本記事は、鈴木健二郎氏の著書『「見えない資産」が利益を生む』(ポプラ社)の中から一部を抜粋・編集しています。

戦略
(画像=slonme / stock.adobe.com)

知財を武器にした成長戦略の立案へ

ビジネスという観点からは、アイデアを特許化して活用することにより、大きな成長を実現できることもあります。これを「アイデア特許」と言います。

そこに、知財ならではの可能性と、成長のためのポテンシャルがあるとも言えるでしょう。重要なのは、知財ミックスをマネジメントしていくことです。

すでに、アイデアをはじめとする知財をプロデュースする会社や専門家も活躍しています。中には、知財に関するアイデアを自ら出し、特許を出願するサポートをしている人もおり、それによって企業の知財活用が動き出すこともあります。

もちろん、前提となるのは知財活用の背景にあるビジョンであり、社会にどのような価値をどうやって提供していくのかを支える軸です。そこからバックキャスティングによって逆算するかたちでビジネスモデルを考案し、そのために必要な知財を取得していくことが基本となります。

その際には、商品化などを経てから特許を取得するのではなく、アイデアの段階でスピーディに特許を取得し、先を見越した動き出しをすることが求められます。日本においても、年間数十万件単位で特許が出願されているため、競争に負けないよう早期に動くことが大切です。

とくに技術やアイデア、データなどは、無形であるだけに物理的な制約を受けることなく活用できます。実際にモノを生産するよりも柔軟性があり、かつスピーディという強みがあるのです。

いわゆる製造業の企業が、従来のビジネスモデルで新商品を開発するとなると、何度も試行錯誤しながら開発に励まなければなりません。その間、人件費や材料費がかかるのはもちろん、在庫も持たなければなりませんし、場所の制約もあるでしょう。

一方、知財は物理的な制約のない資産です。それだけに柔軟に活用できます。現代であれば世界中の情報を収集し、アイデアへと昇華させることも可能です。また、それを国内外で活用してビジネスにつなげることもできるでしょう。

海外の企業は、世界中で情報を交換し、データを送り合いながらアイデアを研ぎ澄ませています。そこから、成長に欠かせないいくつもの知財が生まれることもあるのです。必ずしもモノを送る必要がないため、輸送費や関税を気にすることなく、事業の種を育てていけるのです。

物理的な制約がないからこそ、どんどんアイデアを出し、広げていくことが大事です。工夫次第では青天井にビジネスを拡大できます。まだ、こうした発想で知財を捉えている人は少ないと思います。しかしこれが、世界との差となっているのです。

その一方で、アイデアは物理的に腐ることはありませんが、時代とともに陳腐化するリスクがあります。だからこそ、スピーディに活用して、事業化に向けて常に動かしていくことが重要です。その間に、参入障壁を築いておくために積極的に出願・権利化し、特許を取得していくことが得策である場合もあります。ただし、特許は持っているだけでお金がかかりますし、先述の通り特許の仕組みは時間が掛かりますので、権利化しておくことのメリットとデメリットは常に冷静に見極めながら制度を利用することをお勧めします。

データのような知財も取り扱いに注意が必要であるため、流出等を未然に防ぐためにも、専門的な知識を入れながら迅速に取り組んでいくことが大切です。

そうした発想で知財ミックスを実践している日本企業も存在しています。例えば、AI・IoT・Robotサービスを提供しているオプティムは、事業戦略の中に知財を含めながら、同社のコンセプトを支える知財の出願や権利化を積極的に行っています。そのようにして知財ポートフォリオを構築し、急成長を実現しており、各業界とITを融合させながら、さらなる規模の拡大を目指しています。

2022年1月に内閣府より発表された「知財・無形資産ガバナンスガイドライン」では、企業が強みとなる知財を活⽤して競争⼒の維持・強化を図り、⻑期的な企業価値を創造するサステナブルなビジネスモデルを構築するための指針が示されています。

企業経営者には、投資家との間の相互理解と対話・エンゲージメントを促進し、新たな知財の獲得に向けた投資について、資本市場からの理解やサポートが得られ、⾦融市場からの資⾦調達⼒が強化されることで、更なる知財への積極的な投資につなげるといった好循環を促すことが求められています。

『「見えない資産」が利益を生む』より引用
(画像=『「見えない資産」が利益を生む』より引用)
=『「見えない資産」が利益を生む』より引用
鈴木健二郎
株式会社テックコンシリエ代表取締役、知財ビジネスプロデューサー。東京大学大学院情報理工学系研究科博士課程修了後、株式会社三菱総合研究所、デロイトトーマツコンサルティング合同会社を経て、2020年に株式会社テックコンシリエを設立し現職に至る。三菱総研在職中に、株式会社三菱東京UFJ銀行(現・三菱UFJ銀行)に2年間出向。知財の価値を裏付資産とする投融資やM&Aなどの金融スキームの開発に従事し、知財が「宝の持ち腐れ」になっている多数の企業の経営再建に成功する。以降、企業が保有する技術力やアイデア、ノウハウ、ブランド、デザイン、アルゴリズムなどを掘り起こし、新規事業や研究開発に活かすための戦略立案・実行を支援するビジネスプロデューサーとして国内外で成果を上げてきた。内閣府や経済産業省をはじめとする政府の知財政策の検討でも多数の実績を持ち、業界団体主催のカンファレンス、金融機関や事業会社内での役員・管理職向けセミナーでの講演、各種ジャーナルでの寄稿・執筆実績多数。

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