ダイナム社の保坂氏が、創業からの変遷、全国展開の戦略、業界内での革新的な取り組みについて語る。本記事は、他社とは異なる低コスト経営とチェーンストア展開によって成功を収めた経緯や、地域との連携強化を通じて社会的な信頼を築いてきた姿勢について深掘りしていく。(執筆・構成=川村 真史)
保坂 明(ほさか あきら)―― 株式会社ダイナム 代表取締役 1972年生まれ。立教大学社会学部卒業後、1995年4月に株式会社ダイナムに入社。ストアマネジャー、エリアマネジャー、シニアリーダー、部長を経て2017年6月に取締役に就任。その後、2020年6月に代表取締役社長兼株式会社ダイナムジャパンホールディングスの取締役に就任。2023年6月には同ホールディングスの取締役会議長および代表執行役に就任し、現在に至る。
これまでの事業変遷について
―まず、事業の変遷に関して、創業から現在に至るまでの経緯について教えていただけますか?
弊社は今年で57年目の会社で、ホールディングスとしては複数の事業を手掛けていますが、ダイナムとしてパチンコ事業自体は創業来57年間行い、現在は全国に約400店舗を展開しています。 大きな節目としては、パチンコの出店規制が全国で統一され、チェーンストア展開が可能になった1985年でした。1993年にはチェ-ンストア研究機関である「ペガサスクラブ」に加盟し、チェーンストア経営のノウハウを学びました。その後、1994年には木造建ての第一号店を出店し、年間で多い時には40〜50店舗を出店していき、次第に100店舗、200店舗と全国規模での展開を行いました。
―全国展開を達成するための戦略があれば教えていただけますでしょうか。
「ペガサスクラブ」で学んだチェーンストア経営のノウハウを生かし、標準店の形を固めたことが全国展開に大きく寄与しています。 また、徹底した出店費用の削減にも取り組んできました。具体的には、パチンコ店特有の華美な装飾等を減らすことで通常一店舗あたり15〜20億円程度かかる出店費用を半分ほどにすることに成功しました。それに加えて、ランニングコストも抑えてきたことが他店舗展開に大きく繋がっていますし、過度な投資を控えることで他社が真似できない仕組みを作ってきました。 また、お客様の負担軽減を考え、通常よりも低価格の貸玉料金を設定しているため、その分、コストを抑えた経営をする必要もありました。具体的には、通常4円貸玉、20円スロットがパチンコ業界では主流ですが、弊社では全体の約6割が1円貸玉、10円スロットなどの低貸玉専門店で展開しています。全体の店舗数だけでなく、低貸玉専門店の数も弊社が業界最多となっております。
―御社がパチンコ業界の中でも先進的な取り組みをされてきたのですね。
はい、先ほど述べたパチンコにおけるチェーンストア経営のノウハウは、業界全体にも共有しています。また、弊社は香港証券取引所に上場しているので、上場前後のノウハウも共有しています。企業理念の2番目に「情報開示」を掲げていることもあり、弊社が持つノウハウは業界全体に惜しみなく共有することでパチンコ業界の社会的な地位向上に繋がればと考えています。
ダイナムの強みとは
―次に、御社の事業としての強みを教えていただけますでしょうか。
他社が行わないことを先んじてやる挑戦力と低コスト体質の経営、徹底した人材投資です。パチンコの低貸玉営業は、通常の営業と比べて収入が半分以下となるため設備投資や人件費など初期投資が大きい高コスト体質な他社には真似できない領域です。現場からの声を拾い上げ、弊社はあえてその領域に挑戦することで、低貸玉事業で代表的な地位を得ることができました。
店舗出店に関しては、徹底的に初期投資を抑える工夫を行っています。建設物自体も鉄骨ではなく木造で、華美な装飾も抑えています。また、多い時で年間40店舗ほど出店していましたが、建築資材をまとめて確保することで、コストを下げる工夫もしていました。 これらのコスト削減は、1店舗ずつコンセプトを決めて出店している他社とは異なり、店舗仕様の標準化によって実現しています。また、店舗自体だけでなく、オペレーションも標準化することで、人件費も大きく削減しています。昔は、パチンコ玉の上げ下げで人件費が大きくかかっていましたが、パチンコ玉を各台で循環させ、そして計数するシステムを早い段階で導入することで、人件費をそれまでの3分の2程度まで削減しました。
さらに、当社では人材への投資にも力を入れています。1989年から新卒採用を開始し、当初の新入社員は数名でしたが、1995年頃には90名程度まで採用数が増えました。その後も採用数は増加し、年間500~600名規模まで拡大しました。その結果、現在の正社員の約90%は新卒入社社員です。また、社員教育にもかなり力を入れており、ベースの考え方となるビジョンや理念の浸透を徹底し、例えどの店舗で勤務することになっても即戦力として活躍できる人材へと育成しています。 低コスト体質においても、人材教育においても共通して言えることは、会社の方向性を定めた際に、そこに向かって意思統一し、一致団結して動いていく部分が弊社の強みになっていると思います。
地域での取り組みについて
―ありがとうございます。続いて、地域での取り組みなどをお伺い出来ますでしょうか。
弊社は、全国各地域で「パチンコが地域の人々にとってなくてはならない存在になる」ことを目指しています。誰もがパチンコを身近な存在として楽しみ、ちょっとした息抜きになるような場所を目指しています。そのためにまずは、地域と共存して「あっても良いよね」と認めてもらえるような存在になる必要があると強く感じています。
パチンコ業界というと、直近のコロナウイルス蔓延や、東日本大震災で数多くのバッシングを受けるなど、何かと叩かれやすい業界というイメージが広がっていると思います。 ただ実際に、東日本大地震の際には、「パチンコ店が街の灯りをともしてくれた」「パチンコがあって本当に良かった」と被災者の方々から多くの感謝の声をいただきました。 三密の回避が大きく謳われていたコロナ禍においても、パチンコ店ほど換気がしっかりしているところはなく、実際に感染するリスクは限りなく低かったと思います。
しかし、先ほど述べたようなパチンコには何かと悪いイメージが先行してしまうため、そのイメージを覆すためには相当な努力が必要であり、長年の業界の課題だと認識しています。 そのため、当社では地域の方々との関係構築をとても大切にしています。具体例として、東日本大地震の際は、発生直後からボランティア支援に乗り出し、10年間にわたり総額10億円規模の義援金をお送りさせていただきました。また、寄付以外にも全国に約30名の地域共生担当を配置し、行政や学校と連携して様々な社会貢献活動に取り組んでいます。子供食堂やお祭りへの協力をはじめ、災害時には店舗の駐車場を避難場所として活用できるよう自治体との防災協定の締結も進めています。コロナ禍からの回復段階にあるので、まだ実現までには至っていないのですが、広い敷地面積を持つ各店舗を活用し、パチンコをする人だけでなく、しない人も含めて地域の人たちが集まってコミュニケーションを取れる場所にしていこうという想いは変わらずにもっています。
成功の秘訣とは
―次に、過去ぶつかった壁、また、それを乗り越えたブレイクスルーなどをお伺い出来ればと思います。
はい。過去に弊社は何度か経営的に苦しんだ時期があります。最近ですと東日本大震災の2011年、そしてコロナ禍の2020年です。
コロナ禍がパチンコ業界に与えた影響は大きく、緊急事態宣言の発出時には、ほぼ全店が休業せざるを得ないという状況になりました。現時点でも業界全体として2割ほどが縮小したと言われています。その中で、弊社としては従業員の雇用を守ることを最優先に考えていました。幸い助成金の給付対象に入ることができたので、数店舗閉鎖することになってしまいましたが、アルバイト社員を含めて誰一人解任することなく経営を存続することができました。
東日本大震災の際も、早期の営業再開については社内で反対が多くありましたが、地域の方々が寄り添える場所として早期での営業再開を踏み切ることができました。
私たちは、企業理念としても「顧客第一主義」を掲げており、常にお客様を最優先に考え実践してきました。有事の際も、経営判断に迷った時には、この考え方を起点に答えを導き出してきたと言えます。
未来への構想と読者へのメッセージ
―それでは次に、御社の未来構想について教えてください。
将来的な目標として。パチンコを日常の娯楽にすることは変わらず目指していきたいと思っています。ただ、足元、様々な業界課題を一つ一つ解決していく必要があると考えています。例えば、遊技台価格の高騰に端を発する業界の高コスト体質、2,000社以上が乱立する未成熟な業界構造などです。高コスト体質の改善のためには、遊技機メーカーへの発言力を増す必要があり、そのためには店舗数や遊技台設置台数の拡大が不可欠であると考えています。 また、閉業や倒産、後継不足が多い業界ではあるので、M&Aや提携を積極的に行っていく方針を考えています。過去には東海地区を中心に39店舗を展開する夢コーポレーションM&Aをしましたし、直近では岐阜県のホール企業より5店舗の営業権を取得しました。今後もグループとしての強みを生かして業界再編につなげていくことがホールディングス全体としても有効であると考えています。
―様々な解決すべき課題がありますね。他にも課題はあるのでしょうか。
玉やメダルを使わずに全てデジタルで行うスマート遊技機の普及が課題としてあげられます。スマート遊技機導入のためには、設備を含めて変更する必要があり、今後も多額の設備投資費がかかると予想されます。スマート遊技機周辺の設備投資ができる余力があるかどうかが明暗を分ける鍵になると考えています。また、コロナ禍以前と比較して100%戻ってきている企業と、50%程度しか回復できていない企業で二極化している状況があり、今後さらにその二極化が進むと考えています。
―最後に、次世代の経営者へのメッセージをお願いできますでしょうか??
パチンコ業界全体として、将来が不透明であるように見えるのですが、その中でも生き残っていく企業は必ずあります。弊社はこの逆境をチャンスと捉えられる側にいると思っています。現在は57年目ですが、今後創業60周年に向けて、コロナ禍で失ったものを取り戻し、新たに作りあげながら進んで行きます。さらに、その先にある創業100周年を目指して行きたいと思っております。そういった意味でも注目して頂いている皆様のご期待に添えるような会社にしていきたいと思っております。
- 氏名
- 保坂 明(ほさか あきら)
- 会社名
- 株式会社ダイナム
- 役職
- 代表取締役