この記事は2023年12月22日に「The Finance」で公開された「住友生命「Vitality」をベースとしたWell-being実現に向けて ~住友生命のWaaS(Well-being as a Service)エコシステム戦略~」を一部編集し、転載したものです。
生命保険は、単に病気やケガ、死亡などのリスクを金銭面でカバーするだけでなく、顧客がより良く生きる「Well-being(ウェルビーイング)」の向上に貢献する新たな役割を担うように変化していくと思われる。住友生命保険相互会社(以下、住友生命)は、この変化に対応するため、健康増進型保険“住友生命「Vitality」” を中心にウェルビーイングの価値提供を行うことに力を入れている。
本稿では、住友生命が目指すウェルビーイングとは何か、Vitalityが提供するウェルビーイングの価値、そしてさらなる展開としてWaaS(Well-being as a Service)エコシステムの拡大に向けた将来像について紹介したい。
目次
Well-being(ウェルビーイング)とは
Well-being(以下、ウェルビーイング)とは、「健康とは、病気でないとか、弱っていないことではなく、肉体的にも精神的にも、そして社会的にもすべてが満たされた状態のこと」と世界保健機関(WHO)によって定義されている(出典:公益社団法人 日本WHO協会)。
この定義は、ウェルビーイングが単なる健康状態以上のものであることを示しており、身体的、精神的、社会的、経済的、あらゆる面での個人の幸福を表す包括的な概念であることを意味している。
住友生命においてもウェルビーイングを「健康」に対する新たな価値観として、「身体的・精神的・社会的・経済的に幸せと感じる状態」、また、「そうあるための行動、選択、ライフスタイルを積極的に追求すること」と定義している。このような「一人ひとりのより良く生きる」ウェルビーイングを実現するために、生命保険の枠組みを超えて、顧客ごとのライフスタイルや価値観に沿ったサービスの提供を目指している。
Well-being(ウェルビーイング)が注目される背景
少子高齢化社会の進展に伴い、長い人生を単に生きるというだけではなく、いつまでも健康で生き生きと過ごすことへの関心が高まっている。また、人口減少に伴う働き手の減少により、年を重ねても社会とつながり、活躍ができることに関心が寄せられるようになっている。このように、「よりよく生きる」ことを人々が重視するように認識が変化したことが、ウェルビーイングが注目されるようになった背景の1つである。
健康増進型保険“住友生命「Vitality」”のウェルビーイング価値提供
住友生命はこれらの社会的変化や人々の価値観の変化を踏まえ、健康増進型保険“住友生命「Vitality」” を中心にウェルビーイングの価値提供に注力している。
2018年に発売した“住友生命「Vitality」(以下、Vitality)”は「運動や健康診断などの取組みをポイント化し評価する」という仕組みによって加入者の健康増進活動を促すものであり、従来型の保険商品のように「リスクに備える」という価値提供だけでなく、健康増進に取り組みながら「リスクを減らす(=身体的ウェルビーイング)」という、これまでの生命保険にはなかった新しい価値の提供を実現している。
Vitalityは今から20年以上前に南アフリカで誕生して以降、世界に広がり、今では40の国と地域、約3,500万人※(2023年6月末時点)が加入している。日本では住友生命のみが販売できることとなっている。
※他国で提供されている「Vitality」の種類はVitality導入各国により異なる場合があります(損害保険・健康保険等)
Vitalityは専用のスマートフォンアプリやウェアラブルデバイスを通じて、保険加入者の健康増進活動(運動、健康診断受診、等)にポイントを付与する。年間の累計獲得ポイントに応じて判定されたステータスに基づいて保険料が変動する仕組みや、提携パートナー企業が提供する魅力的な特典(リワード)の提供等を通じて、加入者の継続的な健康増進活動をサポートする。
特典(リワード)については、健康増進活動へのモチベーションを向上するために、多数のパートナー企業と提携し、ホテルやスポーツクラブ、ヘルシーフードの割引利用など、さまざまな種類のものを提供している。また、飽きることなく健康増進活動を継続できるようにする工夫として、長期の目標達成だけでなく、短期の目標達成へのインセンティブとして、1週間ごとの達成状況によってドリンクチケット等が得られるプログラム「アクティブチャレンジ」などを提供している。
これらのさまざまな仕組みによって健康増進に取り組んでいただいた結果、健康診断データやVitalityアプリから得られるデータから、Vitality加入前後で血圧等の数値が下がった会員が一定いることや、入院率や死亡率も非加入者に比べると低いことが見て取れる(当社分析)。加えて、多くの加入者から「毎日がポジティブに感じられる」「心身ともに充実感が増している」といった声(当社アンケート調査)が寄せられており、健康増進の取組みを通じて身体的・精神的なウェルビーイングの実現に貢献していることが確認できている。
また、Vitalityでは加入者のデータを分析し、疾病リスクをレポートする機能(専用スマートフォンアプリに搭載している疾病予測機能)を提供するなど、顧客にデータ価値を還元する顧客価値増大モデルを構築している。
住友生命が目指すWaaSエコシステムの将来像
「Vitality」は、すでに累計販売件数が150万件を超え、ウェルビーイングを推進するベースを確立しつつある。この流れを活かし、さらなる顧客価値の拡大を行っていくために、今後の展望として、非保険領域(例えば、健康、美容、資産、教育など)でのウェルビーイングを支援するサービス「WaaS(Well-being as a Service)」の提供を実現する経営計画としている
例えば、ウォーキングコースや旅行先の観光マップを通じて健康活動を支援する地図サービス(身体的ウェルビーイングの価値提供)、年を重ねても自分らしく生きることを支援する美容・アンチエイジングサービス(精神的ウェルビーイングの価値提供)、多様な働き方やキャリアの実現を支援するための教育・リスキリングサービス(社会的ウェルビーイングの価値提供)、また、これらを実現するための資金を準備する資産形成サービス(経済的ウェルビーイングの価値提供)などを予定している。
このようなWaaSを構成する顧客価値の高い商品やサービスを多くの顧客に届けるためには、住友生命が独力で取り組むだけでは不十分である。真に顧客価値が高いWaaSにするためには、多くの事業者や団体と共創し、相乗効果を生むネットワークを広げていくことが不可欠である。また、デジタルやデータの技術を活用し、多くの商品やサービスを、多くの人々や企業、団体に無駄なく提供できる場、いわゆるプラットフォームのような形で展開する世界の実現を目指している。この概念を「WaaSエコシステム」と呼び、ウェルビーイングサービスをお客さまに提供するエコシステムを拡げることを計画している。
また、WaaSエコシステムでは、顧客の属性情報や、顧客が活用する保険・WaaSサービスのデータを、顧客の許諾を経て一元管理し、一人ひとりのニーズに合わせてパーソナライズされたサービスを、人や生成AI等のデジタル・データ技術を使って、消費者や顧客に提案、それを使ってウェルビーイングに貢献してもらうことを目指している。
住友生命では以上のようなWaaSエコシステムの実現に向けて、共にウェルビーイング価値創出を行う共創パートナーを募集している。本記事を見て興味を持っていただいた場合は、ぜひ筆者までご連絡をいただきたい。
エグゼクティブ・フェロー デジタル共創オフィサー デジタル&データ本部 事務局長
1990年、住友生命保険相互会社入社。生命保険基幹システムの開発・保守、システム企画、システム統合プロジェクト、生命保険代理店の新規拡大やシステム標準化などを担当後、健康増進型保険“住友生命「Vitality」”の開発責任者を担当。現在はデジタル共創オフィサーとして、デジタル戦略の立案・執行、パートナー企業や自治体などとの共創活動、社内外のDX人材の育成活動などを行う。
情報システム部 部長代理 兼 デジタル&データ本部 事務局
2006年住友生命入社。生命保険基幹システムのインフラ開発・保守に十数年従事。レガシーシステムの長期安定稼働に向けた要員・システムの維持改善の取組みや、次世代システムインフラへの移行に向けた新技術評価を担当。2022年からインフラエンジニア人材からDX人材へのリスキリングを開始。Vitality DX塾や社外コミュニティーの運営を通じた共創活動を行う。