数あるビジネス書や経済小説の中から、M&A Onlineがおすすめの1冊をピックアップ。M&Aに関するものはもちろん、日々の仕事術や経済ニュースを読み解く知識として役立つ本を紹介する。

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写真とイラストで綴る 買収国電 宮下洋一著、ネコ・パブリッシング刊

鉄道業界におけるM&Aの歴史は長い。1873(明治5)年に日本初となる新橋―横浜間の鉄道を敷設した工部省鉄道寮が官営鉄道の整備を進めたが、日本鉄道(現・東北本線、常磐線、高崎線)や総武鉄道(現・総武本線)、山陽鉄道(現・山陽本線)、九州鉄道(現・鹿児島本線、長崎本線、日豊本線、筑豊本線)などの主要幹線は、その多くが私鉄だった。つまり現在のJR各社の鉄道網の多くは、買収で経営統合した路線なのだ。

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(画像=「M&A Online」より引用)

こうした主要幹線は1906年に成立・施行した「鉄道国有法」により国有化された。

その一方で、その他のローカル私鉄についても戦前から戦時中にかけて、予定線や軍事的に重要な位置にある私鉄路線を国が買収して国有鉄道に編入した。

線路や駅などのインフラはもちろん、車両や従業員を含めてまるごと国有鉄道へ組み込まれ、戦時体制下での輸送を支えた。

しかし、終戦を迎えて混乱期が過ぎると、買収された電車は旧所有私鉄ごとに異なる性能に加えて、ローカル輸送に特化した小型車体などが運用上の問題となる。

国鉄が開発した電車とのリプレース(置き換え)が進むにつれて、こうした「買収国電車両」は各地の私鉄へ払い下げられることになる。

本書では1936(昭和11)年に買収された広浜鉄道(現・可部線)より1944(昭和19)年に買収された宮城電気鉄道(現・仙石線)までの間に国有化された私鉄14社から国鉄に移籍した337両の電車を取り上げ、払い下げ直後の姿から末期の様子までを模型資料の観点から取り上げている貴重な記録集だ。

前半は総論で、私鉄が国有化された経緯や払い下げの実態などについて解説。後半の買収された私鉄の電車を紹介するデータ編では冒頭で各私鉄の歴史に触れ、各社の所有していた車両の製造会社やデザイン、内装、払い下げ先などについて、豊富な写真とともに紹介している。

旧鉄道車両マニアだけでなく、鉄道史や鉄道業界のM&Aを深く知る上での一助ともなる1冊だ。(2023年10月発売)

文:M&A Online