地域銀行(以下「地銀」という。)においては、アクティビストファンドとされる株主による株式保有や特別配当を内容とする株主提案等が行われており、経営陣に必ずしも友好的ではない株主への対応が重要となっている。そこで以下では、かかる株主への対応として、コーポレートガバナンス・コード等を踏まえた企業価値向上や株主等のステークホルダーとの建設的な対話を通じた良好の関係の維持の重要性や、買収防衛策や非上場化等の様々な可能性を検討する。

目次

  1. 近時の地銀業界における非友好的株主の動向等
    1. (1)株主提案の状況
    2. (2)敵対的買収と買収防衛策の動向
  2. 銀行法上の規制の内容とその影響
    1. (1)主要株主規制の概要
    2. (2)非友好的株主への影響
  3. 非友好的株主への対応策
    1. (1)基本的な考え方
    2. (2)株主還元の強化
    3. (3)買収防衛策の検討
    4. (4)非上場化

近時の地銀業界における非友好的株主の動向等

【連載】金融機関のM&Aの最新動向とポイント⑤ 地域銀行における非友好的株主への対応とあり得る敵対的買収への防御
(画像=SakosshuTaro/stock.adobe.com)

(1)株主提案の状況

2021年7月から2022年6月までの株主総会(臨時株主総会を含む)において株主提案が付議された上場会社は96社であり、前年の65社と比較してその数は約5割増加した。ファンドからの株主提案も増加しており、地銀に対する株主提案の事例もある。
例えば、英国ロンドンを本社とする投資ファンドのシルチェスター・インターナショナル・インベスターズ(同ファンドは自らはアクティビストではないと説明している)は、2022年6月の定時株主総会において、京都銀行を含む4行に対し、特別配当の実施を求める株主提案を行った。
村上ファンド系とされるシティインデックスイレブンスも、秋田銀行などの複数の地銀やSBI新生銀行の株式を保有しているとされており(*1)、その一部地銀には株主還元の強化を迫ったことがあるとされている(*2)。SBI新生銀行株式の保有は同行が検討している非公開化を期待してのものであるとの報道もされている(*3)。

※脚注
(*1)一井純「急騰する銀行株、忍び寄る「ファンドたち」の出方 村上系ファンド、シルチェスターに新たな動き」(2023年1月6日付東洋経済オンライン)。
(*2)山下耕太郎「アクティビストによる地銀への株主提案が増加、その背景とは」(2020年7月20日付アクティビストタイムズ)。
(*3)一井純「急騰する銀行株、忍び寄る「ファンドたち」の出方 村上系ファンド、シルチェスターに新たな動き」(2023年1月6日付東洋経済オンライン)。

(2)敵対的買収と買収防衛策の動向

銀行株式の取得については銀行法上の主要株主規制(後記2(1))等のハードルがあるものの、非友好的株主が、地銀の経営権取得を目的とした敵対的買収を検討する可能性は否定できない。上場会社一般に対する敵対的買収については、2021年には過去最多の9件、2022年も9月30日までの間に1件実施されたとの調査がある(*4)。
銀行業界においては、銀行を対象とする初めての敵対的TOBとして、SBI地銀ホールディングス(SBIホールディングスの100%子会社である。)による新生銀行に対するTOBが2021年9月10日から実施された。同年12月10日にSBI地銀ホールディングスによるTOBは成立し、TOB後のSBIホールディングスらの新生銀行株式の株券等所有割合は約48%となった。
公表資料による限り銀行業界において買収防衛策の導入事例はないと考えられるが、上場会社一般の買収防衛策の導入状況については、2022年7月末時点で266社がこれを導入しており、2021年7月末から2022年7月末までに買収防衛策を新規導入した会社数は直近10年間で最大となったとの調査がある(*5)。有事導入型買収防衛策のその発動が司法手続で争われた事例も蓄積されている。

※脚注
(*4)経済産業省産業組織課「公正な買収の在り方に関する研究会(第1回)資料4 事務局説明資料」(2022年11月18日)9頁。
(*5)茂木美樹ほか「敵対的買収防衛策の導入状況とその動向-二〇二二年六月総会を踏まえて―」商事法務2309号40頁。

銀行法上の規制の内容とその影響

(1)主要株主規制の概要

第三者が銀行株式の議決権の原則として20%以上を保有するには、中小・地域金融機関向けの総合的な監督指針III-4-14-2などを参考のうえ、銀行法所定の審査基準をクリアし、金融庁から事前認可を取得しておく必要がある(銀行法52条の9第1項、52条の10第1号)。申請内容が審査基準を満たしているかについては、買収資金、買収者の社会的信用、買収後に銀行業務を健全かつ適切に運営できるかどうかといった観点から、当局の合理的裁量による詳細な審査が想定される。一方で、これらの基準をみたす潜在的買収者は外資系を含め多数存在するとの指摘もある(*6)。
その他、5%を超える議決権の取得に係る銀行議決権保有届出書等の提出(銀行法52条の2の11第1項、52条の3第1項)や、50%を超える議決権を取得する場合であれば銀行持株会社の認可の取得が必要となる可能性があること(銀行法52条の17第1項1号)などにも留意しなければならない。

※脚注
(*6)矢崎有一「銀行の敵対的買収①地銀の敵対的買収防衛策~敵対的買収者のターゲットとして地銀は魅力的か~」銀行実務2005年11月号100頁。

(2)非友好的株主への影響

銀行業については、(1)で前述した銀行法上の主要株主規制が、敵対的買収を企図する者との関係で大きなハードルになるものと考えられる。そこで、主要株主規制に抵触しない20%未満の議決権を保有し、株主として特別配当や経営改善等を経営陣に提案したり、状況によっては、株主から経営陣への提案が公表されたうえで(パブリック・ベアハグ)、委任状争奪戦へと発展したりする可能性もある(*7)。
また、SBIホールディングスらは事前に金融庁の認可を取得のうえ敵対的TOBを実際に行ったのであるから、非友好的株主が主要株主規制上の認可を取得したうえで20%以上の株式取得を検討する可能性は、今後もあり得るものと考えられる。

※脚注
(*7)矢崎有一「銀行の敵対的買収②地銀の敵対的買収パターン~バイヤーはどのように攻撃を仕掛けてくるか~」銀行実務第2005年12月号102頁。

非友好的株主への対応策

(1)基本的な考え方

一般に、敵対的買収への対応策としては、平時の段階から、収益向上や配当政策などを通じた株主価値の向上、コーポレートガバナンスの強化及び株主を含む各ステークホルダーとの建設的な対話を通じた良好な関係の維持等を意識して、経営を行っていくことがまず何よりも重要となる。
そのうえで、アクティビストファンド等への対応に際しては、株主の属性ごとの株式保有状況、投資家目線を意識した株主還元の水準等の多岐にわたる項目について、あらかじめ自己分析をしておく必要がある(*8)。

※脚注
(*8)松下憲「アクティビスト株主対応の最新のスタンダード[下]―変化する株主アクティビズムの動向を踏まえて―」商事法務2275号74~75頁。

(2)株主還元の強化

多くの地銀は「投資家との建設的な対話」をコンセプトとする東京証券取引所のプライム市場に上場しており、近年では「安定的配当の継続」から「業績連動型の株主還元」に株主還元方針を変更するなどして、業績連動型の株主還元方針を採用する地銀が増加している(総還元性向や配当性向の目安として30%から50%を掲げる例が多い)(*9)。
地銀等においては、持続可能なビジネスモデルを確保するため、DXの取り込みなどIT分野への戦略的投資が不可欠となっているが(*10)、上記のような傾向や、資本効率等を意識した経営を求めるコーポレートガバナンス・コード(同原則5-2等)なども踏まえ、株主還元方針についても再検討する必要があると考えられる。

※脚注
(*9)大和総研「業績連動の株主還元方針が広がる地銀業界 過去1年間で16社が導入。上場地銀の4割強が業績連動型を志向」(2022年5月17日)。
(*10)金融庁「2022事務年度金融行政方針 コラム」(2022年8月31日)10頁。

(3)買収防衛策の検討

現在、日本の上場会社の多くが導入しているのは平時導入型買収防衛策(差別的行使条件・取得条項付き新株予約権無償割当)と呼ばれるものである。買収防衛策の導入は会社法上の株主総会決議事項ではないが、経済産業省と法務省が公表する「企業価値・株主共同の利益の確保又は向上のため為の買収防衛策に関する指針」(2005年5月27日)を踏まえて株主総会普通決議により導入の承認を得ることが一般的であり(*11)(なお、このほか、企業価値研究会が公表する「近時の諸環境の変化を踏まえた買収防衛策の在り方」(2008年6月30日)も参考にすべきである)、少なくとも買収者(大規模買付者)が買収防衛策に定める手続に違反した場合には、改めて株主意思を確認することなく発動できる点が平時導入型のメリットであるとされている(*12)。しかしながら、平時の買収防衛策の導入については経営陣の保身につながるのではないか等の機関投資家の懸念もあり、株主との対話が重要となる。
上記のような買収防衛策の導入前に具体的な大規模買付行為がなされるに至った場合等には、有事導入型の買収防衛策を検討することになる。
なお、敵対的買収やその防衛策の在り方等については、経済産業省に設置された公正な買収の在り方に関する研究会において議論されている。

※脚注
(*11)森本大介=小林咲花「買収防衛策の導入・更新時の実務ポイント」旬刊経理情報1571号15頁。
(*12)磯野真宇「近時の裁判例や運用事例を踏まえた買収防衛策見直しのポイント」資料版商事法務455号44頁。

(4)非上場化

これまで述べてきたような非友好的株主に対応するための様々なコスト等を踏まえれば非上場化も選択肢となり得るものと考えられる。2020年12月22日公表の金融審議会銀行制度等ワーキング・グループ報告(以下「WG報告」という。)においても、非上場化は地域密着型の持続可能なビジネスモデルの構築に資するとの指摘がされている。
もっとも、非上場化に際しては、ガバナンス(情報開示、機関設計)や株式流動性が低下するとの指摘もあり、WG報告はこれらに対する配意が求めている。非上場化については同業他社による買収やMBOなど様々なシチュエーションがあり得るが、銀行法上の規制や上記WG報告を踏まえた慎重な検討が求められるものと考えられる。


[寄稿]大澤 貴史 氏
牛島総合法律事務所 パートナー弁護士
2011年12月弁護士登録、2017年5月米国カリフォルニア州立大学ロサンゼルス校修了(LL.M.)、2017年から2019年まで金融庁(マネロン・テロ資金供与対策企画室、法令遵守等モニタリングチーム等)での勤務を経て、2020年1月より牛島総合法律事務所にて実務再開。金融規制や金融当局への対応が問題となるM&A、支配権争奪、不祥事対応等を取り扱う。
[寄稿]冨永 千紘 氏
牛島総合法律事務所 弁護士
2014年中央大学法科大学院修了。2015年12月弁護士登録。主として、コーポレート・ガバナンス等のコーポレート全般、M&Aを含む企業間取引や経営支配権をめぐる紛争、不祥事対応を中心に取り扱う。