セブン&アイ・ホールディングス<3382>が8月31日、百貨店子会社のそごう・西武を9月1日付で米投資ファンドのフォートレス・インベストメント・グループに売却することを決議した。同日には売却に抗議して、旗艦店の西武池袋本店でストライキが決行され、売却前の最終日は「全館臨時休業」に。正式に売却が決まったそごう・西武だが、旗艦店の同店の「未来」はどうなるのか?

「ヨドバシカメラ出店」がゴールではない

セブン&アイHDからそごう・西武を買収するフォートレスは、家電量販店大手のヨドバシカメラ(東京都新宿区)と連合を組み、池袋本店には同社店舗が入居する予定だ。しかし、それも一時的な「増収策」だろう。本命は同店舗を核とする池袋駅の再開発のはずだ。

同店の約6割の土地を所有する西武ホールディングス(HD)の合意が必要になるが、商業施設にオフィスやホテルなどを含めた複合高層ビルに建て替えるのだ。豊島区など行政も巻き込んで、池袋駅東口再開発事業に乗り出す公算が強い。実際に動き出せば、現在はそごう・西武買収に警戒感を隠さない地権者や行政も賛成に回ると見られる。

西武HDにはヨドバシが入居することで大胆な再開発ができないとの懸念があり、豊島区も2032年の区政100周年に向けた池袋駅周辺地区の「文化を軸にした再開発事業」の中核施設が家電量販店ではそぐわないと考えているようだ。これが新宿駅や東京駅、大阪駅、京都駅並みの本格的な駅再開発となれば、反対する理由はなくなる。

大都市圏の百貨店では、オフィスなどとの複合ビルへのリニューアルが進んでいる。これは長期低迷している百貨店事業に代わって、安定したオフィス賃料収入で経営安定を図るため。いわば百貨店会社の不動産事業化だ。営業を続けている店舗にしても、有名ブランドや人気専門店を店子として招き入れて家賃収入を得る「大家化」が進んでいる。


買ったのは「百貨店」ではなく「再開発参入権」

フォートレスとしては西武・そごうを買収して店舗スペースをヨドバシに又貸ししたところで、大きな利益は見込めない。一方、ヨドバシにしてもネット通販の比率が高まっている現在、家電量販店が百貨店と同じ轍を踏むリスクは重々承知している。

つまり、フォートレスとヨドバシは「百貨店」を買ったのではなく、池袋駅東口という一等地の「都市再開発への参入権」を手に入れたかったのだ。

当然、西武渋谷店やそごう横浜店、同千葉店、同広島店などの大都市店舗でも規模の差こそあれ、再開発事業に着手する可能性が高い。そごう・西武のフォートレスへの売却は、百貨店業界が不動産業へ転身する「総仕上げ」として記憶されることになるだろう。

そごう・西武の大都市店舗一覧

店名住所店舗面積(㎡)立地条件備考
西武池袋本店 東京都豊島区 81,000 西武池袋線池袋駅・JR池袋駅・東京メトロ池袋駅直結
西 武
渋谷店
東京都渋谷区 43,000 東急渋谷駅・東京メトロ渋谷駅徒歩1分、JR渋谷駅・京王渋谷駅徒歩3分
そごう
横浜店
横浜市 81,000 JR横浜駅・京浜急行横浜駅徒歩3分、相模鉄道横浜駅徒歩7分、横浜市営地下鉄横浜駅徒歩10分
そごう
千葉店
千葉市 59,000 京成千葉駅・千葉都市モノレール千葉駅直結、JR千葉駅徒歩2分 ジェンヌ館閉鎖前は75,000㎡
そごう
大宮店
さいたま市 48,000 JR大宮駅徒歩2分
そごう
広島店
広島市 36,000 広島市の中心街。広島バスターミナル直結、広島電鉄紙屋町西電停・アストラムライン県庁前駅徒歩1分 新館閉鎖前は55,000㎡

文:M&A Online