AIによって人の仕事は奪われる?なくなる仕事となくならない仕事
(画像=ihorvsn/stock.adobe.com)

身近な製品・サービスで活用され始めているAI。しかし、雇用の観点から、「AIが人間の仕事を奪うのではないか?」という懸念が広まりつつあります。とくに文章生成AIであるChatGPTは近年の一大トピックであり、人類が想定したスピードより遥かに早い進化を遂げているのはご存じの通りです。

AIの進歩により、さまざまな業界や職種で仕事が変革される可能性があり、一部の仕事はAIによって置き換えられるかもしれません。

この記事では、AIによって影響を受ける可能性のある仕事や業界を探りながら、その影響の範囲や具体的な例を紹介します。どういった仕事がAIに代替される可能性があるのか、今後AIが普及することで労働環境がどのように変化していくのか、AIによる仕事の変革に対応するための対策や転職の視点などを解説していきます。

目次

  1. 近い将来、約半数の仕事はAIやロボットなどに代替されるかもしれない
  2. AIに代替される可能性の高い仕事
  3. AIに代替される可能性の低い仕事
  4. AIの生み出す新しい仕事
  5. 人とAIの共存。生産性を追求する仕事をAIが担い、創造性を追求する仕事を人間が担う
  6. まとめ:AIとの“共生”でビジネスチャンスを掴み取れる

近い将来、約半数の仕事はAIやロボットなどに代替されるかもしれない

2019年時点において、すでに「データ分析」「ヘルプデスク対応」といった仕事がAIによって代替され始めていました。野村総合研究所社が英オックスフォード大学のマイケル A. オズボーン准教授、カール・ベネディクト・フレイ博士と行った共同研究では、今後はより多くの仕事がAIによって代替される可能性があることが示唆されています。

同研究では国内601種類の職業について、それぞれAIやロボットなどで代替される確率を試算。その結果、2025〜2035年ごろには日本の労働人口の約49%(※1)が就いている職業がAIやロボットなどで代替可能になるという推計結果が得られたとしています。

一方で、同研究に関するニュースリリース(※2)にも記載されている通り、この値はあくまでもAIやロボットなどによる技術的な代替可能性であり、社会環境要因は考慮されていません。そのため、実際には労働需給の変化や実用化に向けた研究の進捗度合、AIによる自動化に対する人々の受容状況といった社会環境要因によってその値が変動する可能性があります。

※1:従事する1人の業務すべてを高い確率(66%以上)でコンピューターが代わりに遂行できる(技術的にAIやロボットなどで代替できる)職種に就業している人数を推計し、それが就業者数全体に占める割合を算出。 (参考資料)総務省:人工知能(AI)の進化が雇用等に与える影響(PDF)
※2:野村総合研究所が公表した同研究に関するニュースリリース

AIに代替される可能性の高い仕事

AIによってなくなる可能性がある仕事は、具体的にはどんなものなのでしょうか。ここではAIに代替される可能性が高い仕事や職種を見ていきます。

先行研究による「AIに代替される可能性が高い職業」

前述した共同研究に先んじて、2013年にマイケル・オズボーン准教授は「雇用の未来(The Future of Employment)」という論文を発表し、「AIに代替される可能性の高い職業と、そうでない職業」について言及しています。具体的には、米国国内の702種類の仕事について「将来AIに代替される可能性」を算出しました。そして、ランキング上位に位置する(=AIに代替される可能性が高い)仕事として次のようなものを挙げています。

1 テレマーケター(コールセンター)
2 不動産の調査員
3 裁縫師
4 数学者
5 保険事務員
6 時計修理工
7 貨物運送者
8 税務申告書類作成者
9 写真処理技術者
10 口座開設担当者

このように、比較的マニュアル化が容易であり、特殊な知識やノウハウが不要な仕事ほど上位にランクされています。

ただし、8位に当てはまる税理士のほか、公認会計士や司法書士のように一見すると特殊な知識やノウハウが必要な仕事であっても、数値化可能で体系的な処理が求められる業務の場合には「AIに代替される可能性が高い」としています。

日本の場合は?日本企業へのアンケート結果から見る「AIによってなくなる仕事」

(出典)独立行政法人経済産業研究所「AIが日本の雇用に与える影響の将来予測と政策提言」岩本 晃一(経済産業研究所)P17
(画像=(出典)独立行政法人経済産業研究所「AIが日本の雇用に与える影響の将来予測と政策提言」岩本 晃一(経済産業研究所)P17)

内閣府は2018年に経済財政白書執筆に先立ち、日本企業に対してアンケート調査を行っています。「AI・IoTの導入が進展した場合増える(減る)見込みの仕事」という問いに、「増える見込みの仕事」と回答された中で最も多かったのは「技術系専門職」。現在すでにITスキルをもつ人材が奪い合いになっていることを鑑みると、おおむね予測どおりといえるかもしれません。

一方、「減る見込みの仕事」で最も多かった仕事は「一般事務・受付・秘書」であり、次いで「総務・人事・経理等」となっています。こちらも多くの識者などが数年前から指摘しており、最も早く代替が進むと推測されます。現在、受付業務などの一部で、すでにAI(チャットボットや自動音声受付など)が代替している企業も多くなっているようです。

興味深いのは、その次に「AIに代替が進む」と考えられていたのが「製造・生産工程・管理」であることです。製造現場の熟練作業員のスキルは経験に裏打ちされた、ある意味日本の「ものづくり」の根幹ともいえますが、AIなどの台頭によって今後は人がそれを担う機会が減少すると考える企業が多いことは、製造業に従事する人々にとっては大きな転換点といえるかもしれません。

逆に言えば、これらの職種を多く雇用している企業経営者にとっては、AIへの代替を一定数進めることで、コスト削減などのメリットが得られる可能性もあります。

AIに代替される可能性の低い仕事

AIに代替され、将来的に消えていくかもしれない業務がある一方、次のような特徴のある仕事はAIに代替される可能性が低いと考えられています。

特徴1:創造的思考
特徴2:ソーシャル・インテリジェンス
特徴3:非定型

特徴1:創造的思考

抽象的な概念を整理・創出したり、文脈を理解して自らの目的意識に沿って方向性や解を導き出したりする仕事を指します。
(例)芸術家、歴史学者、宗教学者など

特徴2:ソーシャル・インテリジェンス

理解・説得・交渉といった高度なコミュニケーションによって、自分と異なる他者と協力しながら何かをする仕事です。
(例)裁判官、弁護士、教職員など

特徴3:非定型

役割が体系化されていない環境で、マニュアルに頼らずに自ら状況に応じた判断を行わなければならない仕事です。
(例)医師、航空機操縦士など

この3つの特徴を満たしていることから、前述の論文では最もAIに代替される可能性が低い仕事として「レクリエーショナル・セラピスト」を挙げています。「レクリエーショナル・セラピスト」は、アートやスポーツなどを駆使して患者のストレスを軽減していく仕事です。

この職種分類のほか、人間の生命や暮らしを守るのに欠かせない職種(エッセンシャルワーカー)は代替が進みにくいと考えられています。独立行政法人労働政策研究・研修機構の労働政策研究所長である濱口桂一郎氏は、エッセンシャルワーカーの仕事はAIやロボティクスなどによって代替されにくいと指摘しています。

AIの生み出す新しい仕事

AIの進歩が急速に進んでも、AIによって人間の仕事が完全に奪われる未来はないと前章まででおわかりいただけたのではないでしょうか。

AIはあくまで人の補助的な役割を果たす技術であり、人間の独自の能力や創造性には及ばないと考えられています。AIは特定のタスクや作業においては高い効率や精度を発揮しますが、それ以外の領域、例えば創造性、倫理的な判断、社会的な対応などは人間にしかできない重要な要素です。

さらに、AIを導入することで新たな仕事やニーズも生まれる可能性は十分にあり得ます。例えばAIの設計や開発、保守・管理、倫理的な指針の策定など、「AIを活用する」ための役割です。

大切なのは、AIを人間のパートナーとして活用し、人間の特徴や強みを最大限に生かすことです。前述したように、人にしかできない仕事、人であるからこそ生み出せる価値があります。AIでは代替できないことをAIと人間のコラボレーションによって、より効果的で意義のある仕事として進化させることが期待されます。

例えば将棋棋士の藤井聡太氏は、AIを活用し、これまで誰も考えつかなかった一手を生み出しています。また毎年高い勝率を維持し、タイトルを奪取・防衛し続けているのです。数年前の将棋界では「AIと人間の棋士は敵同士である」「AIの発展で将棋自体がなくなるかもしれない」と言われていましたが、藤井氏は「AIは棋士がよりレベルの高い棋譜を生み出すためのパートナーである」という見解を話し、AIを活用することで将棋の価値を高めています。

将来的に、AIによって一部の仕事は変化するかもしれません。あるいはほとんどAIが担うことになる職種もあるかもしれません。しかしそれは人間が持つ能力を活かすための新たな可能性を切り開くものと捉えられます。人はAIの進化に合わせて自身のスキルや知識をアップデートしていくことが重要です。

人とAIの共存。生産性を追求する仕事をAIが担い、創造性を追求する仕事を人間が担う

ここまでの内容を踏まえると、近い将来訪れるであろうAIと人間が共生する労働環境のイメージが見えてきます。

前述した通り、AIは「マニュアル化が容易で特殊な知識やノウハウが不要な仕事」を代替することを、最も得意としています。冒頭で取り上げた「データ入力」「ヘルプデスク対応」をはじめとするいわゆるルーティンワークはその代表的な仕事と言えます。このような仕事を担って生産性を追求することがAIの大きな役割になるでしょう。

一方で、「創造的思考」「ソーシャル・インテリジェンス」「非定型」といった特徴のある仕事はAIで代替される可能性が低いと述べました。新たなビジネスを考えたり、目標達成に向けた経営戦略を考えたりといった仕事はその代表例と言えます。言い換えれば、このような創造性を求められる仕事については、AI導入後の労働環境においても人間が担う必要があるということです。

「生産性が求められる仕事をAIが担い、創造性が求められる仕事を人間が担う」。近い将来、このような形でAIと人間が共生することで生産性向上と創造性向上を両立することが当たり前の労働環境となっていくでしょう。そして、これは今日の労働環境を踏まえると大きな変化であると言えます。なぜなら、今日の労働環境において生産性と創造性はトレードオフの関係にあると言えるからです。

生産性向上を目指す場合には、文化的な背景やスキル、価値観などが均質な人材で組織を組成してコミュニケーションコストを下げる必要があります。しかしながら、その結果人材の多様性がなくなり創造性が失われてしまいます。逆に、創造性向上を目指す場合には、文化的な背景やスキル、価値観などが異なる多様な人材で組織を組成する必要があります。ただし、人材間でのコミュニケーションコストが上昇すると生産性は低下してしまいます。

一方で、前述したように生産性を求められる仕事をAIが担い、創造性を求められる仕事を人間が担えば、これまでトレードオフの関係にあった生産性と創造性をいずれも向上させることができる可能性が生まれるのです。

まとめ:AIとの“共生”でビジネスチャンスを掴み取れる

この記事では、AIによってなくなる仕事とその根拠、今後おもにAIが担うであろう仕事のかわりに人間が行うべき領域や可能性について解説しました。

最後にご紹介したように、AIと人間が共生することによって生産性向上と創造性向上を両立できる可能性があります。一方で、AIは今なお発展途上の技術であり、ノウハウや人材も限られています。AIを活用し、かつ雇用促進しつつ、人材を適材適所で使える新しい時代の企業を目指すには、長期的なビジョンをもつとともにAI導入のプロセスを早い段階から構築しておかなければならないでしょう。