば、万が一銀行が破綻しても、預金保険制度により元本1,000万円とその利息は保護される。しかし、債券の発行体が破綻した場合、そのような保証はないのだ。

また債券の中には、専門の組織によって「投機的」と格付けされている「ハイ・イールド債」や、内容が難しい「仕組債」など、事業売却後の運用には向かないハイリスクな商品もある。

外国債券

分散投資における「地域の分散」を取り入れるための最初の金融商品として、まずは「外国債券」を紹介する。外国債券は、外国の政府や企業が発行した債券である。

国内債券では、発行体の信用力が高い国債の利率は、信用力で劣る地方債の利率より低かった。この発行体の信用力と利率の関係は外国債券にも当てはまる。一般に「先進国=低金利、新興国=高金利」という傾向があるのだ。

ブラジルや南アフリカの債券は高金利が魅力だが、世界経済が不安定になると投資家が資金を引き上げるため、債券価格が大きく下落する恐れがある。したがって、事業売却後の資産運用先としての外国債券を検討するなら、米ドルやユーロ、豪ドル建の債券が適正といえるだろう。

外国債券への投資では、金利による利益と為替による利益の2つが期待できるが、軸として考えるのは金利による利益である。為替の動きを読むのは困難だが、長く金利を受け取れば、為替による損失がカバーできるかもしれないからだ。

外国債券は金利が高いのが特徴である。たとえば、年率3%の債券なら、10年間で受け取る利息は3%×10年分で30%となる。単純計算で資金が130%になっていれば、為替変動で損をしたとしても、トータルでプラスになる可能性は十分に考えられる。

つまり外国債券への投資には、長期の運用が可能な資金を充当するといい。長期になればなるほど金利を受け取れるし、満期の時に大きく円高になっていたら、外貨のままの運用を続けて円安を待つこともできるからだ。この場合は「外貨建てMMF」で運用を続けよう。

インデックス系の投資信託

最後に紹介するのは、投資信託だ。投資信託というのは、ファンドマネージャーという運用のプロが、大勢の投資家から集めたお金を1つにまとめ、株式や債券などに投資・運用する商品である。

投資信託は、目標とする指標と同じ値動きを目指す「インデックスファンド」と、より高いパフォーマンスを目指す「アクティブファンド」に大別される。このように比較するとアクティブファンドの方が良さそうだが、実際のところアクティブファンドは手数料が高めに設定されている上、プロが運用しても高いリターンが保証されているわけではない。

おすすめなのは、TOPIXや日経平均株価など普段から馴染みの深い指数に連動するインデックスファンドだ。海外の資産を取り入れるなら、海外の指数(S&P500など)に連動するものもあるし、世界経済全体の株動きを捉える投資信託なども販売されている。

インデックスファンドと同じような特性を持つ金融商品としてETFがある。ETFは投資信託の一種だが、市場で取引する投資信託(株式など)と同じように市場で売買できるため、「上場投資信託」と表示されている。

ETFも対象となる指数に連動する運用を目指すが、手数料は一般の投資信託(インデックスファンド)より安く設定されていることが多い。対象的に、インデックスファンドは手数料が割高だが、少額から(証券会社によっては100円から)購入できる点や、積立購入ができる点が優れている。

それぞれの特徴を考えると、一括して購入するならETF、時間分散のために投資期間を長く取って積立を行うならインデックスファンド、という使い分けがいいだろう。

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事業売却後の資産運用は、積極的な運用というよりインフレに対応するための「守りの運用」を基本方針としたい。老後資金に不安がある場合、運用方法をハイリスクにして高いリターンを目指すより、まずは売却時期などの検討から入る方がいいだろう。

今回は守りの運用におすすめな金融商品を紹介したが、投資の経験が浅い場合、専門家に相談することも選択肢の1つとして考えたい。世の中にはお金の専門家が多く、誰に相談すればいいのか迷うところだが、「ZUU Advisors」では、匿名でウェブフォームの質問に答えることで、複数のアドバイザーから提案を受けることができる。顧客は気に入ったアドバイザーそれぞれと面談を行うことで、自分が納得できるアドバイザーを選ぶことができるのだ。

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文・松岡紀史(ファイナンシャル・プランナー、ライツワードFP事務所