この記事は2023年9月21日に青潮出版株式会社の株主手帳で公開された「 オキサイド【6521・グロース】単結晶、レーザなど開発・製造」を一部編集し、転載したものです。
▼古川 保典 社長
半導体検査装置向け世界シェア約95%
大手企業から設備や技術者引き受け成長
半導体ウエハの欠陥検査装置に搭載される単結晶製造で、世界シェア約95%を誇るオキサイド。ブルーレイディスクの読み書きに利用する青紫光を作るための単結晶製造を皮切りに、大手メーカーからの高難度の受託開発等で成長し、2021年4月には東証グロース市場に上場を果たした。23年2月期業績は、売上高が57億5200万円(前期比20・9%増)、営業利益は5億3700万円(同10・0%減)。今年5月には次世代パワー半導体の材料であるSiC単結晶の量産に向け、工場を新設。一方で、イスラエルのライコル・クリスタルズを子会社化し、M&Aにも意欲的な姿勢を示している。
24年2月期売上高約87億円見込む
過去最高更新、前期比では52・5%増
波長変換した光の用途は多様
同社が開発と製造を手がけるのは、光を発するレーザと、光を透過して波長(性質)を変える単結晶だ。元のレーザの光自体は波長が決まっているが、結晶を透過することで波長が変換され、様々な光を出すことができる仕組みだ。波長変換された光は、半導体検査装置など多岐にわたり用いられる。
直近の24年2月期第1四半期は、売上高は13億5900万円、営業損失は4800万円だった。売上高は前年同期と比べ、やや弱含みでスタートした。製品の市場別では、半導体事業は、前期第3四半期に顕在化した一部調達部材の不具合問題は依然残ってはいるものの、計画どおりの売上となった。ヘルスケア事業は、主要顧客での前期第4四半期から続く在庫調整が影響し、計画を若干下回った。新領域事業は、前年のスポット売上の解消により例年並みの水準となった。
24年2月期連結業績予想は、売上高は過去最高の87億7300万円、営業利益は4億7100万円だ。
セグメントは「半導体事業」「ヘルスケア事業」「新領域」の3つ。売上の56%を占める「半導体事業」は、半導体ウエハの欠陥検査装置に組み込まれる単結晶とレーザの開発・製造。単結晶については世界で約95%のシェアを誇る。
半導体製造工程の「前工程」と呼ばれるウエハ処理工程では、投入するシリコンウエハの品質検査が半導体チップの歩留まり管理上不可欠であり、専用のウエハ検査装置が利用されている。
「半導体市場は踊り場になったと言われていますが、検査装置向けではまだまだ引き合いがあります。売上は伸びている」(古川保典社長)
31%を占める「ヘルスケア事業」は、がんを診断するPET検査装置に搭載されるシンチレータ(※1)単結晶の開発、製造だ。
PET検査装置はがんの診断以外にアルツハイマー型認知症の診断にも用いられる。
「エーザイと米バイオジェンが共同開発したアルツハイマー病の新薬により、今後PETによる検査の需要は高まる見込みです」(同氏)
13%の「新領域」では、パワー半導体向けのSiC単結晶など、新規材料の開発や既存結晶の改良を手がける。
※1 放射線や荷電粒子が通過すると発光する物質の総称
「結晶屋やレーザ屋の楽園」
開発・技術力に強みを持つ同社だが、「各事業で大手メーカーから引き継いだ優秀な人材と技術によるところが大きい」(同氏)という。
結晶事業は元々、東芝や日立など日本の大手電機メーカーが得意としていた。しかし、2000~10年代にかけて、システムなどに比べ売上の小さい同事業からの撤退が相次いだ。バブル後の不況やリーマンショックの影響により、各社で事業の再構築が進んだためだ。
「その流れの中で設備や技術、人員を引き受けてきました。いわば、各社の事業で最後まで生き残った人材が当社にやってきたのです」(同氏)
大手企業の技術者は常に売上や収益化へのプレッシャーを受けてきたという。
「一方、当社では売上が1000万円の案件でもお客さんが喜ぶならやりましょうと、新しいことに挑戦できる。お客さんの問題解決に貢献した実感が得られるので、どんどん生き生きとしてきます。当社は結晶屋やレーザ屋の楽園みたいな環境です」(同氏)
また同じ製品でも各社で製造レシピは異なる。さまざまな企業から転職者が集まることで、開発に活かせるメリットもあるという。
00年国立研究所から独立
3年目に製品完成も市場消失
ブルーレイ用からスタート
2000年、国立研究開発法人物質・材料研究機構(NIMS)から創業したベンチャーの同社。当時、同研究所で研究していたのは、ブルーレイディスクの読み書きに利用する青紫光を作るための単結晶だった。顧客からは製品化を求められていたが、ライセンス許諾した大手メーカーが製品化に二の足を踏んでいたという。研究成果が実用化されないことで技術の将来性を危惧した古川氏は同社を創業。スポンサー企業の協力で製品化に着手した。
「見方を変えれば、大手が事業化していれば私は起業していませんでした。山梨にある当時の親会社の敷地と工場を借りて設備を入れ、オフィスは工事現場にあるような賃料月2万円のプレハブを代わりとしていた」(同氏)
山梨県などから資金・設備調達をしつつ、創業3年目の03年に製品の完成に漕ぎ着けた。予想通りに売れたもののその後、単結晶を用いずに波長400~450nmの光を発する「青色レーザ」が開発され、市場は消失してしまった。
「やっと製品が出来上がって喜んでいたら、市場が一瞬でなくなった。ビジネスは怖いと思いました。自分たちの技術で素材ができても、お客さんのデバイスとシステムが完成しないと市場ができないが、そこまで到達するのに時間がかかります。やっと市場ができたと思った瞬間にお客さんのデバイスが他の技術に負けてしまったわけです。元々研究所にいたので、私はあまりそういう経験がなく、とにかくいいものを作れば売れるだろうと思っていました」(同氏)
親会社から退去言い渡される
05年、親会社は資金繰りが苦しくなり、同社株を売却。その翌週に敷地からの退去を言い渡され、現在の本社がある山梨県北杜市武川町に移転することになってしまった。
「本社を移した当初はお金がなかったので、自分たちで天井などを修理しました。ペンキ塗りは段々と上手くなり『事業が上手くいかなくてもペンキ屋になれる』と励まし合ったりして、それはそれで楽しい時期でした。親会社が当社の株を売却する際は、お世話になっていたので売却先を見つけなくてはと思いました。しかし、買い手が決まった直後、プレハブの事務所から立ち退きを求められた。会社経営とはこういう厳しい世界なのかと実感しましたが、この出来事で経営者として身が引き締まりました」(同氏)
NTTグループからの受託開発に成功
KLA、レーザーテック案件も獲得
半導体微細化による需要見越す
07年、地道に研究・開発を進めてきた技術が認められ、エヌ・ティ・ティ・アドバンステクノロジと資本・業務提携を果たした。同社にとって潮目が変わる瞬間だった。IBMが発明した「KTN」という難易度の高い結晶の受託開発を持ちかけられ、製品化に成功したのだ。過去に米国のBell Lab.や東芝など、国内外の大手企業が実用化を目指したが断念していた。
08年にレーザーテックやKLAからも結晶の受託開発を持ちかけられた。いずれの開発も成功し、重要なサプライヤーの一つとして認められ、出資を受けた。
さらに2010年には、ソニーの子会社が紫外線を用いるレーザ事業から撤退し、技術と特許のライセンス、3人の技術者を同社が引き受けた。当時は市場がなかったが、「深紫外レーザは半導体の微細化により需要が生まれていく」(同氏)と予想し、開発を進めた。実際にロジックICなど先端半導体の検査装置に不可欠なものとして市場は順調に拡大してきている。同分野における深紫外レーザの同社のシェアは世界で約30%に及ぶ。
SiC単結晶量産に向け工場新設
「宇宙・防衛」「量子」等にも注目
M&Aによる成長にも期待
同社が現在注目している分野は、量子とパワー半導体だ。
今年3月には「宇宙・防衛」「美容」「量子」「エネルギー」分野で結晶の開発、製造を手がけるイスラエルのライコル・クリスタルズを完全子会社化。これまで参入していなかった同分野で本格的に事業を展開する構えだ。特に量子分野では、ユーザーが現時点で求めているほぼ全ての種類の波長変換結晶と量子メモリ結晶を提供できるようになる。
続けて5月には、本社のある山梨県北杜市武川町に工場を二つ新設した。うち一つでは、次世代パワー半導体の材料であるSiC(※2)単結晶の量産に向けた研究開発を行う。売上高に関しては、具体的な数値目標はまだ発表していないが、SiCのマーケット全体の1割程度にあたる高品質な結晶が要求される分野でのシェア確保を狙っていく。
「今まではグローバルニッチで事業展開してきましたが、創業理念である「大学で得られた素晴らしい成果を社会に還元すること」は今後も継続したいと思っています。名古屋大学の研究成果の事業化をサポートしようとSiCを始めました」(同氏)
ライコル・クリスタルズのケースのように、M&Aによる成長にも意欲的な姿勢を示す。
「日本ではレーザ・結晶関係のM&Aは進んでいませんが、海外では事情は異なります。アメリカなどの当社と同じような大学発ベンチャーが売上数十億円になって上場して資金調達し、いくつかの会社を買収しています。数百億円くらいに成長するとまた買収し、数千億円まで伸びるケースがたくさんあります。成長と企業価値を高める手段として当社も参考にしたい」(同氏)
今年4月28日に発表した「事業計画及び成長可能性に関する事項」では、26年2月期に売上高136億200万円、営業利益率11・6%を目指している。
※2 シリコン (Si) と炭素 (C) で構成される化合物半導体材料。絶縁破壊強度が高いなど次世代のパワーデバイス材料として注目されている。
2023年2月期 連結業績
売上高 | 57億5,200万円 | 20.9%増 |
---|---|---|
営業利益 | 5億3,700万円 | 10.0%増 |
経常利益 | 6億8,700万円 | 14.8%増 |
当期純利益 | 5億5,700万円 | 12.4%増 |
2024年2月期 連結業績予想
売上高 | 87億7,300万円 | 52.5%増 |
---|---|---|
営業利益 | 4億7,100万円 | 12.3%減 |
経常利益 | 6億5,200万円 | 5.1%減 |
当期純利益 | 4億3,000万円 | 22.8%減 |
※株主手帳23年10月号発売日時点