投資信託の利益には、所得税や住民税などの税金が発生
投資信託を運用していて利益を得た場合、その利益には所得税や住民税がかかります。
投資信託の利益は3種類
投資信託の運用で生じる利益は3種類あります。
投資信託を売ったときの売却益
【投資信託の売買に伴う課税関係】
買ったときの基準価額 | 売ったときの基準価額 | 差額 | 課税 |
---|---|---|---|
1万3,000円 | 1万5,000円 | 2,000円(差益) | される |
1万5,000円 | 1万3,000円 | ▲2,000円(差損) | されない |
投資信託を買ったときよりも高い値段で売却すると、差益(儲け)が生じます。この売却益は所得税の税区分の譲渡所得に分類され、課税されます。反対に投資信託を売った値段が買った値段を下回っている場合(差損が出る場合)には税金はかかりません。
投資信託を保有中に受け取る普通分配金
投資信託の中には、運用中に投資家に分配金が支払われるものがあります。分配金とは、運用で得られた収益を決算時に投資家に還元するお金です。投資信託の決算の回数は、毎月・年2回などファンドごとに異なります。
分配金には「普通分配金」と「特別分配金(元本払戻金)」の2種類があります。運用益分を払い戻す普通分配金は、配当所得として税金がかかります。
償還時に利益が出た場合の償還差益
投資信託には運用期間があり(期限がないものもある)、期間が終了して信託財産を保有者に払い戻すことを「償還」といいます。購入時の金額より償還金が上回って償還差益が出た場合、売却益と同様に譲渡所得として課税対象になります。
利益に対しての税率は20.315%
売却益・償還益の所得区分は「譲渡所得」、普通分配金の所得区分は「配当所得」となり種類は異なりますが、いずれも税率は20.315%です。税率の内訳は、所得税15%・住民税5%・復興特別所得税0.315%となっています。
特別分配金は非課税
投資信託の分配金は、運用益がない場合でも支払われる場合があります。この場合は「特別分配金」として投資家の「元本の一部を払い戻す」ことになります。特別分配金は利益ではないため、課税されません。
申告分離課税と総合課税の違い
投資信託の利益における課税方式には、利益の種類によって「申告分離課税」と「総合課税」があります。
申告分離課税とは、給与所得などほかの所得とは分けて税額を計算する課税方式です。これに対し総合課税とは、対象となるすべての所得の合計金額に対して税額を計算する課税方式です。いずれの場合も確定申告によって納税します。
売却や解約などの利益は申告分離課税
投資信託の売却や償還における譲渡益は、申告分離課税の対象です。そのため、投資信託の譲渡益があれば、原則として確定申告をしなくてはなりません。
分配金は申告分離課税か総合課税かを選択
投資信託の普通分配金に対しては、払い出しの際に所得税・住民税が源泉徴収されます。この場合、分配金によって課税総所得金額は増えず、確定申告も不要です。
しかし、分配金は申告分離課税または総合課税の方が有利な場合があり、どちらか有利な方を選ぶこともできます。
分配金はほかの取引の損失と損益通算をすることができます。損益通算をしたい場合は確定申告をして、「申告分離課税」を選択します。損益通算については後述します。
配当控除を受ける場合は総合課税
投資信託の分配金は「配当所得」に分類されるため、「総合課税」を選んで配当控除を活用することもできます。総合課税は給与所得などのほかの所得と合算して税率が決定します。配当控除は分配金に一定率をかけた金額が所得税、住民税から控除される税額控除の一種です。
所得税の総合課税は累進課税なので所得の高い人は税率が高く、配当控除を受けてもメリットがない場合もあります。そのため、配当控除を利用するかどうかは、分離課税と比較して慎重に検討しましょう。
特定口座での取引の場合
投資信託を保有する場合に金融機関での取引口座には「一般口座」と「特定口座」、NISAを利用する場合は「NISA口座」の3種類あります。
現在、金融機関で証券取引を行う人の大多数は特定口座を開設しています。特定口座は「源泉徴収あり」と「源泉徴収なし」の2種類から選びます。
源泉徴収ありは金融機関が納税を行う
「源泉徴収ありの口座」では、投資信託などの取引の収益計算・税額計算・源泉徴収を金融機関が代行してくれます。源泉徴収により納税が完了しているため、自身で確定申告をする必要がありません。しかし、払いすぎた税金を取り戻したい場合などには確定申告が必要になります。
源泉徴収ありを選ばない方がいい場合もある
会社員の場合、投資信託の利益が1年間で20万円以下の場合、確定申告や納税をする必要はありません。しかし、源泉徴収ありの特定口座では、自動的に源泉徴収が行われます。仮に年間の利益が20万円以下であれば、確定申告で還付を受けることはできます。
しかし、取引量が少ない場合など年間20万円超の利益が見込めない場合、最初から源泉徴収なしを選択することも一つの方法です。
源泉徴収なしは金融機関が計算まで行う
「源泉徴収なしの口座」では、年間の利益が20万円超の場合、確定申告により自分で納税しなければなりません。
しかしこの場合でも、金融機関が特定口座における1年間の損益を計算し、「特定口座年間取引報告書」という書類を発行してくれます。そのため、難しい収益の計算を自身でする必要はなく、簡単に確定申告ができます。
源泉徴収なしのメリット
源泉徴収ありは自動的に納税がすむので手間がかからず便利です。しかし、源泉徴収なしを選ぶとその場で税金が引かれない分、投資に回せるお金が多くなるメリットがあります。例えば、投資信託を解約して50万円の利益が出た場合、源泉徴収ありでは受け取る金額は税引き後の約40万円です。
その一方で源泉徴収なしでは、50万円全額を受け取って再投資できます。最終的には確定申告によって納税しますが、それまでの投資効率は上がります。
源泉徴収なしの注意点
「源泉徴収なしの口座」を選んで確定申告をする場合、配偶者控除や扶養控除を受けている主婦(夫)や学生は注意が必要です。配偶者や親に扶養されている親族(被扶養親族)の給与やその他所得の合計金額が48万円を超えると扶養から外されてしまいます。
扶養を外れると、扶養している親族が配偶者控除や扶養控除を受けられなくなります。そのため、世帯単位の納税額が増えてしまうかもしれません。
「源泉徴収ありの口座」なら、利益が48万円を超えても課税所得金額に加算されないため、扶養から外れることはありません。親族の扶養対象で投資信託の利益が20万円を超える見込みの人は、「源泉徴収あり」を選ぶようにしましょう。
確定申告をするのはどんなとき?
投資信託の利益にかかる税金においては、確定申告が必要な場合や確定申告をした方が有利な場合があります。それぞれについて解説します。
「一般口座」「一定額以上の利益」があるとき
投資信託の取引で確定申告をする必要があるのは、投資信託の取引口座が「特定口座源泉徴収なし」の場合のほかに、以下のような場合があります。
取引口座が一般口座の場合
投資信託の取引口座が「一般口座」の場合、自身で取引の収益や税額を計算し、確定申告をしなくてはなりません。税額計算は金融機関から送られてくる取引報告書をもとに行います。
給与所得がある人の条件
会社員など給与所得のある人が次のいずれかに該当する場合、確定申告をする必要があります。
- 給与の収入金額が2,000万円を超える
- 投資信託など投資で得た利益が20万円を超える
投資で得た利益については複数の口座を持つ人の場合、合計金額での判断になります。
複数の口座で損益通算をするとき
複数の口座がある場合には、確定申告によりすべての口座間の損益通算ができます。
損益通算とは、一定期間内の利益と損失を相殺することです。投資信託の取引で得られた利益には税金がかかりますが、損失が出た場合には利益から差し引いて課税所得金額を減らすことができます。投資信託の損益通算は、上場株式・ETF・公社債などの損益と一緒に足し引きします。
例えば、A銀行の投資信託で30万円利益が出て、B証券会社の株取引で20万円の損失が出たとします。その場合、投資信託の利益から株取引の損失20万円を差し引くことで、残りの利益10万円分にだけ税金がかかります。
損失が大きく繰越控除を受けるとき
2021年 | 2022年 | 2023年 | 2024年 | |
---|---|---|---|---|
譲渡損益 | ▲800万円 | 500万円 | 200万円 | 200万円 |
前年からの繰越 | なし | ▲800万円 | ▲300万円 | ▲100万円 |
翌年への繰越 | ▲800万円 | ▲300万円 | ▲100万円 | 0円 |
相殺後の所得 | 0円 | 0円 | 0円 | 100万円 |
損益通算しても控除しきれない損失が出た場合には、確定申告をすれば3年間「繰越控除」ができます。繰越控除とは、損益通算しても残ってしまった損失分を翌年以降に繰り越して、その年の利益から差し引くことができる仕組みです。
上記の表で、2021年の譲渡損失の800万円は、その1年に限って考えた場合、確定申告をしなくても問題ではありません。しかし確定申告をしておけば、2022年の利益500万円から2021年の損失800万円を差し引いて、所得を0円にすることができます。さらに控除しきれない損失が残れば、最長3年間繰り越して控除し、課税所得を減らすことができるのです。
3年という期限が連続しない場合、つまり途中で利益が出なくて繰越控除ができない年があっても、繰越控除できない年にも確定申告をしておけば、繰り越した損失は消滅しません。つまり、繰越控除を継続させるには、確定申告も継続する必要があるということです。
NISA口座を利用するメリット、デメリット
「特定口座源泉徴収あり」を開設すれば確定申告をしなくてもいいのですが、NISA口座で投資信託の取引をすれば、非課税枠の範囲までは税金がかかりません。
上限までの投資による利益は非課税
NISAは少額投資非課税制度のことで、株式や投資信託の取引で得た利益が一定の上限まで非課税になる制度です。非課税のため、確定申告は必要ありません。
NISAは「一般NISA」「つみたてNISA」「ジュニアNISA」の3種類があり、それぞれ年間の非課税限度額・非課税となる期間・対象商品が異なります。投資信託の運用においては自分のライフプランや投資スタイルに合ったNISAを選び、非課税枠まではNISAを活用するとよいでしょう。
利益が出ても扶養に関する影響がない
配偶者控除や扶養控除の対象になる主婦(夫)や学生が源泉徴収のない特定口座で利益を出すと扶養から外れる可能性があることは先述した通りです。このリスクは、一般口座でも同様になります。
しかし、NISA口座は利益を出しても非課税のため、課税所得金額は増えません。したがって、扶養している親族は配偶者控除や扶養控除を受けることができます。
損益通算ができない
NISAの対象商品は元本保証でない株式や投資信託であるため、損失が出る可能性もあります。しかし、NISA口座内で発生した損失を特定口座や一般口座での取引で得た利益と損益通算することは認められません。したがって、繰越控除をすることもできません。
投資信託は税金がお得で納税がラクな方法で運用しよう
投資信託は長期の資産形成に有効な金融商品です。効率的な資産形成のためには、支払う税金を少なくして投資に回せるお金を増やすことが大切です。まずは非課税口座のNISAを活用し、投資額がNISAの非課税枠を超えたら特定口座を利用するとよいでしょう。
投資額や運用益が増えてきたら、節税になる確定申告も活用してみましょう。
この記事を書いた人
群馬FP事務所代表。明治大学法学部卒。金融系ソフトウェア開発、国内生保を経て2007年に独立系FPとして開業。企業型確定拠出年金の講師、個人向け相談全般に従事。現在は法人向けには確定拠出年金の導入コンサル、個人向けにはiDeCoやNISAを有効活用したライフプランニング、リタイアメントプランニングで人生100年時代をマネーの面からサポート。