本記事は、鈴木健二郎氏の著書『「見えない資産」が利益を生む』(ポプラ社)の中から一部を抜粋・編集しています。
アップルが実践する5つの行動
知財ミックスの実践行動を実行する際のお手本はすでにあります。これまでに何度も触れてきているアップルがその代表です。アップルは、すでに私たちの生活に馴染みがあることに加え、世界中のファンを魅了していますので、彼らの実践行動を見ていると、知財ミックスの方法論もイメージしやすくなるはずです。
実践行動(1) ~「未来の社会・顧客の課題・ニーズ」を設定する~
iPhoneをはじめとしたアップルの製品・サービスに五感のすべてをゆだね、日常を快適に過ごすことができるという唯一無二の世界観でファンを魅了し続けることが顧客価値になっています。また、アップルの製品・サービスには、日本企業の製品にあるような分厚い説明書などは付属しません。説明を読むよりも、なんとなく操作していくうちに、使いこなせてしまうような工夫が随所に盛り込まれているためです。iPhoneの場合も、スクロールしたり、拡大したり、フリックで文字を入力したりなど、触っていくうちに操作を身体が覚えていきます。それを繰り返していくと、アプリやブラウザの基本操作もすぐマスターできますし、頭で考えなくても自然と使いこなせるようになります。こんなところにも、日常をアップル製品で囲まれて過ごすことの心地よさを徹底して提供する精神が表れています。
実践行動(2) ~「収益」を生み出す仕組みをデザインする~
iPhone、iPadなどの主力製品に加えて、Apple Watch、Apple Vision Proなどのウェアラブル、AppleTV、HomePodを中心としたデバイスを展開するハードウェア事業部門を主軸に、収益化を支えるためのインターネット及びサービス事業部門、小売及び店舗事業部門などが互いに連携し合いながら、継続的に稼ぐ仕組みを強固につくりあげています。
実践行動(3) ~内外の技術やアイデアを資産として見える化する~
ユーザ視点で考えてみると、まず目を引くのは美しいデザインです。各種デバイスからアイコンのインターフェースまで、誰からも美しいと思われるような洗練されたデザインを採用しています。他社の製品よりも圧倒的に美しいため、ファンとの関係性も長く強固になるのです。もちろん、見た目の良さだけでなく、直感的に使えるという特徴もあります。会社のセキュリティ方針にも即対応できる仕組みによって、法人顧客も大量に抱えているはずです。テクノロジーという観点からも、アプリ間の連動やその進化など、ユーザのことを考えて改良を加えながら、ファンの心をつかんではなさない商品・サービスを生み出しています。メディアの多くがアップルの意匠や商標登録の知財情報を調査し、未発表の将来製品の名称や機能、発売時期等について考察し、報道していることからも、アップルの知財が商品・サービスの鍵を握っていることが分かるでしょう。
実践行動(4) ~パートナーとの積極的な共創により、知財のパワーを増強する~
Apple Systemという知財を核としたプラットフォームを形成し、そこにOEM企業、サプライヤー、ライセンス取引先の企業、共同開発企業、異業種のパートナー企業を接続させ、知財を共有し合う徹底したオープンイノベーションを実践しています。
実践行動(5) ~リスクを適切に評価し、対応策を周到に打つ~
真似されないために各国で特許を取得し、意匠や商標なども権利を獲得しておき、他社が真似をした場合は裁判で勝てる体制を整え、事業競争力の保護も実現できています。保有している商標権のうちDesign Onlyに属する商標は25%を占め、全体と比較して6.5倍、日系企業と比較しても約3倍の高い割合となっています。アップルはUtility Patent、Design Patent、Trade Dress、Trademarkを含む約30件の知財侵害でサムスンを起訴し、米国カリフォルニア州北部地区連邦地方裁判所は約10.5億米ドルの損害賠償をサムスンに命じました。
このようにアップルは、5つの実践行動で攻めと守りをしっかりと固めているために、揺らぐことのない地位を世界市場で築くことに成功しているのです。