成長記はベストセラー、グッズの売れ行き好調
韓国でスーパーアイドル級の人気を誇るパンダ「フーバオ(福宝)」。ソウルから車で1時間ほどの京畿道龍仁(キョンギドヨンイン)市にあるテーマパーク・エバーランドで2020年に誕生した。今年4歳になるフーバオは韓国で初めて自然分娩で誕生したパンダとあって、韓国の人々はフーバオの誕生から成長の過程を共に見守ってきた。
飼育員になつき、じゃれて、一緒について回る様子は、愛らしさ満点だ。「お姫様」の愛称で親しまれるフーバオの日課は竹を食べたり、ゴロゴロ寝転がって遊ぶこと。専用ユーチューブに公開された動画は、累計再生回数が1億回を上回る超人気コンテンツとなっている。
飼育員とフーバオの関係をおじいちゃんと孫に見立てたのも当たった。おじいちゃん飼育員が綴ったフーバオ成長記や写真集はベストセラー入り、関連グッズも高い売り上げを誇る。今や恋煩いならぬ、「パンダ煩い」と称されるほど、多くの人がパンダの虜となり、パンダブームが過熱しているのだ。
理由はそれだけではない。フーバオは今年4月に中国に返還されることが決まっており、公開は3月3日までと発表された。返還前にフーバオの姿を一目見ようと、テーマパークには観覧客が殺到し、パンダ館には開館と同時に連日、大行列ができている。訪れる人の数は前年同時期に比べ1.5倍に増えたという。
中国外交の象徴なのに“異変”
世界中で愛されているパンダ。中国は友好の証としてパンダを外交に活用している。いわゆる「パンダ外交」だ。1972年にはニクソン米大統領(当時)が初めて訪中し、米中が国交正常化に動き出したのに伴い、2頭のパンダが米国に贈られた。日本では上野動物園にランラン・カンカンが登場し、日本でパンダブームが沸き起こった。中国の対外イメージ貢献にパンダがどれだけ大きな力を発揮してきたかがわかる。
1980年代以降は、ワシントン条約でパンダを含めた希少動物の譲渡が禁じられ、貸与の形が取られている。パンダの貸与期間は10数年で、現地で生まれた子供は満4歳になる前に繁殖のため中国に返還される。上野動物園の人気者だったシャンシャンもこの取り決めにもとづき、四川省にある中国ジャイアントパンダ保護研究センターに引き渡された。韓国のフーバオも同じ場所に送られる予定だ。
ただ、米中対立の激化に伴ってパンダ外交にも変化が生じている。2023年11月には米首都ワシントンの国立動物園で飼育されていたジャイアントパンダ3頭が、中国に返還された。アトランタの動物園に4頭が残っているが、2024年には貸与期限が切れるため、50年ぶりに米国からパンダがいなくなるおそれが出ている。英国やオーストラリアでもパンダの貸与期限が近づき、米英豪からパンダが姿を消す事態が取り沙汰されている。
日本で見られなくなる?
現在、韓国にはフーバオ以外に4頭のパンダがいる。フーバオの親パンダ2頭と2023年7月に誕生した双子パンダだ。親パンダの2頭は2016年に中国から貸与され韓国にやって来た。15年後の2031年までは韓国にとどまる。双子パンダの公開も始まっており、フーバオが中国に返還されても、韓国でパンダが見られなくなる事態は当面なさそうだ。
一方、日本はどうか。日本には現在9頭のパンダがいる。まず、上野動物園の4頭のうち、リ―リーとシンシン(真真)は2026年2月に返還期限を迎える。2021年に誕生したシャオシャオ(暁暁)とレイレイ(蕾蕾)は4歳となる2025年が返還のメドと見られる。和歌山のアドベンチャーワールドの4頭は、いつ返還されるのかはっきりしない。神戸にある王子動物園の1頭は高齢で2024年末に返還される見通しだ。
パンダの返還は中国との交渉によっては延長も可能だが、それも政治情勢に左右される可能性が高い。東京電力福島第一原発の処理水放出や、その後の日本産水産物の輸入停止などにより日中関係は悪化し続けている。このままでは日本でもパンダが見られなくなる日が来るかもしれない。
経済的にも政治的にも世界の大国となった中国が、力で現状変更を推し進めようとすれば、国際社会の反発は免れない。そのマイナスイメージはパンダによるソフトパワー外交では到底カバーしきれないだろう。
「パンダ外交」が友好の象徴から政治的圧力に変わることがないよう望みたい。