この記事は2023年9月28日に青潮出版株式会社の株主手帳で公開された「やまや【9994・スタンダード】」を一部編集し、転載したものです。
酒類販売業界のトップシェア
47都道府県出店に向けエリア拡大中
直輸入・直販の酒類販売店「やまや」を約351店舗展開するやまや。酒類に公定価格があった70年代、業界に先駆けてディスカウント販売を始め、事業を拡大してきた。47都道府県に出店する目標を掲げる。コロナ禍で落ち込んだ外食事業は、インバウンド団体の取り込みなどで持ち直しを図っている。
▼佐藤 浩也 社長
約7000種類の品揃え
中間流通なしの直輸入・直販
「やまや」は「酒類を中心とした嗜好品の専門店」として世界40カ国からワインやパスタといった食材約7000種類を品揃える。全国29都府県に351店舗(2023年3月末時点)を展開し、酒類小売業界で1位の売上高を誇る。
この「酒販事業」の特徴は直輸入・直販の「ワールドリカーシステム」だ。国内の中間流通を通さずに、直接、海外メーカーから商品を大量に仕入れる。あわせて国内の酒類も取り扱う。
商品の保管と流通も効率化している。海外から到着した商品は大型トレーラーで陸送し、オートメーション化した自社の物流センターの倉庫に保管。その後、各店舗・取引先からの受注データにより、自動的に商品がピッキングされ、ただちに出荷・配送される。
「外食事業」として居酒屋も展開している。海鮮居酒屋『はなの舞』などの「チムニー」と「つぼ八」を子会社として抱える。
直近の2023年3月期連結決算は、売上高が1527億6400万円(前期比6・5%増)、営業利益は28億3700万円(同341・1%増)だった。同期の売上高の約85%を「酒販事業」が占める。
「コロナ禍を経て質の高い酒が飲まれるようになり、客単価が上がりました。若い人の酒離れもトーンが変わっています。ボードゲームで遊びながら飲むなど、酒が身近になっているようです」(佐藤浩也社長)
公定価格時代の「異端児」
ディスカウント販売の先駆け
同社のスタートは、現取締役ファウンダー・山内英房氏の母である山内寧子氏が1952年に塩釜で始めたよろず屋「やまや」だ。当時の品揃えの中に酒もあった。
70年、山内英房氏が「株式会社やまや」を設立。本格的に酒販事業を始めた。当時はメーカーが決めた公定価格で酒類を販売するのが一般的だった。一方、同社は業界に先駆け、「適正価格」としてディスカウント販売に乗り出したうちの1社だった。その結果、本社のあった塩釜で酒類の仕入れルートを断たれてしまい、調達に東奔西走することになった。
転機になったのは85年。山内英房氏がアメリカへの視察旅行でカリフォルニアワインに出会い、自社で直接仕入れを始める。PR施策も伴ってワインはヒットを記録。これを受け、ウイスキー、海外のブランドにも仕入れの幅を広げた。海外から商品を調達し、商社を通さず直接メーカーと取引する、同社のビジネスモデルが確立された。
酒類販売の自由化が追い風に
06年イオンと輸入商社設立
94年にジャスコ(現イオン)と資本・業務提携するとともに、株式を店頭公開。宮城から東北エリア、北陸エリアへ店舗を拡大していく。
当時、酒類販売業免許の取得は制度的に難しい時代だった。だが、免許を持つ地元のスーパーから合弁会社の設立を持ちかけられ、出店が可能になった経緯がある(※やまやが取得しなくても法的に問題はない)。
00年には100店舗を達成。03年に酒類販売が自由化されてからは出店を加速していく。06年には、ワインを基軸商品とした輸入商社「コルドンヴェール」をイオンと設立。09年に酒類・食品のディスカウントストア「スピード(現やまや関西)」を子会社化して、「やまや」店舗に100円ショップのダイソーを併設する店舗が定着した。12年には300店舗まで拡大し、今年3月現在の店舗数は、29都府県に351店舗だ。
同社は出店の順序にも特徴がある。特定の地域で店舗を展開する前にまず、物流センターを建ててしまう。その後周辺に店舗を展開していく。一般的には、店舗数や出荷数が増加したのちに倉庫の建設に入る。
「センターを運営するやまや商流から仕入れることで、万全な体制で出店できるメリットがあります」(同氏)
物流センターは現在国内に9カ所ある。
「センターがあるエリアを中心として、未出店エリアへの出店を進めるとともに、全国展開を目指していく」(同氏)
▼やまや店舗。外観は宮城県仙台市沖野店
チムニー、不採算店閉めスリム化
大人数収容店で団体客獲得
酒販小売りで存在感を増してきた同社は、より取扱量を増やすべく外食事業に参入。13年、「はなの舞」「さかなや道場」を展開する居酒屋グループ「チムニー」を子会社化した。その後「つぼ八」も子会社化し、現在は国内外に600店舗以上の居酒屋を展開する。
23年3月期の同事業の売上高は、227億500万円(前期比87・1%増)。営業損失は、12億7400万円(前期は42億8200万円の損失)だった。赤字幅は縮小しているものの、売上高はコロナ前の19年3月期(481億9700万円)の半分に満たない。
「外食事業は心配されているかと思います。ですが、コロナ禍に不採算店舗は畳み、だいぶスリムな経営体質に変わりました。現在は、数百人規模のキャパシティをもつ「大箱店舗」の特性を活かしています。インバウンドの団体や、食事をする就学旅行の団体客などを受け入れています。慎重に世間の動向を見ながらコロナ前の売上高を目指しています。また、コロナ禍では「酒無し外食」が注目されましたが、当社はお酒の提供にこだわりたい。小売りと外食を合わせてグループで取扱量を増やすことで、酒類メーカーへの影響力を持てます」(同氏)
また「酒販事業」では、販売管理システムの開発や、自動発注システムを利用したトラック満載配送を行っている。「外食事業」では、スマホオーダー、配膳ロボットなどDXも推進している。
「DXという言葉もない80年代から積極的にITに投資し、当社独自のシステムを作り上げてきました。レジや物流センターのプログラムを自社開発した実績があります。ノウハウを外食にも活かしていく」(同氏)
2023年3月期 連結業績
売上高 | 1,527億6,400万円 | 6.5%増 |
---|---|---|
営業利益 | 28億3,700万円 | 341.1%増 |
経常利益 | 29億5,300万円 | 66.4%減 |
当期純利益 | 19億3,000万円 | 56.1%減 |
2024年3月期 連結業績予想
売上高 | 1,568億円 | 2.6%増 |
---|---|---|
営業利益 | 38億6,000万円 | 36.0%増 |
経常利益 | 39億円 | 32.0%増 |
当期純利益 | 22億5000万円 | 16.6%増 |
※株主手帳23年10月号発売日時点