数あるビジネス書や経済小説の中から、M&A Onlineがおすすめの1冊をピックアップ。M&Aに関するものはもちろん、日々の仕事術や経済ニュースを読み解く知識として役立つ本を紹介する。

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「図解 アパレルゲームチェンジャー 流通業界の常識を変革する10のビジネスモデル」 齊藤孝浩著、日本経済新聞出版刊

ゲームチェンジャーとは従来は当たり前とされてきた競争ルールを覆し、市場に大変革をもたらす企業やその製品・サービスを指す。単なる勝ち組にとどまらない。ひとたびゲームチェンジャーが出現すれば、業界の生態系を一変させるインパクトを持つ。

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(画像=「M&A Online」より引用)

スマートフォンの登場と普及や、3年に及んだコロナ禍による外出制限や非接触化の流れは消費者の購買行動の変化を加速させ、デジタルシフトが大きなうねりとなった。本書は流通業界にスポットをあて、アパレル・小売りを中心とする9社・10のビジネスモデルを取り上げ、勝ちパターンを解き明かした。

登場するのはZARA、SHEIN(シーイン)、COSTCO(コストコ)、LVMH(モエヘネシー・ルイヴィトン)、DoorDash(ドアダッシュ)、そして日本勢としてZOZO、ワークマン、丸井グループ、メルカリ。

いずれも流通業界の常識にとらわれない独自のビジネスモデルを磨き、逆風でも高い利益率をたたき出すゲームチェンジャーにふさわしい面々だ。

アパレル製造小売業(SPA)で世界トップに君臨するスペイン発祥のZARA。過剰在庫のもととなる一括見込み生産を行わず、必要な分だけをつくり、動き出した需要を見てつくり足す。これにより、過剰在庫による値下がりリスクと売れ残りリスクを防ぎ、高収益を実現している。そのベースには「トヨタ生産方式」あるという。

一方、産店舗を持たない産直越境EC(電子商取引)型のウルトラファストファッション企業として急成長しているのが中国発のSHEIN。顧客の反応を確かめてうえで、即時生産し、中間業者を介在せず届けることで、リードタイムを劇的に短縮し、在庫リスクも軽減した。

年会費による会員制を売り物にする米国発のCOSTOCO。ウォルマート、アマゾンに続く世界第3位の小売業に成長し、その倉庫型店舗は日本でもおなじみになりつつある。フランスのLVMHはルイヴィトン、クリスチャン・ディオール、ブルガリ、ティファニー、ヘネシーなどの名だたる高級ブランドを傘下に持つ。飽くことなく有力ブランドを次々に買収するその戦略とは。

ワーキングウエア(作業服)のワークマンは傘下にホームセンター首位のカインズなどを持つベイシアグループで唯一の上場企業。丸井グループは小売業の姿をした金融企業と形容される。メルカリは循環型金融経済圏の拡大を先導し、ZOZOは国内最大のアパレルECに躍進した。DoorDashはラストワンマイル物流を即配ギグワーカー(個人事業主)でつなぐマッチングサービスを展開するのは米国のベンチャー企業。

流通業界がさまざま課題に直面する中にあって、勝ち抜ける企業と苦戦する企業の違いはどこにあるのか。そのヒントはもちろん、同業他社との比較や創業のエピソードなどがふんだんに盛り込まれ、読み物にもうってつけの一冊といえる。(2023年5月発売)

文:M&A Online