要旨
7-9月期の中国経済は再加速
前期比でみた中国実質GDP成長率は、2023年7-9月期に1.3%(年率換算では5.3%)を記録、市場コンセンサスの0.9%(ブルームバーグ調べ)を上回るとともに、予想外の景気減速に直面した4-6月期の0.5%(年率換算では2.0%)から大きくリバウンドしました。
短期的な経済対策の必要性は低下
7-9月期の実質GDP成長率が上振れたことで、金融市場における中国経済の先行きに対する懸念は一時的に和らぎそうです。中国政府は今年の成長率目標を追加的な景気対策なしに達成できると見込まれます。
それでも2024年予算では積極財政が採用される公算
とはいえ、7-9月期の主要統計が示す中国経済の姿は、力強いと呼べるものではありませんでした。今後の中国経済が7-9月期の強さを維持することは困難とみられます。2024年に入っても、中国当局は金融・財政政策の両面から景気を支え続ける必要があると予想されます。
7-9月期の中国経済は再加速
景気減速が懸念される中国の7-9月期のGDP統計には大きな関心が集まりました。2022年の中国経済がコロナ禍で景気が大きな打撃を受けたこともあり、中国景気をみるうえでは、前年同期比よりも前期比でみた計数の方が重要です。前期比でみた実質GDP成長率は、2023年7-9月期に1.3%(年率換算では5.3%、前年同期比では4.8%)を記録、市場コンセンサスの0.9%(ブルームバーグ調べ)を上回るとともに、予想外の景気減速に直面した4-6月期の0.5%(年率換算では2.0%)から大きくリバウンドしました。
ただ、7-9月期の中国景気のけん引役を理解するには、細かい分析をする必要があります。というのは、中国ではGDPの内訳が公表されておらず、月次で公表される指標からはむしろ景気の弱さが浮かび上がってくるためです。公表された月次統計を用いて7-9月期における主要指標の前期比での伸び率を計算してみると、実質ベースでみた財消費(小売売上)、都市部固定資産投資の伸び率は、それぞれ、0.5%、0.1%にとどまる一方、名目のドル建て計数より算出した貿易収支の伸び率はマイナス圏にあったためです(図表1)。そこで、家計調査などから実質ベースのサービス消費をおおまかに推計してみたところ、7-9月期における前期比伸び率は19.6%と、13.9%を記録した4-6月期よりもさらに加速していたことがわかりました。この推計が正しいとすると、7-9月期の中国経済は、サービス消費によって力強くけん引されていたことになります(仮に正しくないとすれば、7-9月の1.3%成長が何によってけん引されたかを理解することは難しいと言えます)。
短期的な経済対策の必要性は低下
7-9月期の実質GDP成長率が上振れたことで、金融市場における中国経済の先行きに対する懸念は一時的に和らぎそうです。中国国家統計局によると、「5%程度」に定められた今年の政府による成長率目標を達成するためには、10-12月期の実質GDP成長率は前年同期比で4.4%が必要とのことです。これを前期比での成長率にひきなおすと0.2%になることから、中国政府は今年の成長率目標を追加的な景気対策なしに達成できるでしょう。このため、年内に追加的な景気対策が発動される可能性は低下したと考えてよいでしょう。ブルームバーグ社は、10月10日の記事において、中国政府が経済成長率目標を達成するため、1兆元を超える国債の追加発行を含む景気刺激策を検討していることを、「事情に詳しい関係者」の話として報道していますが、今回の経済指標の公表を受けて、その可能性は低下したと考えられます。
それでも2024年予算では積極財政が採用される公算
とはいえ、7-9月期の主要統計(図表1)が示す中国経済の姿は、力強いと呼べるものではありませんでした。財消費や固定資産投資が弱めであることが景気全体の弱さをもたらしており、特に、当面、不動産投資の減少が見込まれる点が景気の下押し圧力をもたらしています(図表2)。1-9月期において、中国の家計の1人当たり可処分所得は実質ベースの前年同期比で5.9%増加しました。これを踏まえると、4-6月期、7-9月期と連続で前年同期比での二桁の増加を続けてきたサービス消費の伸び率が今後も維持されるとは思えません。中国経済が7-9月期の強さを維持することは困難とみられます。中国景気の今後のリスクとしては、上振れリスクよりも下振れリスクが大きいと判断されます。
2024年に入っても、中国当局は金融・財政政策の両面から景気を支え続ける必要があるでしょう。2022年は中国経済がコロナ禍にあったことから、2023年の成長率に向けてのゲタ(2023年の実質GDPが2022年10-12月と同水準で横ばいとなる場合の2023年の実質GDP成長率)が1.8%ポイントに達しました。2023年10-12月期の成長率が再び前期比で0.5%に減速する場合、2024年の成長率に向けてのゲタは1.1%ポイントにとどまることもあり、2024年の中国経済が4%台半ば程度の成長を達成するハードルは決して低くありません。不動産投資の減少が続くと見込まれる中、金融政策面では、金利や法定預金準備率が引き下げられると見込まれます。財政政策面では、2023年までと同様、2024年においても積極的な財政政策が採用されると見込まれます。この観点から、例年12月上~中旬に開催される中央経済工作会議に注目したいと思います。
木下 智夫
グローバル・マーケット・ ストラテジスト
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